(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2021」掲載記事)
この1年は新型コロナウイルスに翻弄された1年でした。その影響で生活やビジネスに大きな影響が出ている方や企業も少なくないと思います。この原稿では、まず、「1.新型コロナウイルスで激変した経済環境」として、コロナによりこの1年間マクロ経済がどう変わったか、そして私は「未来が早くやってきた」と思っていますが、そのようなマクロ経済環境の分析を行います。そして「2.危機を乗り越える企業経営」では企業としてどう対応していくか、最後に「3.経営者の姿勢」でこうした危機時の経営者のあるべき姿について説明します。
1.新型コロナウイルスで激変した経済環境
・ウイルスによる経済の影響
まず、新型コロナウイルスが日本経済に及ぼした影響を簡単に振り返ってみましょう。経済全体の動きを表す実質GDP(国内総生産)の成長率を見ると、ウイルスの影響が少し出始めた2020年1-3月で年率マイナス2.1%、第1回目の緊急事態宣言が出た4-6月はなんとマイナス29.2%と大きく落ち込みました。その後、7-9月、10-12月はそれぞれプラスの22.7%、12.7%と回復しましたが、1年間を通して見た場合には、マイナス4.8%と落ち込んだのです。
ここで見たように2020年はコロナの影響で、とても大きく経済が変動した年だったのです。2019年10月の消費税増税により後退が顕著になっていた日本経済ですが、コロナウイルスの影響で大きく落ち込み、それが戻りつつあるというところです。
実額のGDPを表す名目GDPでは、ピークは消費税増税前の2019年7-9月(年額564兆円)でしたが、それが最も落ち込んだ2020年4-6月では511兆円まで落ちました。その差を比べると、53兆円のマイナスです。いつも実践セミナーでお話しているように、名目GDPは国内で作られた付加価値の合計で、その6割近くは給与などで家計に分配されていますので、給与の原泉が1割近く落ちたことになります。
この落ち込みは、運輸や旅行業、飲食、イベント関連など一部の業種に大きく偏って起こっているので、これらの業種では、働く人たちの待遇にも大きな影響が出ました。繰り返しますが、名目GDPは給与の原泉だからです。一部の航空会社や旅行会社では賞与の支給がなくなり、ホテルや飲食店ではアルバイトの雇用が失われるということも起こりました。
東京発着のGoToトラベルが解禁となった2020年の10月あたりからGDPの6割弱を支える家計の消費支出も少し上向きましたが、11月下旬あたりからコロナの感染者数が再び増え、今年の1月に入り11都府県に緊急事態宣言が出て、また経済の落ち込みが懸念されています。
そして、ひとり当たりの給与を表す「現金給与総額」もコロナの影響が大きく出始めた2020年4月以降、前年比マイナスが続き、それにつられるように「消費者物価指数」もマイナスの状況が続いています。デフレの足音が聞こえるようになったのです。「デフレスパイラル(給与減→需要減→物価下落→企業収益悪化→給与減→・・・)」となると景気回復はよけいに難しくなります。
感染防止と医療崩壊を防ぐことが急務であることは言うまでもありませんが、同様に経済崩壊をどう防ぐかということも政府にとっては大きな課題となったのです。
・未来が早くやってきた
こうした中、私は今回のコロナ騒動で「未来が早くやってきた」と感じています。
当社(小宮コンサルタンツ)は16人の小さな会社で、以前からコンサルタントは週に1度の在宅勤務を行っていましたが、元々は全員が事務所にいるサポートスタッフも含めて、今では毎日数名しか出勤していません。残りの人たちはすべて在宅勤務です。お客さまやスタッフ間の連絡はZoomや電話、メールなどで行っています。私も、出版社さんやお客さまとの打ち合わせを最近はZoomを使って行うようになりました。講演もかなりの数をZoomで行っています。皆さんにご参加していただいている実践セミナーや早朝勉強会も、今では会場でのリアルとZoomとの併用の「ハイブリッド」で行っています。コロナ騒動が始まる前には考えられなかったことです。
