日本の政策金利は1月の日銀の政策決定会合で、上限を従来の0.25%から0.5%まで引き上げられました。政策金利とは、1日だけ銀行間で貸し借りする金利(コール翌日物金利)を指します。その市場に日銀が毎日介入して、上限金利を超えないように資金の供給または吸い上げを通じて、金利を調整しているのです。
この超短期の政策金利を調整することで自由金利であるその他の金利の水準をある程度誘導しているのです。1日という超短期の金利をちょうど押しピンで止めるように固定して、残りの期間の金利を誘導しているとも言えます。ですから、政策金利が上がると、それ以外の期間の金利も上昇する傾向にあります。
そして、現在上限0.5%の政策金利がさらに上がりそうです。いくつかの理由があります。ひとつは日本のインフレ率(生鮮除く総合指数)が昨年12月で前年比3.0%にまで逆戻りして上昇したことがあります。2023年1月に4.2%でピークをつけたインフレ率ですが、その後徐々に下落し、昨年1月には2.0%まで下落しました。しかしその後は、ガソリンや電力・ガスなどに補助金が出ていたにも関わらず、インフレの粘着性が高く、先ほども述べたように、昨年末には3%に逆戻りしていまいました。
企業の仕入れを表す「国内企業物価」も昨年12月で3.8%と高く、運送などの「企業向けサービス価格指数」も3%程度の上昇が続いています。0.5%の政策金利では、このインフレには十分に対応できていません。
さらには、米国の景気は11四半期連続で拡大しており堅調で、現状4.25%~4.5%の米国の政策金利が下がりにくい状況にあります。この状況では、上がっていると言ってもまだ低い日本の金利との差が大きく、円安が十分に修正出来ていない状況にあります。一時150円を切る程度まで円が上昇しましたが、まだまだ十分な水準ではありません。日本経済のためにはもう少し円高に振れたほうがいいと考える人は少なくなく、そういった面でも金利の上昇が必要です。
したがって、この先日本経済に大きな問題が生じなければ、政策金利が上昇することが想定されます。最近の複数の日銀の政策審議委員の発言を見ていても、日銀としても結構強気に「中立金利」に向けた金利上昇に動く意思が読み取れます。中立金利とは、景気を過熱も冷ましもしない金利で、現状は1%程度と日銀は考えているようですが、もう少し高いレベルを想定している人も少なくありません。
このことを考えれば、現状0.5%の政策金利は、今年末には1%程度まで上昇すると考えられます。長期金利もこのところは1.4%を超える水準で推移していますが、さらに上がることが予想されます。
これにより、メリットのある人とそうでない人が当然います。高齢者は平均的には預貯金の保有が若年層より多いので、2000万円ほど預貯金を持っていると、1%の金利の上昇で年間20万円(税が20%かかる)の収入が増えます。
一方、変動金利で住宅ローンを抱えている、あるいは今後住宅ローンを組む予定の若年層には不利に働きます。3000万円のローンを組めば1%の金利上昇は年間30万円の負担増となります。さらには、有利子負債の多い企業には当然負担増となります。営業利益率の低い企業では有利子負債の残高によっては利益が吹っ飛ぶところも出てきます。
いずれにしても、今後、金利の上昇は不可避だと考えます。それに備えた人生設計や企業経営が必要です。
小宮 一慶