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戦略立案の6つの策定ステップ

小宮一慶のモノの見方・考え方
2020.03.17

(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2020」掲載記事)

私が昨年寄稿した4つの文章を加筆修正したものです。「戦略立案」、「マーケティング戦略」、「PDCA」、そして「指揮官先頭」です。最初の3つは、依頼があり書いた文章です。最後の文章はKCのメルマガに寄稿したものです。

I.「戦略立案の6つの策定ステップ」
会社経営は3つの要素からなると考えています。①企業の方向づけ、②資源の最適配分、③人を動かすです。とくに①の企業の方向づけが企業の命運の8割を握ると言っても過言ではないでしょう。「方向づけ」とは「戦略」です。将来を見据えて「何をやるか、やめるか」を決めることです。本稿では、小さな会社がどのように戦略を策定すればいいかをステップごとに説明しています。

一方、ピーター・ドラッカーは「マーケティング」と「イノベーション」こそが企業に利益をもたらすと述べていますが、それらが戦略の根幹です。お客さまに対して価値を作り出す「マーケティング」、新しい価値を生み出す「イノベーション」です。(マーケティングについては、本稿のII.で詳しく説明します。)

  • ミッション、ビジョン、理念

ピーター・ドラッカーは、事業戦略を立案するに関して、「目的」からスタートしなければならないと言っています。「目的」というのは、企業の存在意義です。何のために自社が存在しているかを明確にしなければならないのです。企業や経営者の志です。これがない企業、これをしっかりと持っていない経営者はブレます。このあたりのところはJ.C.コリンズ著『ビジョナリーカンパニー』(日経BP社)に詳しいのですが、私も多くの企業を見ていて、自社の存在意義がしっかりとしていない企業は、成長をしないし、一時的に成長したとしても長続きしません。

今ではその目的を「ミッション」と言っている企業も少なくありません。ミッションをもとに、将来構想である「ビジョン」を描き、行動規範である「理念」を決めてそれを守っていかなければなりません。

ミッションとしては、どの会社にも共通するのは、「良い商品やサービス、できれば独自の商品やサービスをお客さまに提供し、それを通じて社会に貢献すること」や「働く人を活かし、幸せにする」などが挙げられるでしょう。

  • 外部環境分析

目的がしっかりしていることはとても大切ですが、もちろんそれだけで戦略が立案できるものではありません。次に必要なのは「外部環境分析」です。つまり、自社を取り巻く環境を分析することです。「会社」という字は「社会」という字の逆ですが、どんなに大きな会社でも社会の大きな動きに勝てるところはありません。ましてや小さい会社ならなおさらです。

具体的に何を分析するかというと、お客さま(市場)の動向、ライバル他社の動き、自分たちがターゲットとする地域の景気の状況、法制度や政治の状況、テクノロジーの変化など、自分たちがコントロールできないすべてを分析するのです。もちろん、重要度に応じて分析の精度を変えていかなければなりません。

経営者が外部環境分析の能力を高めるためには、私は新聞を読むことをお勧めしています。できれば日経新聞を毎日読んでください。外部環境を分析するために新聞を読むにはちょっとしたコツがあります。私は会員制でセミナーを行っていますが、会員さんたちには必ず行っていただいていることのひとつです。

新聞の記事の中には記事全体を6、7行でまとめた「リード文」が付いている記事が、毎日10ほどあります。比較的大きな記事です。そのリード文が出ているような大きな記事は、自分の興味があろうがなかろうが、訓練だと思ってリード文だけでも毎日読むことです。自分の関心を広げるためです。関心が広がればいろんなことが見えてきます。2か月もそれを続けていると世の中の見え方が違ってきます。(詳しくは拙著『日経新聞深読み講座2020年版』(日本経済新聞出版社)をお読みください。)
いずれにしても、外部環境の変化に勝てる会社はありません。

  • 内部環境分析

次のステップは「内部環境分析」です。自社の「強み、弱み」を分析することです。戦略を策定する上で、「他社との違い」を明確にすることがとても大切ですが、その大前提となるステップです。

「強み、弱み」と言っても「相対的な」ものです。ライバル他社と比べて、どこに強みがあり、弱みがあるのかを分析することが重要です。

まず、考えなければならないことは商品やサービスについてです。この際に有用な考え方として、「QPS」があります。Quality、Price、Serviceの頭文字をとったものです。お客さまはこのQPSの組み合わせで自分にとって都合の良いものを選んでいるのです。

