「お客さま第一」を標榜している会社は多いと思います。むしろ、そう言っていない会社はほぼ皆無だと思います。お客さま第一を徹底して行うと、もちろん、お客さまが喜ぶ商品やサービスにつながりますから、業績は当然のように良くなります。
私も当社の若手のコンサルタントに、「会社の見方が分からなかったらとにかく、『お客さま第一』かどうかだけ見てくるように」とアドバイスしています。ピーター・ドラッカー先生も「企業の一義的な存在意義は、企業外部にある」と喝破されているように、企業外部、つまり、お客さまに価値を見出されない限りは、会社は存在さえおぼつかなくなります。
そういった意味で「お客さま第一」というのは、ある意味絶対の原則であると言えます。それに関してドラッカー先生は「特有の使命を果たす」という表現をされてもいます。企業やその経営をつかさどるマネジメントの使命として「特有の使命」つまり、お客さまや社会に対して、その会社しかできない商品やサービス、あるいは価格を提供することが、企業の存在意義の一番目ということです。それこそが「お客さま第一」であるわけです。
一方、残念ながら、お客さま第一を実践しながら、従業員が疲れている会社をよく見かけます。お客さま第一をある程度やっているので、業績は比較的堅調ですが、従業員が疲弊しているのです。
私は良い会社かどうかを見分ける一つのポイントとして「離職率」を重視しています。どんなに業績の良い会社でも離職率の高い会社はそれほど評価していません。それは、従業員が仕事に満足していないからです。幸せでないからです。
私は、会社が従業員に与えられる幸せは、①働く幸せ(つまり、働きがい)、②経済的幸せというふうにいつも説明しています。そして、この順番が大切という話をします。業績が良い会社ならある程度の給与は支払われていると思いますが、働きがいを感じないと続かないのです。お客さま第一と言いながら、目標の数字ばかり、あるいは厳しい管理の下では、人は次第に働きがいを見出せなくなってしまいます。
私の人生の師匠、曹洞宗円福寺の故・藤本幸邦老師は「お金を追うな、仕事を追え」とおっしゃっていましたが、数字ばかりを追いかける会社や従業員は不幸です。お客さま第一なら、お客さまが喜ぶ行動に集中すべきで、数字はその結果や評価なのだということを十分に認識していなければなりません。
そして、最も大切なことは、お客さま第一の行動そのものが、「同時に」働きがいを生んでいるかどうかということです。
お客さま第一を標榜しながらも、働く人のモチベーションアップに苦労している企業が少なくありませんが、知らず知らずのうちにお客さま第一より「数字第一」になっているのではないでしょうか。お客さまが喜んだり、働く仲間が喜ぶような本当に良い仕事をしていれば、働きがいを生み、自然にモチベーションが上がるものなのです。
私の親しいお客さまに、辞めた人が何人も戻ってきた会社があります。もちろん離職率は格段に低いです。お客さま第一や働く仲間に喜んでもらうことを真に追及することで働きがいを生んでいるからです。逆に言えば、辞めた人が他社では働きがいを感じられなかったのでまたその会社に戻ってきたのです。「お客さま第一」と「働きがい」が同時に実現できる会社が良い会社です。そのためにも「お金を追うな、仕事を追え」が大切です。
小宮 一慶