ー勝海舟
現在、私がご支援している企業の一つに、徳島県を拠点とする三協商事様があります。同社のルーツは、江戸時代に藍の生産・販売を手がけ、全国へと藍を届けていた三木家にさかのぼります。
その三木家の第11世(11代目)にあたるのが、三木與吉郎順治(よきちろうじゅんじ)(1836年~1908年)という人物です。幕末から明治にかけて藍の商売で成功を収め、多額納税者として貴族院議員なども務めた実業家でした。
この三木與吉郎順治の友人のひとりが、あの勝海舟(1823年~1899年)です。ご存知の方も多いと思いますが、江戸城の無血開城など、日本の歴史にその名を刻んだ偉人です。
その勝海舟が、三木與吉郎順治に贈った言葉が、今回ご紹介する「天半藍色」でした。
この言葉の意味は、
「天下の藍玉を一手に握ろうなどと欲張ってはいけない。商売は腹八分目、せめて半分を目標にしなさい」
というものです。
私がこの言葉に触れたとき、なぜ勝海舟はこのような助言を与えたのだろう、と考えさせられました。そして、次のように理解するに至りました。
「天下の藍玉を独占してしまえば、おごりが生まれ、やがて身を滅ぼす。腹八分目、あるいは半分程度にとどめておけば、慢心することなく、長く商売を続けられるよ」
おそらく、勝海舟はこのような意図を込めていたのではないでしょうか。
真意は定かではありませんが、歴史の中には「勝ちすぎによるおごり」を戒める教訓が数多く存在します。
たとえば、戦国時代の名将・武田信玄の言葉として、次のようなものがあります。
「勝負のこと、五分・六分・七分の勝ちは十分の勝ちなりと御定めなされそうろう。(中略)八分の勝ちはあやうし、九分・十分の勝ちは味方大負の下地なりとの義なり。」
意訳すれば、
「戦の勝敗は、五分・六分・七分の勝ちで十分。八分の勝ちは危うく、九分・十分の勝ちは大敗の原因になる」
ということです。
なぜなら、大勝ちによっておごりが生まれ、緊張感を失うからです。緊張感が失われれば、人も組織も緩み、やがて衰退し、最後には滅亡する――これは歴史が繰り返し示している事実です。
だからこそ、武田信玄も、そしておそらく勝海舟も、「心におごりを生じさせないこと」を重視し、「九分・十分の勝ち」ではなく、「五分・六分・七分の勝ち」を勧めたのではないでしょうか。
私自身も含め、人間ですから、九分・十分の勝ちを手にすれば、嬉しさを抑えきれないものです。ときに「自分はすごい」と優越感に浸ってしまうこともあるでしょう。
しかし、まさにそういう時こそ、思い出すべきです。
「この気持ちは、おごりにつながり、緊張感を失わせ、やがて大きな失敗を招くのではないか。気をつけなければならない」
このように自らを律することができれば、大きな失敗を避けられるかもしれません。