Qは商品の品質です。商品そのものと言ってもかまいません。Pはお分かりのように価格です。Sについては少し注釈が要ります。サービスなのですが、コンサル会社や機械のメンテナンスサービスでお金をもらっている会社などの場合、お金をいただくサービスはQとなります。お金をいただかない要素がSなのです。「その他」のSだと思ってもらっても大丈夫です。例えば、コンビニエンスストアでは、お客さまは「近い」ところを選びがちですが、店の近さに対してお金を払っている人はまずいません。そういうお金を払わない「その他」の要素がSなのです。お客さまはQ、PだけでなくSの要素も含めて自分にとって都合のいい会社を選んでいるのです。

QPSについて、それぞれライバル他社と、具体的に正確に分析することが重要です。
そして、それを支える人や設備、資金の状況なども分析するのが内部環境分析です。人や設備、資金が戦略上の強みになったり、逆に戦略立案、実行の足かせになることも多いからです。

  • マーケティング、イノベーションの目標設定

上記のように外部環境、内部環境を十分に分析したうえで、ミッション(目的)にもとづいて戦略を決めていきます。その中心は先にも述べたように「マーケティング」と「イノベーション」です。このプロセスが企業の価値を高めるための命運を握る部分です。

マーケティングは、お客さまが望むQPSの組み合わせを見つけ出し、それを商品やサービスに落とし込んで提供することです。(これに関しては、II.で詳しく説明します。)お客さまは商品やサービスを買うわけですから、これなくして戦略はありません。

そして、もう一つはイノベーションです。商品そのもの、製造方法、流通プロセス、組織などを大きく変え新しい価値を企業にもたらすことです。

マーケティングやイノベーションを行うためには、場合によってはM&Aも必要になる場合もあります。逆に、自社の一部分の売却ということもあり得ます。いずれにしてもマーケティングとイノベーションによって企業はその価値を高めることができるのです。

  • ファイナンス、HRM、システム

マーケティングとイノベーションを支える戦略も必要です。具体的には、資金面でのファイナンス戦略、人や組織面でのHRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)、さらには情報を支えるシステム戦略です。

現状の「ヒト、モノ、カネ」の資源をベースにしながらも、必要ならばファイナンスを行い、人を採用するなどをしなければ上記のマーケティングやイノベーションの戦略を遂行することができない場合も少なくありません。資金面や人材面での制約が戦略全体の大きな制約条件となることもあります。

  • KPIとPDCA

マーケティング、イノベーション、ファイナンス、HRM、システムなどの戦略を立案する場合には、その達成度合いであるKPI(Key Performance Index )を設定することが重要です。どこまでそれが達成できているかを知るためです。マーケティングでは、売上高や利益がKPIとなりますが、その中間目標のKPI(例えば来店客数、購入単価)なども中間的なKPIとして有効です。他の戦略でもKPIが必要です。

そして、戦略が期待したようなKPIを生んでいるかのチェックも必要です。いわゆる「PDCA(Plan Do Check Action)」です。PDCAをきちんとやるかどうかでパフォーマンスは大きく違ってきます。PDCAの本質は「有言実行」と「反省」だと私は考えています。やるべきことをきちんと公言し、それをチェックすることで反省するのです。

II.「マーケティング戦略の6つの実行ステップ」
I.では、1目的、2外部環境分析、3内部環境分析、4マーケティングとイノベーション、5ファイナンス・HRM・システム、6PDCAという戦略立案の各ステップを説明しました。このII.では、戦略立案全体の中核をなす「マーケティング戦略」について、さらに細かく説明していくことにします。

マーケティングの大家であるフィリップ・コトラーは「マーケティングとは、人間や社会のニーズを見極めてそれに応えることである」(『マーケティング・マネジメント』)と述べていますが、お客さまのニーズを見極めてそれに応じて商品やサービスを提供することです。これこそ企業経営の中核です。お客さまに自社の商品やサービスを認めてもらわなければ企業は成り立ちません。逆に、お客さまがそれらを認めてくれればこそ、企業が存続することができるのです。適切なマーケティング戦略を実行することこそが、企業存続の根本なのです。

  • お客さまが求めるQPSの組み合わせを見つけ出す

私は経営者たちに「一番厳しいお客さまの目になって自社を見なければならない」ということを説いています。もちろん経営者は自社の内部事情も考慮することも大切ですが、あくまでも企業の価値はお客さまが決めるものです。お客さまに価値を見出されない会社は存在ができません。そのためには、お客さまの視点で自社を見て、お客さまの望むQPS(Quality、Price、Service)の組み合わせを見つけ出すことです。その際にはライバルの研究も欠かせません。