これも、「未来が早くやってきた」と感じています。
「働き方改革」で少し前から在宅勤務が進みつつありましたが、今回のウイルス騒動で、それが一気に加速しました。そして、私も含めた多くの人が感じていることだと思いますが、現場仕事は別として、今までの事務所に集まってやる会議や出張というものが、なぜ必要だったのかを本気で考えるようになりました。この騒動が終わった後も、少しは実際に会うということは戻ると思いますが、リアルでの会議や出張のかなりの部分は行われなくなるのではないでしょうか。Zoomなどのオンラインで十分だと感じることも少なくありません。そうすると、この先に起こることは、オフィススペースの削減、出張や接待の減少でしょう。
新幹線や飛行機も緊急事態宣言中はガラガラでしたが、通勤時間帯の電車も混雑が緩和されていました。これも未来が早くやってきたと私は考えています。ウイルス騒動が終われば、インバウンドの観光客は戻り、学生たちは通学を行いますが、それでも先ほど述べたように、テレワークが進む傾向は一気に進みましたから、元のように通勤をする人は減り、電車の込み具合も緩和されるでしょう。そして、何よりも日本は人口減少に突入しています。日本人だけだと毎年約50万人の減少です。こうした在宅勤務のトレンドとは関係なしに、今後、大きく人口が減少していく中では、今回経験した空いた車内、とくに通勤電車の車内は、実は10年もたたない先に普通に見える光景ではないでしょうか。
多くの小売業にもウイルスの影響が大きく出ています。実店舗での売上げの減少とともに、オンラインショッピングの増加です。これも長期的には、人口減少や高齢化にともない、実店舗は縮小し、オンライン化が進むことを先取りしているとも言えます。コロナの影響で地方での百貨店の閉店も進みましたが、これも経済力の弱い地域では百貨店が支えられなくなっていることが顕在化したのです。そして、このトレンドは今後も続きます。
テレビ局も広告収入が減り、苦境に陥りました。しかし、これもネット広告に押されていたのが、一気に顕在化しただけで、今後、景気が回復すれば少しは戻るでしょうが、長期的にはこのトレンドは変わらないと考えられます。
一方、旅行や飲食は、いわば人間の「本能」に近い部分ですから、オンラインだけで済ませるというわけにはいかず、ウイルス騒動が収まれば、必ずどこかの時期には元に戻ると考えられます。
いずれにしても、ウイルス騒動で大変な時期ですが、少し長期的な視点で見ると、未来の光景が早く表れているとも言えるのではないでしょうか。「早くやってきた未来」と「戻るもの」を各社や業界で見極めて、それに早く対応することが大切ではないでしょうか。
2.危機を乗り越える企業経営
・「できることはすべてやれ、やるなら最善を尽くせ」
実践セミナーでも何度もお話しましたが、これは、ケンタッキー・フライド・チキンの創業者、カーネル・サンダースの言葉です。彼は65歳でケンタッキー・フライド・チキンのフランチャイズビジネスを始めたのですが、最初は1000軒断られたそうです。しかし、それでもあきらめず、今では全世界にフランチャイズを展開しています。
その彼のモットーが「できることはすべてやれ、やるなら最善を尽くせ」なのです。
これはいつでも大切なことですが、とくに危機時には必要なことです。とにかくできることはすべてやるのです。
環境が激変する中でお客さまから求められるQPS(Quality、Price、Service)も大きく変わります。そしてそれに5つのP(Products、Price、Place、Promotion、Partner)をどんどん変えていける企業が生き残るのです。もちろん、それを随時できるところは勝ち残る企業です。
当社のお客さまで、宮崎に本社のあるワン・ステップさんという会社があります。イベントに空気で膨らませる大きな遊具を貸し出すのを主な仕事としています。コロナでイベントはなくなり、売上が激減しました。そのときに社長が考えたのは、一つはマスクの輸入です。
