日々の経営実践の中で、実践がうまくいった、あるいは、今うまくいっている、と実感する時があると思います。これを「成功体験」と、経営を評論する方々はこの語をややもするとネガティブな意味合いで使う場面が多いように感じます。
果たして否定的なことばかりなのでしょうか。
否、そこに丁寧に向き合うことで、「実践の次の一手を考える一助になる」が本日のメッセージです。
■悪者にされることもある「成功体験」
経営の文脈でこの語が使われるとき、「過去に成功したやり方にこだわるあまり、変革や成長の足かせとなっている」という否定的な意味を伴うことがあります。
これを、事業環境、経営のやり方・施策、という2つの要素を使いつつ簡略化して見ていくと…
経営者の「成功体験」: 経営のやり方・施策K → 成功
実際の成功方程式 : 事業環境A + 経営のやり方・施策K → 成功
経営手腕で成功したことは間違いないですが、そのやり方・施策が奏功した背景には、“その当時の”事業環境Aがあって、そこに適合(マッチ)したからこそではないでしょうか。
前述の否定的な意味で使われる「成功体験」とは、実践の当時は事業環境を読み取って展開していたはずが、その後年月が経ち、事業環境との紐づけが薄れて経営のやり方・施策の記憶・経験だけが残ってしまった状態なのだろうと推測します。
ここまでは過去の話ですが、今後を考えるときに大事な要素は「事業環境」です。
「成功体験」において事業環境との紐づけが薄れた結果、環境の変化(A→B)が見落とされ、従来のやり方Kで成功するはず、と思いやすくなるのかもしれません。
経営者が考える今後: 事業環境B + 経営のやり方・施策K → 成功するはず
実際考えるべきこと: 事業環境B + 経営のやり方・施策L → 成功?
本来考えるべきは、新たな事業環境Bを捉え、そこに適合したやり方・施策だと思います。ただし注意すべきは、環境変化が即、全く新しいやり方・施策を意味するわけではないこと。L=Kかもしれないし、Kからの多少の変更かもしれません。
■「成功体験」の読み解きで次の一手を
「成功体験」をやり方・施策の点だけで捉えてしまうと本来は貴重な経験を活かし切ったり、再現性をもたせることは難しいと思います。
そこで、①「成功体験」は過去の事業環境とのセットで棚卸しするとともに、②事業環境を現在と過去の対比で捉え、これらを素材に今後の打ち手を考えてはいかがでしょうか。それにより、やり方・施策のうち、何を変え、何を変えないべきかがクリアになるかもしれません。
なお、事業環境の変化(A→B)は次の観点で整理されたらよいと思います。
・誰の何が変化したのか(変化していないのか)
・企業への要求はどう変化したのか(変化していないのか)
・変化は一時的なのか、継続的なのか・加速的なのか
最後に、やり方・施策とも関連が深い「自社の強み」については別の回で述べたいと思います。