突然の「戻ってくれ」という父の連絡。待っていたのは絶望的な状況だった。
▲リニューアルオープンした平店店内での小野崎さん(左)と増田(右)
小野崎さんは、地元を離れて東京の大学を卒業後、自分で起業を目指し、ある流通企業で働いたあとUターンして飲食店の開業準備を進めていました。
小野崎さん「そのとき、突然父から連絡があったんです。人が一気に辞めてしまったので、戻ってきて手伝ってくれないかと。驚きましたが、小さいころからいつかお前が継ぐんだぞと言われて育ってきた家業ですから、今までしていた起業の準備をストップし、家業に入ることを決意しました。もともといつかは継ぐつもりで、それまでは自分で事業を興してみようと思っていたので、それが思った以上に早まったということになるのですが。」
しかし、覚悟を決めて23歳で家業に入ったおのざきさんを待っていたのは、想像以上に危機的な経営状況でした。
小野崎さん「一言でいうと絶望、ですね。決算書もたいして読めるわけではなかったのですが、それでも見て、これはとんでもないと思いました。決算書を握りしめて、誰に相談すればよいかもわからず、駆け込んだのは日本政策金融公庫さんです。そこで、対応された公認会計士の方に、この状況から自助努力で復活した例は見たことがない、と言われました。そこで、落ち込むのではなく、じゃあ自分でやってやろうと、そういう気持ちになったのです。」
小さいころから親しんで育った「おのざき」の店は、日本人の魚離れに、震災後の業績低迷、そこからの従業員の大量離職、大きな赤字と人不足でどうしようもない状況になっていました。しかしここで、「やってやろう」と思えるのが小野崎さんという方なのでしょう。
小野崎さん「まずは社員の面談、現状把握を行い、自分なりに考え、行動しました。無駄な経費の削減、不採算な事業の撤退を1年かけて行い、粗利をなんとか上げようと。1年で赤字は半分以下になりましたが、まだ数千万の赤字の状況でした。これ以上どうしたらいいのかと思っていたときに、知人の経営者の方から絶対相談したほうがいい、と勧められていた小宮コンサルタンツさんに相談してみようと。藁にもすがる思いでした。そこで増田さんに話を聞いていただいたのです。」
増田「お話を伺って、まずはこんなに若い方がとびっくりしました。そして本当に何とかしたいという想いが伝わってきて、これはご支援したいと。一緒にまず財務状況を確認し損益分析を行いました。しかし、小野崎さんがすでに取り組まれていたこともあり、これ以上コストの削減の余地はないと思いました。ですので、とにかく売上を上げることを考えましょうと。まずは付加価値をどうしたら上げられるかということを考えましょう、ということを一緒に決めさせていただきました。」
一緒に考え、相談できる人ができたことで、やるべきことが明確に。
小野崎さん「自分でも色々考えていることを、増田さんに相談する、というスタイルで定期的に面談を始めました。増田さんには考えを整理してもらえます。例えば一つのアイデアについて話すと、増田さんは、それはお客さまにとってはどうですか?従業員さんにとっては?地域にとっては?と切り分けて整理をする。そういった対話のなかで、意思決定の精度が高まりました。キャッシュフロー経営のことや事業計画の作り方なども教えてもらいました。」
相談した翌年には、初めての事業計画ができあがります。
増田「まだコロナの影響がある期間でしたので、従業員の方を分けて、同じ話を4回、オンラインを使って私からも従業員の皆さまに説明しました。従業員の皆さまは初めて聞く数字の話に戸惑われたりしているようでしたが、熱心に聞かれている様子も見えて、これからが本当のスタートだなと身が引きしまるような思いでした。」
そして、付加価値をあげるために考え抜いたことは、お客さまにとって「おのざき」はどうありたいのかということでした。
小野崎さん「増田さんと会話していると、必ず、お客さまにとっては?という問いが出てくるのです。お客さまに喜んでいただいた結果が売り上げです。喜んでいただくための工夫がすなわち利益につながるのです、ということを教えてもらいました。」