遊具を中国から輸入していますが、そのコネクションを活かしてマスクが極端に不足していた時期にマスクの輸入を行ったのです。それも、ほとんど利益を乗せずに販売しました。イベントでお世話になったお客さまや当社の経営塾に社長は参加しているので、その経営者仲間などにマスクを販売しました。当社でも社員やセミナー用に購入させてもらいとても助かりました。そして、ワン・ステップさんはそれで雇用が維持できたわけです。
さらには、マスクの流通が落ち着くと、今度は、空気で膨らませる遊具を作るノウハウを活かして、医療用のテントや陰圧室の販売を始めました。環境変化により、社会やお客さまが求めるQPSの内容がどんどん変化する中で、販売する商品を変えていったわけです。
危機時にこそ、企業の実力が出ると私は考えています。その際の「方向づけ」を的確に素早くできるかが、経営者に求められる能力のひとつです。
・BCPを策定する
もちろん、目の前の対応をできる限り行うことはとても重要ですが、少しこの状況が落ち着いたときに、自社が抱えるさまざまなリスクとその対応を、十分に考えておくことをお勧めします。
大変な状況の時には、「次回のこういう事態に対応するために、十分に考えておこう」と思う人も多いと思いますが、「のど元過ぎれば」なんとやらで、日常業務が忙しくなると、そういったリスク分析や危機対応を考えることがなおざりになりがちです。
比較的大きな会社の場合には、「BCP(Business Continuity Plan)」といって、災害などのリスクについてあらかじめそれを想定し、ビジネス継続のための対応策を具体的に考えている企業も少なくありません。しかし、大企業だけでなく、中小企業でもBCPを策定しておくことはとても大切です。
企業が抱えるリスクにはさまざまなものがあります。日本の場合、必ず想定しなければならないのは災害です。東日本大震災から今年で10年になりますが、大変な被害をもたらしましたことは記憶に新しいことです。最近では地震のみならず豪雨災害の被害を受けた地域も少なくありません。ハザードマップなどを確認して、自社のリスクを予め知っておくことが重要です。
災害が起こった場合に、最も大切なことは、お客さまや、働く人たち、その家族の命を守ることですが、それ以外にも、事業所の被災、サプライチェーンの分断など多くのリスクを想定しておかなければなりません。サプライチェーンの分断で言えば、遠隔地での災害なども想定しておく必要があります。自社の調達している部材などのサプライチェーンを全般的に分析しておく必要があります。
さらには、今回のような大規模な感染症のリスクもあります。コロナウイルスのみならず、強烈なインフルエンザなどが流行するリスクは毎年あります。
また、法規制の変更、顧客の海外移転などから、中には、カリスマ社長や重要な幹部が突然いなくなるといったようなものまで幅広いリスクを企業は抱えています。確率的には低くても、それが起こると大きな影響があることは、網羅的に十分に考えておく必要があります。
BCPでは、もちろん、その対応策も大切です。部材調達の複数化などもその対策です。ずいぶん前になりますが、米国で9・11テロが起こったときに、「ジャストインタイム」のために部品の在庫をほとんど持っていなかった自動車メーカーは、カナダや日本から入ってくる部品が通関に時間がかかり、自動車の生産が滞ったということがありました。今回のウイルス問題でも一時中国からの部品が止まったために国内の自動車メーカーに影響が出ましたが、そうしたリスクを軽減するためには、部品の調達先を複数化、広域化しておくことも一つの方策です。
今回のウイルス騒動では、在宅勤務を積極的に活用した企業も話題になりました。「働き方改革」もあり、在宅勤務などを進めている企業も多いと思いますが、BCPの観点からも、災害時などの対策として有効だと考えられます。
一方、後にも触れますが、いざというときに短期的に頼りになるのは、自社でコントロールできるキャッシュ(現預金)です。資金がショートすれば倒産のリスクが高まります。普段から十分なキャッシュを保有することが大きな対策となるという認識も必要です。
・衆知を集める
