中堅・中小企業の経営者の方とお話をしていると「管理職になりたいという人が少ない、むしろなりたがらない」ということが話題になることがあります。
そこで今日は、なぜ中堅・中小企業では、管理職になりたがらない人が多いのかについて考えたことを事例も踏まえてお伝えできればと思います。
■A社でのヒアリング
A社において社員の方々に仕事についてヒアリングをする機会がありました。その一つの目的が、次世代の管理職候補を見つけたいというもの。
実際、ヒアリングをすると
「管理職はとても忙しそう」
「管理職のZさんは優秀でハードワーカーだからできるけど、私には無理だと思う」
「実際、どんな仕事が任されるのかが見えなくて怖い」
という声が返ってきました。
実はこの会社、これまで何人かを管理職に抜擢をしたこともあったのですが、その方々はその後、退職することになったり、体調を崩したりとうまくいっていませんでした。
また、管理職として活躍ができているZさんは、先が見えない中でも挑戦をしていくマインドがあり、なおかつハードワークができる方で、たしかに社員の方々が言うように、Zさんのような方は、なかなか稀有な存在と感じました。
■なぜ管理職が機能しないのか?
なぜ、この会社では、管理職がうまく機能していないのでしょうか?
また、社員の人は管理職になりたがらないのでしょうか?
現状を整理する中でわかってきたことは、「社員の方々に組織としての役割が定義されていない」ということでした。
業務の役割は、定義され、機能しているのですが、会社組織としての役割の定義はあいまいなものになっていました。
組織としての役割についてもう少し具体的に言うと、
例えば、育成。育成の意識の高い人はやるけど、低い人はやらない。
例えば、部や課の目標達成。意識の高い人はメンバーのフォローなどもするけども、意識の低い人はやらない。
そうなると、どうなるかというと「意識の高い人に仕事が偏る」ということが起きます。これは組織として健全な姿とは言えません。
■組織としての役割を定義するとどうなるか?
そこでA社では、等級という形で階層を分けて、その階層ごとに役割を定義。
例えば、
2等級の人は、定型業務がきっちりできる
3等級の人は、非定型業務までできる
4等級の人は、少人数のメンバーを巻き込んで成果を出す
5等級の人は、課の目標を引っ張る
6等級の人は、課の目標達成に責任を持つ
役割を設定して、その役割をもとに組織を運営していくと、社員からこんな声が上がるようになりました。
「自分が何をやればよいかがわかりやすくなった。そうしたことで、目標が立てやすくなった。振り返りができるようになって、自分の課題を整理することができるようになった。」
「そうすることで、業務をうまく進めようという意識が高まった。向上心が高まった。」
「自分の仕事や行動に責任を持つようになった。」
「同世代との差を感じることもあり、良い意味で焦りを感じる。もっとがんばろうと思った。」
「後輩育成への意識が上がった、指導の頻度が上がった、指導しやすくなった。」
「もし組織としての役割がなかったとしたら、言われたことだけ、日々をなんとなくやっているだけになったいたと思う。バイト感覚のよう。がんばらなくても給与は一緒だから、モチベーションが低下する。成長もしない。」
■チームワークが生まれない理由とは?
そして、以下のようなコメントもありました。
「次の等級に上がるために、●●の部分をもっと強化していきたい。」
「次の等級に上がりたい」=「上の役割に興味・関心がある」という状態になりました。これまで課題だった「管理職になりたがらない」というものが解消されたのです。
チームワークが生まれない理由を車いすバスケ日本代表ヘッドコーチを務め、東京パラリンピックでは初のメダル獲得に貢献された京谷(きょうや)和幸さんは、「試合に出るメンバー一人一人に役割があって、その役割を果たすからチームは機能して勝ちにつながる」と言っています。
車いすバスケという競技は、障がいの度数を数値化し、その数値が試合に出ている5人合計で14点を超えてはいけないというルールがあります。障がいが重い人ほど点数が低く、障がいが軽度の方ほど点数が高くなります。なので、障がいが軽度の方だけで5人のチームがつくれないようになっているということです。
一方で、障がいの重い方は、シュートが打ちづらく、なかなか点を取ることが難しい場合があります。では、この方は、試合で役に立たないのでしょうか?
そこで着目するのが、チームとしての役割です。バスケには、ピックというプレーがあり、それは、シュートを守りに来る人の間に入って、シュートを打つ人を助けるというもの。これを障がいが重い方の役割にすることでチームが機能していくようになります。
先ほどのA社で、このようなコメントもありました。
「今までは個人で黙々と仕事をするという感じでしたが、等級や役割が定義されたことによって、チームで仕事をしているという感覚を持つようになった。」
「自社の社員として自分がまだまだ不十分だったということに気づいた。」
実はこれもA社の課題で、どういうことかというと、「自社への帰属意識・チーム意識が薄い」というもの。しかし、組織としての役割を定義・設定し、組織を動かしていくことで、その解決の方向性が見えてきました。
管理職になりたがらないという課題をお持ちであれば、ぜひ参考にして頂けますと嬉しいです。