小野崎さんと増田は、他のスタッフも連れて、東京の鮮魚店巡りをしたこともあります。様々な店舗を回り、陳列やサービスの工夫、売り方の工夫を見て、これからの「おのざき」の姿を考えました。
増田「実際のお客さまの目線を持っている人を、と思い、弊社の女性のコンサルタントにも当日来てもらって、いろいろと気づきをもらいました。魚は家族に食べさせたいとは思うが、調理方法なども今の若い人はなかなか詳しくない。切り身ならまだしも、丸魚をどうやって買ったらいいのか、捌き方も調理法もよく良くわからないので敷居が高いという意見ももらいました。一方で、色々な丸魚が並んでいる様子や、魚を捌く様子を見るのは子供たちが喜ぶと思うので、家族で行けるような雰囲気にすればいいのではなど、色々な意見交換ができました。」
小野崎さん「増田さんはもちろんですが、小宮コンサルタンツの他の皆さんも協力頂いて、みんなで応援して頂いていることを感じます。有難いです。」
実は、旗艦店である本店の平店については、すぐ近くに大型のショッピングセンターが建つ予定が決まっていたこともあり、当初は閉めることも本気で検討をしていました。
しかし、お客さまのことを考え、事業計画をつくっていく過程で、一転して平店を大規模改装し、お客さまにとって、「おのざき」としてありたい姿を実現しようということに決まっていきました。
100周年を迎え、歴史へ想いを馳せながら、未来へ新しいスタートを切る。
走り続けるなかで迎えた創業100周年。この機会に企業ロゴを刷新し、増田もご支援しながらバリュー(行動指針・自社の価値観)を見直すなど、この機会を活かしきりましたが、そこには創業からの歴史に想いを馳せる姿勢が生まれていました。
小野崎さん「反省をしたのです。危機感を煽り、未来のことを話しすぎました。新しい人も入ってきていますが、古参の社員には、ついていけないと辞める人も多くでました。100周年を機に、創業以来のことを振り返ってみようと。」
増田「私は歴史がもともととても好きなのですが、企業がビジョンを描くには、創業者から続く過去からの歴史や想いをしっかり受け止め、理解して、そのうえで描くべきだと思うのです。そこにその企業ならではのオリジナルのストーリーや価値が生まれると思うのです。」
小野崎さん「創業からの想いを紐解き、古参の社員や先代に色々と話を聞きました。自分の知らないエピソードや生き生きとした「おのざき」と小野崎家の歴史がそこにあり、古いアルバムをめくるうちに、この100年の歴史をしっかり受け止めたいという気持ちが強くなりました。色々と昔のものを掘り返していたら、私が小学生の時に書いた<将来の夢>という文章も出てきたのです。<ぼくは魚屋の社長になります。いらっしゃい!>と書いてありました。
100周年を超えている会社は全体の2、3%しかないそうです。すごいことですよね。心からそう思って、社員には心から感謝を伝えました。でも、変わるべきところは変えなければいけない。だから社員には、おかげさまで100周年を迎えた、さあ、次の100年をつくろう、と呼びかけました。今までの100年を土台として、その上に作るのです。良い方向に色々変える機運を高めるためにも、良い機会になりました。」
また、この新しい次の100年の構想には、小野崎さんだけでなく、奥さまの永理さんも大事な役割を担われているそうです。
増田「小野崎さんと面談するときには、永理さんも一緒に入られます。一緒に会社に入って働いておられ、一緒に考え進んでおられるのが良く伝わってきます。店頭等でのお客様対応に加え、ブランディングや、社外へのSNSの発信、通販事業での商品開発なども永理さんが多くかかわっておられるそうです。小さなお子さんがいらっしゃるので、お子さんに常磐ものの美味しさを残すということも考えておられるようですね。小野崎さんもそうですが、永理さんも相当なバイタリティを持たれていると感心しています。」
「お客さま視点を学び続け、規律をまもる」人と組織を作る人材育成
