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賽(さい)は投げられた

今週の「言葉」
2025.01.29

この言葉は、古代ローマの名将であり政治家であったカエサル(シーザー)が放ったとされる有名なフレーズです。「運命は動き出した以上、もう引き返すことはできない。進むしかない」という覚悟を示しています。ビジネスの世界でも重要な局面において、意思決定が求められるとき、共感できる言葉ではないでしょうか。

この言葉が生まれた背景は次のようなものです。

ローマの権力者の一人だったカエサルは、ガリア(現在のフランスやドイツの一部)遠征を成功させ、その名声を高めていました。しかし、古くからの貴族で構成される元老院や、ライバルの武将ポンペイウスは、カエサルの急成長を快く思わず、対立が深まります。

元老院はカエサルに対して、軍を解散して単身でローマに戻るよう命じました。これは、軍を失うことでカエサルが権力基盤を失い、政治的影響力を削がれることを狙った策略でした。一方で、もし命令に逆らい軍を率いたままローマに入れば、それは反逆とみなされる危険がありました。カエサルにとって、どちらを選んでもリスクが伴う難しい状況だったのです。

決断の場となったのは、ローマの国境に位置するルビコン川でした。この地でカエサルは叫びます。
「賽は投げられた!」
「賽」とはサイコロを指し、この言葉には「勝負を仕掛けた以上、もう後戻りはできない」という覚悟が込められています。

カエサルの決断は迅速でした。軍を率いてローマへ進軍を開始すると、元老院もポンペイウスもその勢いに抵抗できず、次々と逃げ去ります。最終的にカエサルは政敵を打ち負かし、ローマの権力を掌握。「終身独裁官」に就任するまでに至りました。その後、残念ながらカエサルは暗殺されますが、彼の志は引き継がれ、ローマは後に「ローマ帝国」として歴史に名を刻むことになります。

「賽は投げられた」というカエサルの言葉。経緯だけを追うと、一か八かの賭けに出たように感じるかもしれません。

しかし、カエサルが確信もなくこの言葉を叫び、ルビコン川を渡ったとは考えにくいのです。むしろ、彼には勝利への自信と冷静な計算があったのではないでしょうか。

その裏付けとなるのが、カエサルのこれまでの戦場での経験と実績です。ガリア遠征では、異民族との数々の戦いを勝ち抜きました。カエサルは戦場で自ら先頭に立ち、兵士を鼓舞しながらも、状況を的確に判断して勝利を重ねています。その結果、彼は司令官としての圧倒的な能力を証明し、敵からも味方からも一目置かれる存在となりました。

さらに、カエサルは兵士たちから絶大な支持を得ていました。これは、単に勝利を収めたからだけではありません。彼は日ごろから兵士たちを「兵士諸君」ではなく、「戦友諸君」と呼び、仲間として接していたのです。この親しみや信頼を大切にする姿勢が、兵士たちに「カエサルと共に戦いたい」という思いを抱かせました。戦場で築かれたこの絆こそ、カエサルが絶対的な支持を得た理由の一つです。

カエサルには軍事的な能力と実績、そして何よりも人々からの強い支持がありました。それらが「ルビコン川を渡る」という決断を支えたのでしょう。カエサルにとって、この行動は単なる賭けではなく、勝利への確信に基づいた一歩だったのです。

私たちがビジネスの現場で難しい意思決定を迫られるとき、それが賭けのように思えることもあるでしょう。しかし、本当に成功を目指すなら、それは「賭け」であってはいけません。

決断の前には、自らの能力や実績、そして周囲からの支持を冷静に把握することが必要です。カエサルが自信を持って前進できたのは、そうした土台がしっかりしていたからこそです。同様に、私たちも成功のための準備と根拠を整えたうえで、力強く進むべきではないでしょうか。


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