その際には、QPSを見極める「専門性」とともに「素直さ、謙虚さ」が必要です。(「素直さ、謙虚さ」については、最後のステップのところで詳しくお話します。)

  • 現在の商品・サービスについての方針・戦略を決める

お客さまが求めるQPSをきちんと見極めたうえで、現状、皆さんの会社が提供している商品やサービスについての方針や目標を設定することが次のステップです。目標と言っても売上や利益目標だけではありません。お客さまが望むQPSを見極めて、どういう商品やサービスを提供するのかということを考えるのです。

その際に重要なことは「徹底」です。徹底のできない会社は、どんな新規事業を行ってもうまくいかないものです。同じような戦略を採っている会社でも、業績に大きな差が出ることがあります。それは、徹底の差なのです。徹底を考える際には、現状の事業でそれを行うのが一番いいのです。

  • 過去のものとなった商品・サービスについての方針を決める

どこの会社を見ていても、これがとても難しいのです。小さな会社であっても、もちろん大きな会社であっても、少し歴史がある会社の場合には、採算に乗らないような事業を行っていたり、商品やサービスを扱っていることがおうおうにしてあります。そのような場合、その事業なりを止めることも必要な場合がありますが、それがなかなかやめられないのです。やめられない理由のひとつは、昔からやっているからというのもありますが、正確に採算が計算できていないからということも少なくありません。

ピーター・ドラッカーは「今からならその事業を始めるかどうか」というのを判断基準にするべきと言っていますが、小さな会社の場合、その基準で判断すると、事業自体がなくなってしまうことがあります。私は、そのような場合には、「将来もキャッシュフローを生むかどうかで判断するべき」というふうにアドバイスしています。

この場合、まず、正確な採算計算が求められます。変動費がいくらかかっていて、固定費がいくらかかっているのか。そして、本部などの付加経費がどれだけ賦課されているのかです。これを正確に把握しなければなりません。

この際に大切なことは、本部経費を賦課しないベースで採算がプラスなら、キャッシュフローを生んでいますから、続けるべきです。やめても本部経費は減りませんから、全社でのキャッシュフローは悪化します。止めたらこの事業にかかっている固定費も賄えなくなります。

問題なのは、本部経費を外して考えても、この事業単体でも赤字の場合です。その場合は、やめることも視野に入れなければなりません。変動費をカバーしていないなら、将来性が確実に見込めないなら、絶対にやめるべきです。将来的にもキャッシュフローを生まない事業はやめる決断も必要です。

企業戦略上は「小さくなる能力」を確保しておくことも、景気の波を乗り越えて生き残るためには大切です。そのためには、過度な借り入れをしないこと、固定費の比率を高めないことなどの注意が普段から必要です。

  • 新しい商品・サービス、市場についての方針を決める

小さな会社でも、新しいことにチャレンジすることはとても大切です。現事業が必ずしも将来を保証するものではないからです。ただし、小さな会社の場合には、新しいチャレンジが、屋台骨を揺るがすようなことになっては元も子もありません。必要な費用やキャッシュフローを十分に検討してから行うことです。

私は、「小さなリスクは恐れるな、しかし、大きなリスクを取るな」ということを経営者たちにアドバイスします。ここでいう「大きい、小さい」は会社の規模や財務内容によって異なります。ファイナンス力が千億円単位であるような会社なら、100億円は小さなリスクでしょうが、売上高数億円という会社にとっては1千万円も大きなリスクとなることがあります。自社にとってのリスクを考えなければならいません。

その際に、「自己資本比率」が重要になります。資産を賄っている資金源のうち、返済不要な資金の比率(純資産÷資産)です。具体的には、資本金や利益剰余金などの総資産に対する比率です。それが新しい事業にチャレンジするために20%を切ってしまうようなら、その判断はよく考えたほうがいいと私ならアドバイスします。10%を切るようならやめたほうがいいと言うでしょう。

私が結構怖いのは事業欲の強い経営者です。とくに創業経営者にはそういう人が少なくありません。リスクを取り過ぎると、会社は潰れる確率が上がるのです。どんなに勝算がある場合でも自己資本比率をある一定以下にしない「勇気」も必要です。逆に言えば、その範囲ならどんどん挑戦をしてください。要すれば「成長と安定のバランス」を取ることが戦略上必要なのです。