▲管理職研修の様子
大きな混乱期を経て、おのざきの社員も多くの人が入れ替わりました。新しい人が増えるなかで、小野崎さんは人材教育が大事だと気付いたそうです。
小野崎さん「社員のことを考えるなかで、やはり人が大事だということを痛切に思うようになりました。自分だけがああしろ、こうしろと指示を出しても人は動かない。自分も若いですし、感情的にも難しいと思います。お客さまがどうしたら喜んで頂けるか、現場において、自分で考えて動ける人が必要です。きちんとしたサービスを届けるうえで、組織における規律も自らまもれることも大事だと思いました。どうしても今までの魚屋の職人的意識だけでは足りない、そう思い研修を始めたのです。
その研修にも増田さんにやって頂くことにして、まずは管理職に向けて研修をお願いしています。その研修を始めて、本当にえっ、というぐらい変化がみられているんですよ。お客さま視点という言葉が幹部からどんどん出てくるようになったし、自発的な取り組みがみられるようになりました。タブレットで売り場の写真を報告してもらうようにしているのですが、明らかに売り場が以前と違うのが一目で分かります。」
増田「管理職研修は毎回訪問して行っています。経営幹部向けの良いテキスト等を読んで頂き、自分で考え、グループワーク等で意見交換をして頂くような形式で行っています。どんな問いかけをするとよい議論ができるだろうかと考えながら組み立てていますが、毎回活発な意見が出ます。皆で一緒に学ぶことで共通言語ができますし、自分で考え、アウトプットすることが本当の学びにつながると思います。実際に皆さんに変化がみられるというお話は本当に嬉しいですね。」
マネージャーの成長を感じ、皆で取り組むことの大切さを感じた小野崎さんは、最新の経営計画書の策定には各店舗のメンバーを巻き込んだそうです。
おのざきの次の100年をつくるために、挑戦はこれからも続く。
そして、直近期ではついに赤字も解消することもできました。
平店も見違えるような店舗にリニューアルし、名物のかつおの火山(ひやま)ショーの迫力は家族連れにも人気だそうです。平店のリニューアルでは、クラウドファンディングも活用しました。費用を集めることよりも、ファンを増やしたい、つながりを増やしたいということが小野崎さんの狙いだそうです。
▲店内のかつおの火山ショーの場所の前で。窓いっぱいに大きな炎が燃え上がります。
小野崎さん「まだまだ課題は多くありますが、次の100年を本気でつくっていきたいと思っています。とにかく走りながら色々蒔いていた種が結びきましたし、人の出会いとご縁があったからこそ、ここまでこられたと思っています。増田さんとの出会いもその一つですね。」
若くエネルギーが溢れる小野崎さんと、やや年ははなれ落ち着きのある増田。小野崎さんが途方に暮れ、苦しいときに出会ったときから、今までを振り返ってみて、お互いにとってどんな存在なのでしょうか。
増田「本当に出会った時から熱意のある方でしたが、何も経験のないところから、ここまで考えぬいてこれだけの行動量をこなされてきて、本当に私が言うのもおこがましいのですが、経営者として考え方に芯が通られたように感じます。まだお若いので、本当にこれからが楽しみですし、私もお役に立つ限り、おのざきさんの次の100年をつくるお手伝いが出来たらと思っています。」
小野崎さん「増田さんは本当にこれまでの経験も豊富で多角的な視点をお持ちですし、びっくりするほどの読書家で勉強されているので知識も豊富。それでいて、何でも相談できるような雰囲気であるのが有難いです。近寄りにくいコンサルのイメージがない。経営については人のことや資金繰りのことなど、本当に分かっている人に聞かないと分からないことが多い。そういうときに、何でもすぐ相談できる相手が増田さんです。いてもらえるだけで頼もしい。そういう存在です。」
常磐ものの魅力を発信し、日本人の魚文化を改めて広げ、いわきの街を元気にしたい。そんな小野崎さんの想いを実現するために、おのざきの次の100年をつくる挑戦は続きます。