ご存じのように米国との関税交渉はなかなか決着せず、担当の赤澤大臣は7月初時点ですでに7回訪米し、先方のベッセント財務長官やラトニック商務長官と会談を重ねています。
最近の訪問では、帰国日程を伸ばして会談を行ったとのことです。石破首相も6月半ばのカナダでのサミット時にトランプ大統領と会談しましたが、関税交渉については何の進展もありませんでした。
しかし、関税交渉が長引けば長引くほど、日本の自動車業界は不利な状況に置かれることを認識していなければなりません。
自動車に関してはすでに25%の追加関税が課されているからです。追加関税により、米国のインフレも懸念されますが、日本の自動車業界は米国への輸出品についてはこのままではとにかく関税を払い続けるしかなく、なにひとつ良いことはありません。
関税交渉が長引けば長引くほど、部品や素材を含めた国内の自動車産業全体へのダメージが続くのです。
トランプ政権の1期目では、関税を上げるという「脅し」により、米国に有利な条件を引き出そうとしました。つまり、交渉が長引いても関税は上がっていないので、影響は小さかったのです。今回は先に米国は関税を上げてしまっています。ですから、関税交渉が長引けば長引くだけ、日本の自動車メーカーや部品メーカーには大きな影響が出続けるのです。
「相互関税」の当初の90日間の猶予期限は7月9日まででしたが、自動車関税はそれとは違う枠組みで25%の「追加関税」が課されています。鉄製品には50%の追加関税が課されていますが、加工度の低い自動車部品の中には、部品でなく鉄製品として50%の関税が課せられているものもあるという話を聞きました。
日本の自動車メーカーの一部では、部品メーカーが米国に輸出した部品にかかった関税を負担するところもあるようですが、それもすべての自動車メーカーではないとのことです。一部の自動車メーカーは関税分の負担を部品メーカーにも求めています。
いずれにしても、自動車メーカーあるいは部品メーカーの負担増となっていることに違いはなく、米国での値上げをいずれは余儀なくされます。
これは価格競争力を失わせることにつながります。それを回避するために値上げを行わなければ利益の減少につながります。結局、関税がかかったままの状態が長引けば、生産拠点などの戦略を国内あるいは他国から米国に移すなど、大きな戦略変更を余儀なくされるところも出てきます。日本での雇用が失われる可能性もあります。
トランプ大統領は、今のところ自動車では全く譲る気配を見せていません。コメでも譲歩を求めるような話もしています。
一方、参院選を控えた状況では、JAや農家への配慮もあり、選挙前にはコメでの大幅な譲歩はできないでしょう。
すでにさまざまな案を日本政府は米国に提示しているとは思いますが、このままでは関税交渉が長引き、自動車業界はその分苦境を深めざるをえません。
英国が早々に関税交渉を決着させ、自動車の関税からもうまく切り抜けたのは、英国は米国から見て貿易黒字国だからです。
一方、日本は毎年700億ドル程度の米国から見た貿易赤字があります。中国ほどではありませんが膨大な額です。
日本政府としては、覚悟を決めて交渉の決定打となるものを示さなければ、だらだらと交渉が長引き、日本に不利な状況が続くだけです。解決できないなら交渉チームを変えるなどのことが必要です。農水大臣を江藤氏から小泉氏に変えてコメの価格問題はある程度進展しました。
参議院選を間近に控えていますが、いずれにしても、このままではらちが明かないので早急な関税交渉の進展を求めます。