―柳井正氏「経営者になるためのノート」(PHP研究所)
弊社の研修でよく使用しているテキストに、ファーストリテイリング柳井正さんの「経営者になるためのノート」があります。柳井さんが自社の幹部・経営陣を育てるために作成した内容を原本とした書籍です。ドラッカーの著書を相手に深く問いながら経営をされてこられたという柳井さんの言葉からなる本書は、ドラッカーと柳井さんの経験を合わせて学びを得られる、またとないテキストだと思います。
その本のなかで「チームを作る力」のひとつの項目として挙げられているのがこの言葉です。毎回、研修のなかで、受講者の方たちから微妙な反応が返ってくるのがこの箇所です。皆さん、普段から本当に部下の方との接し方には悩みの多い方たちばかり。今の若手とのコミュニケーションの難しさ、プレイイングマネジャーとして向き合う時間が作れない悩みなどがあるなかで、この言葉にはどうも引っかかってしまうようです。
実際には「いやさすがに、ここまでは無理です。でも、できる範囲で向き合うようにはしています。」という言葉が返ってくることが多いように思います。
柳井さんは続けてこうおっしゃっています。
リーダーは、一人の上司として部下に関わるときには、部下に対して、その人が納得するまで100パーセント全力で関与する。これ以外にありません。
(中略)
表面上だけ付き合ってその人が変わるきっかけになるということは、人間関係においてありえないことです。
(中略)
最も大切なことは、本当に部下のためを思って向き合うということです。
そしてそれは、本当に相手の立場になって話を聴くこと、正面から受け止めて、自分のすべてを総動員して考えるということなのである、ということがその後に続けて書かれています。
いかがでしょうか。正直なところ、なかなかにハードだ、と感じられる方も多いと思います。
しかし、相手の心を動かし、変えるには相当のエネルギーが必要だと柳井さんは言います。確かにこれくらいしないと相手に本当の意味で働きかけることはできないのかもしれないと思います。
上司も部下も、大人になって出会う他人同士です。おいそれとそれぞれの姿勢や考え方が変わるものではありません。ですが、チームとして同じ目的をもって一緒に動くために、本当に必要ならこれくらいの覚悟をもって臨むことが必要であり、そうでもしないと相手が動いたり、本当の信頼関係は培うことには繋がらない、と過去の自分の拙い経験を振り返っても実感するところがあります。
100%は、時間配分の問題ではありません。その相手に対して考えること、そのときに自分の気持ちをすべて向かわせるということです。難しいことのように思いますが、例えば私は自分の子どもたち3人に対し、3人いるから33.3%ずつ、ではなく、一人ひとりそれぞれに気持ちは100%向けていると思えています。複数いても、相手への向き合いが減るものではないという感覚は理解できます。
柳井さんほどの人は部下と呼べる人が一体何人いるのでしょうか。その数をもって、彼が100%というのですから、その熱量と思いに背筋が伸びる思いがします。
大切なことは、相手が、ああ、この人は本当に心から自分のことを考えてくれているのだ、と感じるかどうかです。手抜きはやっぱり伝わるように思います。
そしてこれは、今のリーダー層が戦々恐々としている、今の若い人との向き合いにおいてもきっと通じるのではないかと思います。
リーダーである皆さまには、部下との向き合いについて今一度どうありたいかを考える機会となれば幸いです。