BCPを考える際には、衆知を集めることも大切です。少人数でそれを行うと、どうしても漏れが出がちです。そして、その漏れたところが大きなリスクとなる可能性もあるのです。ですから、少数で考えたとしても、それを戦略会議など、比較的多くの人がいるところで発表し、十分に議論したうえで精度を高める必要があります。
そして、それを定期的に見直すことも重要です。ひとつは、リスクが十分に把握できているかどうか、もう一つは対策が十分かどうかという観点からです。
「備えあれば患いなし」といいますが、やはり、準備をしておくことが大切です。もちろん、すべてを想定して準備することは難しいですが、普段からさまざまなことに対応する準備を全社的に行っていく習慣を身に着ければ、それがお客さま対応にも役立つことは言うまでもありません。また、「衆知を集める」という社風ができていれば、危機時だけでなく、多くの場面で有用な意見が出ることとなります。
・コミュニケーションを良くする
私は、よくセミナーなどでコミュニケーションは「意味」と「意識」の両方というお話をしますが、在宅勤務などが増えると「意識」の共有が難しくなります。
当社では創業以来朝礼を行っていますが、現在ではリアルとZoomのハイブリッドで行っています。出勤者と在宅勤務者双方が参加しZoomで行うのです。声を聞くことだけより、やはり映像が映るほうが各段に意識が伝わりやすいと感じています。全体感も高まります。
また、その際に、「今日、何をするか」ということを各人に具体的に話してもらっています。それにより業務量をある程度把握することができるからです。
・「治に居て乱を忘れず」
いずれこのコロナ禍も収束するでしょう。そして平安なときがまた戻ってくるはずです。しかし、どんな場合でも、とくに現状が良い場合には、この状態が長く続くと考えるのは経営上危険だと私は思っています。そして「治に居て乱を忘れず」ですが、企業経営だけでなく、私たちひとりひとりの経済状態も健康状態も、良い状態が少し続くと油断してしまうので、良い時も悪い時もあるということを常に認識して将来に備えておかなければなりません。
(参考までに、以下は2018年7月に皆さんに差し上げたメルマガです。テーマは「治に居て乱を忘れず」です。でも、良い時にこのような話はなかなか響かないものです。今のようなしんどいときに、この話を持ち出すのも恐縮ですが、私は時々「警告」を発しているのですが素直に聞いていただいている人が多かったことを望むばかりです。)
「最近、当社のセミナー会員さん向けに講演するときには「治に居て乱を忘れず」ということをお話します。現状の経済状態を前提として経営計画を立てないほうがいいということです。皆さんはご存知かもしれませんが、日本経済は戦後2番目の長さの拡大中で、このまま拡大が続けば、来年1月には戦後最長の景気拡大となります。ちなみに、これまでの戦後最長の拡大は、2002年から2007年にかけてでした。今は、普段より良い状況だという認識が必要で、これがずっと続くと考えないほうがいいと私は思っているのです。
2020年の東京オリンピックまでは景気は大丈夫と考えている人もいるようですが、毎年6兆円程度の公共事業費を使っている中で、せいぜい2兆円程度のお金を、それも数年間に分けて使うわけですから、それほどの経済効果は期待できません。もちろん、東京の一部の開発は進みますが、その経済効果が地方に波及するわけではありません。私たちの世代は1964年の東京オリンピック時を思い起こすかもしれませんが、当時の日本の国内総生産は今の17分の1程度で、そういうときに東海道新幹線、東名・名神高速道路、首都高などを建設したのですから、大きな経済効果がありました。今は、当時とは経済規模が格段に違うのです。
少し、短期的な景気指標を見てみましょう。経済全体の動きを表す国内総生産は、今年の1-3月はマイナスです。1月の寒波が影響しており一時的との見方が大勢ですが、油断はできません。通常は2四半期連続で実質国内総生産がマイナスとなると景気後退と考えられますが、8月10日頃に発表予定の4-6月の国内総生産の数字に注目です。そして、7月は大変な豪雨災害もあり、またその後「酷暑」が続いているので、こちらも経済に少なからぬ影響を与えていると考えられます。
