「入梅前に準備をしなくては」と我が家のデッキにプランターを用意し、ゴーヤの種を蒔きました。ゴーヤの種は殻が硬くてなかなか発芽しません。早く芽が出ないとグリーンカーテンに育っていかないので、少し急いでいる自分に気づきます。
経営の現場では、意思決定のスピードが重視されます。先を読み、先手を打ち、判断を下す。それが経営者の仕事だという意識も強くあります。しかし、こと「人」に関わる場面や、組織文化の変容といった長期的なテーマにおいては、「待つこと」がむしろ大切な力になります。簡単に芽はでないし、その後も成長を待つことも必要です。
たとえば、部下の成長。目の前の課題に対して、上司が考えを示すことは容易です。けれど、それでは部下の考える力や主体性は育ちません。あえて即答せず、問いかけを重ね、相手自身の中にある可能性を信じて見守る。この「育つまで待つ姿勢」が、人を育てる土壌になるのです。
そしてこの「待つ力」は、実は経営者自身に向けられる問いでもあります。すぐに答えが出ない自分、迷っている自分、矛盾を抱えている自分。そうした未完の状態にとどまることに耐えられるかどうか。自分自身の変容を、焦らず、諦めず、待つことができるか。
経営者である以上、「決めなければならない」というプレッシャーは常につきまといます。社員の目もありますし、「迷っている姿を見せてはいけない」と思いがちです。でも、本当に大切なことは、すぐには決められないものです。むしろ、結論を急がず、自らの内面で揺れ、問い続ける時間こそが、その後の判断を深くするのではないでしょうか。
もちろん、すべてを待っていては経営が立ち行かないのも事実です。ただ、ここで問いたいのは「待つか、決めるか」という二項対立ではなく、「どう待ち、どう決めるか」という姿勢の問題です。揺れていることを隠さず、揺れているまま人と話し、時に問いを共有しながら、自分自身の中で熟していくプロセス。それもまた、経営の一部です。
「急がば回れ」。言い古された言葉ですが、今だからこそ大切にしたい姿勢です。「タイパ」という安易な効率化への違和感を持ちながらも、待つことができないでいる。「待てる強さ」が新たな信頼を育み、人を育て、そして自分自身を深める力になるのではないでしょうか。
植物の成長を早送りで見られるのは、育った結果があってのこと。毎朝、自分の心と向き合う時間を与えてくれる植物たちに感謝します。
馬場 秀樹