お伝えしたいことをお先に書きますと、「中小企業の社長は業務執行の現場に入っても、問題発見あるいはその可能性のあることを見つけようとはすれども、即座に個別具体的な解決を自ら実行するのではなく、一歩踏みとどまってミドル層とよく話し合い、個別事象の解決は任せ、社長自身は全体的・構造的な解決策を展開すべき」です。
予めそもそものスタンスを述べておきます。やや極端ですが、「中小企業は経営と執行を分離しなくてよい」と考えています。昨今の「ガバナンス」では「経営と執行を分離せよ」と盛んに言われているため、疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。ただこれは上場企業を始めとした規模の大きな会社で、業務執行のシステム、つまり、各部門の長がしっかりとおり、経営管理や業務管理、報連相や意思決定の仕組み、内部統制、リスク管理等々の「体制」が整っている場合に限ると思います。
中小企業においては必ずしもこれらの条件に当てはまらないとするなら、この分離よりももっと気にされた方がよいことがあるだろうと感じ、むしろ社長が業務改善や改革など様々な現場ごとを率先・主導する方がメリットがある場合が多いと思っています。
さて本題に戻りますが、一例を挙げます。とある広域展開している企業で、社長が各地の現場スタッフ(製造やサービスの最前線のスタッフや管理スタッフ)の会議に出席するなどして、理念や方針、ビジョンなどを直接に伝えるとともに、今現場で何が起きているのかなど「現場の声」を聞こうとされていました。好ましいことと思います。気になるのはここからです。社長は現場の管理的業務や最前線スタッフへの支援業務にムリ・ムダ・ムラがある(=問題がある)と感じたため、IT部門を始め、関連する他部署に社長が自ら指示し、今起きている事象の解決策を具体的に指示し、その策の実行をスタートさせました。社長の指示ですから、各部署にとっては最優先事項となり、(ルーティーン業務ではないものの)他の業務を繰り下げてまで取り組むこととなりました。結果として、それら着目した業務は効率化され、一定の問題解決がなされました。
しかしです。「現場は、社長には実情を話すが部署のトップなど直接の上司陣にはあまり語ってくれない」であったり、社長は社長で「ミドル層は現場の実情を把握できているのか、問題解決しようとしているのか」「ちゃんと育っているのか」と懐疑的になってしまいました。
「社長がミドル層を飛び越えてあるいは十分なコミュニケーションを取らずに現場に対してアクションし過ぎてしまうことの弊害」と言えばそれまでですが、上記にはいくつか気になることがあります。たとえば次などです。
①社長は必ずしも全能ではなく、社長が「問題だ」と思ったことはまだ仮説であり、十分な議論(検証)を経ていないので、今取り組むべき重要性・緊急性の高いことであるかはわからない。
②解決策についても、今取れる最善手かどうかわからないし、現場部門が着手していないとすれば、たとえばその他取り組むべき課題があって、比較・優先順位を付けた結果、今取り組んでいないのかもしれないが、それが判明していない。
冒頭の「お伝えしたいこと」に戻ります。
社長は現場回りで把握した「問題」や発想した「解決策」をミドル層を集めて提起し、それを1意見として実際の「問題定義」と「解決策の立案・実行」は任せてみるのが望ましいと思います。そしてその進捗を適切にモニタリングするわけです。
一方で、経営目線に立ち、次のような問題提起をして取り組むことが望ましいと思います。
不断の改善文化をどう育てるか
<例>
・社員が「もっとよくできないか」と気がついて声を上げやすい状態を作る
・「言い出しっぺがやらされる」という慣習の打開 など
組織や人員体制の面から抜本的に体制強化できないか
<例>
・IT部門が社内業務向けアプリケーションを現場要望から受け身的に開発するだけでなく各業務に積極的に踏み込んで「業務改善」の動きができるように体制強化する
・業務改善コンサルのような動き方をする人材を採用する/定期的に部署異動する など
年間計画の段階から誘導できないか
<例>
・各部署が毎年、「業務改善」という施策の柱を必ず立てるようにする/考えさせる
・業務改善のための年間予算を明確に確保する など
実際には、社長・経営陣が主導する解決策の内容が正解で、問題解決にも近道なことが多いとは思いますが、前述のようなデメリットも踏まえていただき、バランスを取りながら進めていただければと思います。