米国経済は比較的好調ですが、中国経済は米中貿易摩擦の影響もあり、減速懸念がささやかれています。欧州も少し成長スピードが鈍化しています。短期的にも日本経済の状況に注意が必要なわけです。
一方、長期的には、国内では少子高齢化が進んでいます。現状の高齢化率は28%程度ですが、今後さらに高齢化率は上がり続けます。今は、高齢社会のほんの入り口に過ぎないという認識が必要で、このままでは社会保障費がさらに増え、地方を中心とした過疎化がさらに進むのです。また、現状でも1000兆円を超えている政府の財政赤字も残高がさらに増加することは避けられません。それを減りつつある若年層が負担するわけです。 このままでは、日本経済の将来は決して明るいものではありません。
そして「治に居て乱を忘れず」ですが、企業経営だけでなく、私たちひとりひとりの経済状態も健康状態も、良い状態が少し続くと油断してしまうので、良い時も悪い時もあるということを常に認識して将来に備えておかなければなりませんね。」(2018年7月メルマガより。)
・未来を変えるのは今
ウイルス騒動でこういう時期は「じっとがまん」と考えがちです。もちろん、こういう状況ですからそれも仕方のないことかもしれません。しかし、私は「未来を変えるのは今」だといつも考えています。ウイルス騒動が終わらないとできないことはたくさんありますが、今でもできることはたくさんあるはずです。もっと言えば、普段と違う企業経営の状況や生活パターンだからこそ、できることもあるはずです。すべてをウイルのせいにして先延ばしにしていたのでは、会社の未来も、ご自身の未来もより良いものに変えることはできないのです。
将来を良くしたいとたいていの人は考えていると思います。しかし、結構多くの人は、将来を良くするための行動を、今ではなく、将来からスタートすることを考えているのではないでしょうか。「来年になったら勉強を始める」、「50歳になったらお酒の量を減らす」などです。でも、そういうことを言っている人はたいていがうまくいかないと私は思っています。「金持ちになったら寄付をする」という人で、本当にそういう人もいらっしゃるとは思いますが、少ないでしょう。本当にそういう気持ちを持っている人は、今からでも、わずかな金額や行動で人のために何かを行っているはずです。そして「金持ちになったら、もっと寄付をしよう」と考えるのです。
いずれにしても「行動をする」ことが大切です。考えているだけではダメなのです。
未来を変えるのは、将来の時点からではなく、「今」です。もちろん、学校に通うなど、相手の都合などで今からできないことは少なくありません。しかし、学校に通うにしても、その準備の勉強をするなど、今からできることは少なくありません。未来からスタートすることを考えているのは、失礼な言い方ですが、単なる「先延ばし」にしか過ぎないのではないでしょうか。
こういうウイルスの時期、感染は収まりつつあるように見えますが、できることは従来より限られていることは確かです。しかし、それでもできることはたくさんあるはずです。こういう時期だからこそ、通常の生活の有難さを感じますが、その不満をエネルギーにして、今から始められることを見つけ出し、それを始めることで、自社やご自身の将来を変えるきっかけをつかむことが大切です。
会社で言えば、さきほどのワン・ステップさんではないですが、自社の強みを活かしてこういう時期にお客さまに貢献できることを考え実行する、個人なら、時間の余裕があるから勉強をする、あるいは、ソーシャルディスタンスに気をつけて散歩やジョギングで体重を落とすなど、できることはたくさんありますね。未来を変えるために、今できることを考え、実行してください。
先ほども述べたように「早くやってきた未来」には、それを現実と受け止めて今から変革をする企業が生き残る確率が高いことはいうまでもありません。
3.経営者の姿勢
・「指揮官先頭」と「決める」
危機時にはリーダーが指揮官先頭で対応することが大原則です。この言葉は、戦前の海軍のリーダーを養成する海軍兵学校で厳しく教えられたことです。危機時にはとくにリーダーが先頭に立って行動しないと部下は動きません。