  • 自社のポジショニングを決める

マーケティング戦略を立案する際には、自社の「ポジショニング」を考えることも重要です。ポジショニングとは市場における自社の位置づけです。

自社商品が市場をリードする「マーケットリーダー」、それに真っ向から挑戦する「チャレンジャー」、マーケットリーダーやチャレンジャーをあまり刺激することなく小さな売上で追随する「フォロワー」、さらには、小さなニッチ(隙間)市場で優位的なシェアを持つ「ニッチャー」などです。

小さな会社の場合には、フォロワーやニッチャーとなることが多いと思われますが、それがダメというわけではありません。とにかくキャッシュフローを稼ぐことです。

先に説明したQPSで差別化をすることにより、その地位を上げることも可能です。とくに小さな会社の場合には、人件費などの面でコスト的に優位に立てる可能性もありますし、サービスを大手よりきめ細かくすることで、自社の市場を守ったり、場合によってはシェアを高めることも可能です。

6.素直に謙虚になる
松下幸之助さんは、「人が成功するためにひとつだけ資質が必要だとすれば、それは素直さだ」とおっしゃっています。戦略を立案する、とくにマーケティング戦略を立案する際には、素直さ、謙虚さが必要です。

マーケティング戦略では、他社の商品やサービス、あるいはQPSと自社のそれらとを客観的に比較することが何よりも重要になりますが、どうしてもバイアス(偏見)がかかりがちです。「他社製品など大したことがない」あるいは、逆に「あの会社に勝てっこない」などです。他社にも良いところや悪いところは必ずあります。自社ももちろんそうです。それを素直に謙虚に見るのです。戦略立案においては、とくに小さな会社の場合には、その姿勢がない限り、うまくいかないことも少なくありません。自社や自社製品に対する「思い入れ」は大切ですが、それが「思い込み」になったら大変です。

III.PDCAと有言実行」
・「有言実行」
PDCAPlanDoCheckAction)という言葉をよく聞くと思います。計画し、実行し、それをチェック修正して、再度やってみるということです。私はこの本質は、2つあると思っています。一つは「有言実行」です。Planの段階で目標を明確にするわけですから、まず、「有言」があります。そしてそれを実行するわけです。

これは、個人でも同じです。やることをまず口に出して言ってみる。できれば、多くの人の前で公言するのです。大きなことを言うのも悪くはありません。

私事で恐縮ですが、私は25年以上前に本を書き始めたころ、当然ですがそれほど売れませんでした。新聞などを見ていたら、「10万部突破」だとか、中には「100万部!」などという広告が出ます。それを見て私は、1冊で100万部は無理でも、100冊出せば100万部の発行部数になるのではないかと思い、「100冊書く」ということを周りの人に話し始めました。

もちろん、周りは「でかいことを言う」と思っていたと思います。「そんなのできっこない」と私に面と向かって言う方はいませんでしたが、無理と思うか、適当に聞き流していた人も多いと思います。その後、25冊目が出たときに出版記念パーティーをしましたが、そこに来られたお客さまは「100冊」はまだ無理でないかと思われていた方も多かったと思います。

50冊のパーティーを開いた時には「100冊も見えてきたね」とおっしゃる方が増えました。そして、2014年に100冊目のパーティーを開いた時には、「次は200冊」と多くの方がおっしゃってくれました。おかげさまでもうすぐ単著で150冊目が出る予定です。累計発行部数も30万部を超えました。有言実行ができてほっとしています。

・「指揮官先頭」
経営者の仕事は経営計画を作り、それを実行することです。会社全体の計画を作ります。私は、それに加えて、経営者も個人の目標を持つべきだと思っています。会社全体の目標ではなく、経営者個人にかかわる目標です。当社では、経営者が自身の目標を立てるセミナーも毎年開いています。

 部下、それも現場に近くなればなるほど、個人のレベルの目標に落とし込まれることが多いのですが、地位が上がれば、全体に責任を持つ反面、自分の個人目標というものがあいまいになります。私はそれではダメだと思うのです。

 ピーター・ドラッカーは、「リーダーは部下の模範であれ」と言っていますが、やはりリーダーも自身の個人目標を持ち、そして、それを実行し、結果を出すということが大切です。各営業所を月に一度訪問することや主要顧客をすべて回るなどの仕事上の目標の他に、勉強や健康の目標を立てることができます。それをやるのです。

 戦前の海軍兵学校では「指揮官先頭」が厳しく教えられました。自分が先頭に立って模範を示すということです。連合艦隊司令長官だった山本五十六の有名な言葉に、「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」というのがありますが、一番最初は「やってみせ」です。リーダーがやって見せて模範を示すのです。

