先月、中国の電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)が日本の軽自動車市場に本格参入するというニュースが話題になりました。
5月4日の日経新聞社説でも、このテーマが取り上げられていました。
「BYDはEVで米テスラに迫る世界2位に躍進した。日本で軽自動車EVに参入する。軽自動車は日本独自の規格であり外資が立ち入りがたい市場とされてきたが、いよいよ海外勢との競争に直面することになる。BYDは2026年後半に軽自動車のEVを発売する。日本勢にとって手ごわいライバルの出現はむしろ歓迎すべきだろう。軽自動車は日本の新車販売の4割近くを占める。そこに攻め入ろうという「黒船」の登場を、日本勢は出遅れたEVで巻き返すためのカンフル剤としなければならない。」などとしています。
BYD日本参入という出来事は、もしかしたら私たちが想像している以上に、今後大きなインパクトを与え、日本の自動車市場の転換期をつくるきっかけになるかもしれないと考えます。
自動車は、国別のブランドイメージが強い商品です。日本製への信奉主義が強い中で、ドイツ製をはじめとする高級感のある欧州製が日本では支持されてきました。中国製はほとんど認知されていません。
しかしながら、アジアの自動車市場では、日本製がほぼ独占状態だった国でもそのシェア率を下げ、代わりに中国製がシェアを伸ばす事象が指摘されています。EVやPHVなどでの中国メーカーの開発力やデザインの進化は目覚ましいものがあります。
EVでは排気という概念も存在しません。ガソリン車とは製品の構造も異なります。本質的に、かつての中国製自動車のイメージで見るべきものでもないと言えます。
加えて、若手世代は中高年層に比べて、自動車の国別ブランドに対する固定的なイメージが強くないと想定されます。そのことは、アジアなどの市場でも若手世代を中心に中国製自動車が買われ始めていることからもうかがえます。
また、若手世代を中心に、車を所有するという概念が減退していることも指摘されています。必要な時だけ車をシェアする、レンタルするという実用性重視の使い方をする人も増えています。この背景には、SDGsへの意識の高まりも想定されます。
中国製の品質・デザインの向上、国別ブランドに対する固定観念の減退、SDGs意識の向上などの合わせ技で、「いいものであればブランドを固定せず買う」と考える若手世代の台頭が進めば、今は輸入車としてはドイツ車が中心の日本市場で、中国車が想像以上に存在感を高めていくのもあり得るシナリオだと考えられます。
これに対し、スズキ社長 鈴木俊宏氏は「個人的には大歓迎」「お互いに進化していけばよいでしょう」と語っています(6月2日付日経新聞「月曜経済観測」)。日本メーカーとしては、日本市場でのEV市場活性化や軽自動車の価値再評価のきっかけになるという見方もしつつ、これまで軽自動車で培ってきた安全性や走行性能などの技術をさらに進化させながら、どのように対応していけるのかが見せ所となりそうです。
また、これと同様の構図は、自動車市場以外にも当てはまると考えます。
例えば、「LABUBU(ラブブ)」など、世界的な人気を生み出す中国発のキャラクターも日常的に見られるようになってきました。こういったキャラクタービジネスやアニメ制作などでも、今後中国からの発信・提案は増えていくものと想定されます。日本では「韓流」が定着しましたが、今後は中国発でも同様の流れが起こるかもしれません。
中国は、これから日本以上のスピードで少子高齢化、人口減少が進みます。自ずと国内市場での消費量が減るわけですので、打開策として国外の消費市場開拓にこれまで以上に躍起になるはずです。中国製に限りませんが、ますます他国の商品・サービスと切磋琢磨する環境となっていきそうです。