経営コンサルタントの大先輩の一倉定先生は「評論家社長は会社をつぶす」とおっしゃっていましたが、評論をしていてはダメなのです。危機時こそリーダーが先頭に立って行動することが求められます。
その際には物事を決めないと、全体を動かせないことも明らかです。先に説明したように、衆知を集めたうえで、最後には、リーダーが決断することです。そして、それを先頭に立って行うのです。先頭に立つには「覚悟」が要りますが、これは普段からやっていないとやれないことです。普段から指揮官先頭を念頭に行動しておくことが大切です。
・ダウンサイドリスクを考え、資金繰りを最優先にする
こういう時には、経営者は、自社の状況を冷静に判断することです。とくにダウンサイドリスク(最大限被る被害)を考えてください。お客さまの減少のみならず、場合によってはお取引さんの倒産もありえます。その際に、どこまで損害を被るかを考え、資金を普段より多めに持つことが鉄則です。手元流動性(現預金)を十分に確保しておくことです。通常なら、中小企業でも手元流動性は月商の1.7か月分もあれば十分ですが、今は、危機が去るまで多く持っておいたほうが安全です。政府も日本政策金融公庫などを通じて中小企業を中心に資金供給を増やしていますが、手元流動性が十分でない企業は、「保険」のつもりで借りておくことをお薦めします。
多くの経営者を見てきましたが、資金が足りなくなるとパニックになりがちです。「お客さま第一」どころではなくなります。「恒産なくして恒心なし」は孟子にある言葉ですが、経営者が心に余裕を持ち、正しい判断をするためにも、金融機関と相談して十分な手元流動性を確保してください。
また、場合によっては雇用調整助成金や政府からの補助金の申請も必要です。社労士さんや税理士さんとも十分に相談をしてください。
・幹部とはリスクの共有を、社員には安心感を
幹部社員とは、普段より連絡を密にして、先ほど説明した「ダウンサイドリスク」をお互い十分に認識して、情報を共有しておくことが大切です。最終的に意思決定はリーダーが行わなければなりませんが、正確な情報を得ることです。衆知を集めることです。
ただし、社員に危機感をあおるのは逆効果です。それでなくとも社員は心配をしていると思いますが、社員がその危機をコントロールすることはできません。リーダーが危機をあおっても、逆に「このリーダーだからリスクが余計に高まる」あるいは「このリーダーではダメだろうな」と思われるのがオチです。
経営者は状況を十分に認識した上で、社員には見通しを正確に説明することと、資金的には心配ないことを説明して安心感を与えることです。そのうえで、非常時での協力を求めてください。不要不急の出費を控えることや、場合によっては時短の了解を得なければならないかもしれません。
先に述べたこととも関係しますが、非常時に大切なことは「意識」を共有することです。コミュニケーションは「意味」と「意識」の両方です。「コピーを100枚とってほしい」、「○○さんを訪問してほしい」というのは「意味」です。この際、皆さんも経験があると思いますが、同じことでも好きな人から言われたらやりたいけれども、いやな人から言われたらやりたくないと思います。これは意味の問題ではなく、意識の問題なのです。
危機時に人を動かすには、とくに意識の共有が必要です。普段から意識の共有ができている会社なら、部下はリーダーの指示に従ってくれると思います。しかし、そうでない会社もあるでしょう。そうした場合、メールだけで指示を出すのでなく、会って話をすることが有効です。メールは意味を伝えるには便利な道具ですが、意識は伝わりにくいのです。少なくとも電話などで肉声で話すことのほうがメールよりも、格段に意識は伝わりやすいのです。Zoomの活用も有効です。
いずれにしても、企業経営者は、この先の見通しをあまり楽観的に見ないことが現時点では大切です。リスクを十分に考えたうえで、社内では明るくふるまってくださいね。来年、この「KC文集」が出るときには、コロナが収まっていることを心から願うばかりです。