 全体目標を立てたからと言って、自分の個人でやるべき目標もきちんと立てて、それも実行に移さなければだめなのです。そして、全体目標も個人目標も先に述べた「有言実行」が大切です。

・PDCAの二つ目の本質は「反省」
PDCAの二つ目の本質は「反省」です。計画した通りにものごとが進むことはそれほど多くないかもしれません。そうした場合に、計画を修正するわけですが、そこには、なぜうまくいっていないのかを素直に謙虚に反省する必要があります。

そのためには、うまくいかない原因を、正確に把握しなければなりません。そうでないと、正しい修正案を出すことはできません。そのためにも、素直さ謙虚さが必要です。もちろん、計画を立てた人の面子や、こだわりもあるでしょう。しかし、そういうことも含めて、すべて素直に謙虚に反省する必要があるのです。

論語に「吾、日に吾が身を三度省みる」という孔子の高弟の曾参の有名な言葉があります。毎日、何度も自分が正しいかどうかを反省するということです。会社全体でも個人でも同じです。振り返ってうまくいっていないところ、十分でないところを謙虚に見つめ、そして改善していくのです。

・PDCAサイクルを速める
以前、ある会社で、業務改善のプロジェクトを行ったことがあります。結果は大成功でしたが、やったことはシンプルでした。PDCAのサイクルを速めたのです。具体的には、反省、見直しの会議を1カ月に一度行っていたのを、1週間に一度に頻度を上げたのです。1カ月に一度なら、会議を乗り越えたらほっとして、しばらくは改善に手つかずになることも少なくありません。1週間だと、すぐに次の会議がやってくるので、すぐに手を打つ必要があります。それにより改善の速度が速まったのです。反省、実行の繰り返しをどれだけ早くできるかも、会社のレベルでも個人でも、PDCAでは大切なことです。

IV.「リーダー自身の目標設定」
最近私はよくリーダーたちに「自分自身の目標を持ってください」というお話をします。もちろん自分が預かる組織全体の目標を達成することがリーダーにとっては何よりも大切な目標です。そして、その目標達成に貢献するために、リーダーが自分自身の目標を持たなければならないということなのです。もちろん、部下がやれることをやるということではありません。リーダーだからこそできることで、全体の目標達成に貢献するということです。

ずいぶん前に、旭化成の常務で子会社の社長をされていた能村さんという方に私は大変お世話になりました。いろいろなことを教えていただきましたが、一番勉強になったのは彼の姿勢です。能村さんが社長をされていたのはライフ&リビングという生活製品を扱う会社でした。サランラップやジプロックを扱っていました。

能村さんのデスクに年初に伺うと、毎年、壁に都道府県の境だけが入った真っ白な日本地図が貼られてありました。何のためかというと、その年に全県を回ることを能村さんは自分に目標として課していたのです。生活製品を売っていますから、全県のスーパーなどのお客さまを回るのです。それも、スーパーでは、侍の格好をして店頭に立って自社製品を売るのです。

地方に行けば、大会社の偉いさんが来る、それも侍の格好をして店頭に立ってサランラップなどを売るわけですから、地方のテレビや新聞が取材に来ることもあります。そうすれば、お客さまのスーパーにとっても大きな宣伝効果があります。能村さんは、それを中国でもやりました。中国では侍はまずいというのでピエロの格好でやったそうです。大うけだったと言っておられました。あるときに、いつもと同じようにスーパーの店頭で侍の格好をして自社製品を売っていたら、小学校3年生くらいの女の子が寄ってきて「おじちゃん、リストラされたの?」と言われたことがあったと、うれしそうに私に話してくれたことをよく思い出します。

リーダーである皆さんに侍の格好をしろとは言いません。ただ、数値目標だけを立てて、部下のお尻を叩くことを上司の仕事と思っていたら大間違いです。それでは体の良い「ピンハネ」です。繰り返しますが、部下の仕事をしろと言っているのでもありません。リーダーとして自分がどう貢献するのが、目標達成に一番いいかを考えてそれをやるのです。それでこそ「指揮官先頭」です。

能村さんがスーパーの店頭で侍の格好をして販売するのを、自分もやらされるのではないかと部下は嫌がったそうです。もちろん、部下にそんなことはさせません。リーダーがやるからこそ価値があるのです。部下から見て「リーダーとは大変な仕事だ」と思われてこそ、本当のリーダーだと思います。「リーダーになったら部下のお尻を叩くだけで楽そうだな」と思われるようではリーダー失格です。


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