ー孔子
この言葉は、古代中国の思想家・孔子の言行録『論語』の一節です。前文も含めると、次のようになります。
「その身正しければ、令せずして行わる。その身正しからざれば、令すといえども従わず」
現代語訳:「上に立つ者のあり方が正しければ、命令せずとも人々は自然に従い、物事は円滑に進む。反対に、その身が正しくなければ、命令しても人々は従わない。」
この言葉を今回ご紹介したいと思ったのは、先日、ある企業でトップ営業として活躍されている方から、印象的なお話を伺ったからです。
「営業では、どんなによい商品・サービスを提案しても、お客さまの担当者が時間を守らなかったり、お問い合わせやクレーム対応に誠実さを欠いていたりすると、お客さまはその提案を受け入れてくれません。一度購入しても、継続的な関係にはつながらないんです。」
このお話を聞いたとき、私は自然と「その身正しからざれば、令すといえども従わず」という言葉を思い出したのです。
『論語』のこの一節は、本来「上に立つ者の振る舞いが正しくなければ、人は従わない」という意味ですが、私はこの教えを、リーダーシップに限らず、誰かに何かを提案・提言するときの姿勢にも当てはまると感じています。
つまり、自分自身の在り方が正しくなければ、どんなに良い提案をしても受け入れてもらえないのではないか、ということです。
では、「自分の在り方が正しい」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか?
ここでは「対社会」「対組織」「対メンバー」の3つの側面から考えてみたいと思います。
- 対社会
社会で定められたルールを守ることが求められます。
法律の遵守は当然として、社会全体で「守るべき」とされているマナーや倫理にも配慮する姿勢が大切です。
たとえば、時間や納期を守らない、お客さまからの要望やクレームを無視するような行動は、「正しい」とは言えません。
- 対組織
組織内のルールや規律を守ることです。
特にリーダーの立場にある方は、公私混同を避ける姿勢が欠かせません。
たとえば、会社の資金を私的に利用するような行為は、当然「正しい」とは言えません。
- 対メンバー
一緒に働くメンバーに対して、思いやりと尊重の気持ちをもって接することが大切です。
人格を否定するような言動や、メンバーを軽んじる態度は「正しい」在り方とは言えません。
このように、対社会、対組織、対メンバーのいずれにおいても、誠実で正しい行動を重ねることで、周囲の信頼を得て、提言や提案も受け入れられるようになります。
反対に、正しさを欠いた行動をしていれば、どれだけ優れた提案をしても、周囲に響かず、結果として機会を逃してしまうのです。