(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2024」掲載記事)
ピーター・ドラッカー先生は経営の本質を見抜いていることが多い。本稿では、ドラッカー先生の言葉をそのまま引用することで、経営に対する基本的な考え方を説明するとともに、リーダーシップについての考え方を説明する(先生の言葉、解説・エピソード、私の体験という順で各項を説明している)。
1.(ドラッカー先生の言葉)
マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで三つの役割がある。
- 自らの組織に特有の使命を果たす。
- 仕事を通じて働く人を活かす。
- 自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。(『マネジメント[エッセンシャル版]』
(解説・エピソード)
ドラッカー先生はなんのためにマネジメントが必要かということで、上の3つを挙げている。「特有の使命を果たす」ことで、お客さま、ひいては社会に貢献する。「働く人を活かす」こともとても大事だ。社会は人を幸せにするために存在するが、現代社会では所属する組織が社会への一番大きな接点で、その組織が働く人を不幸にするのは、社会とは自己矛盾だとドラッカー先生は言う。
そして、働く人を活かし、幸せにする最良の方法が、特有の使命を果たすことだ。それを通じて働く人に生きがいと経済的な幸せを与えることだと私は考えている。
最後の「自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する」は、いまはやりのSDGsだ。ドラッカー先生は半世紀以上前にそのことを見抜いていた。
(私の体験)
「お客さま第一」とよく言われるが、上で言っていることと同じことだ。お客さまに対して良い商品やサービスを提供する、ひいては特有の使命を果たすことで、働く人に働き甲斐や経済的幸せを与える原点だからだ。
私は組織がそこで働く人に与えられる幸せは2つだと考えている。1番目が働きがい、働くことそのものの幸せ。2番目が経済的幸せ。この順番を間違わないことが大切で、経済的幸せが1番目に来ると、「金の切れ目が、縁の切れ目」のような組織となる。ノルマに追われる、利己主義的な社風がはびこるなど、働く人が疲弊するのも、会社や経営者の考え方が間違っているからだ。
私の親しいお客さまで、若い社員たちが「朝が早く来ないかな」、「会社に行くのはディズニーランドに行くより楽しい」という会社があるが、正しい考え方や社風を作れば、働く人も幸せで高収益な会社となる。
ドラッカー先生の考え方も働く人の幸せに根差した、高パフォーマンスの組織作りが原点にある。
2.(ドラッカー先生の言葉)
成果を上げる人と上げない人の差は、才能ではない。いくつかの習慣的な姿勢と、基礎的な方法を身につけているかどうかどうかの問題である。(『非営利組織の経営』)
(解説・エピソード)
ドラッカー先生は「成果」ということを強調する。お客さまや同僚、ひいては社会が求めているのは「成果」だ。成果で人は評価される。そのためには、「時間管理」や自身や組織の「強み」を活かしているかが大切だと説明している。
また、ドラッカー先生は「成果」と「結果」とを区別する。「成果」とは、成果物というようにアウトプットだ。企業で言えば、商品やサービスだ。売上や利益はその「結果」である。働く人で言えば、報告書であったり発明品だったり、プレゼンテーションだったりする。売上や利益などの「数字」などはその結果だ。私の人生の師匠の曹洞宗円福寺の故藤本幸邦老師は「お金を追うな、仕事を追え」と良くおっしゃっていたが、同じ意味だ。そのほうが働く人も働き甲斐を感じられる。
適切な「成果」を生み出すことが、良い「結果」を生む。結果だけを求めてもそれを得られるわけではない。あくまでも「成果」が必要だ。
(私の体験)
仕事柄多くの人を見てきた。やはり、成果を出す人は、コツコツと努力をしている人が多いと感じる。ドラッカー先生の言う「習慣的な姿勢」だ。自身の仕事で成果を出すために、その仕事に必要な基礎的な知識や能力を十分に身につけているとともに、それらを向上させるためにコツコツと地道な努力をする。これは習慣の問題だ。
さらには、熱意も必要だ。人から評価されるような成果を出そうとする熱意がなければ成果は出ない。
適切な成果が出ると、結果が出て、周囲からも評価されるので、余計に働き甲斐が出る。もちろん、経済的にも評価される。そのためにも、求められる成果を出せるような習慣や技能が必要となる。
3.(ドラッカー先生の言葉)
さらに基本的なこととして、成果すなわちアウトプットを中心に考えなければならない。技能や知識など仕事へのインプットからスタートしてはならない。それらは道具に過ぎない。いかなる道具を、いつ何のために使うかは、アウトプットによって規定される。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
(解説・エピソード)
仕事のできる人は、お客さまや同僚、ひいては社会が何を求めているかをよく知っている。求められるアウトプットからスタートし、それに必要なインプットを行う。
いつかなにかの役に立つと思って多くの時間を使って膨大なインプットをしようとする人がいる。新聞記事の切り抜きをやたら貯めている人もいるが、ほとんど見直しもしないし、役にも立たない。やはり、求められているアウトプットから始めることが大切だ。それについての必要なインプットをするのだ。人はアウトプットでしか評価されない。
評価されるということは、それだけ相手に役立っているということで、それは自己満足のインプットからは生まれない。
さらにはドラッカー先生は、その大前提として、
「焦点は仕事に合わせなければならない。仕事が成果をあげることのできるものでなければならない。仕事がすべてではないが、仕事がまず第一である。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
仕事、それも成果をあげる仕事をすること、それに焦点をあてることが大切だ。
(私の体験)
私は現在、月に7本の連載を書いているが、一番多い時には17本書いていた。次から次へと締め切りがやってくる。本もこれまで単著で160冊出した。講演もいまでも年100か所くらいは行っていると思う。アウトプット、それも質の良いアウトプットが常に求められるので、新聞やテレビのニュース、本、雑誌からコンスタントにインプットしているが、「必要は発明の母」で、何か書かなければならないなどのニーズがあると、自然に文章やニュースが目に飛び込んでくるものだ。
物書きや講演するときには、テーマを決め、何をアウトプットするかを決めることが大切で、そうすれば、それに必要なインプットは何かが必然的に決まってくると思う。
4.(ドラッカー先生の言葉)
成果中心の精神を高く維持するには、配置、昇給、昇進、降級、解雇など人事に関する意思決定こそ、最大の管理手段であることを認識する必要がある。それらの決定は、人間行動に対して数字や報告よりもはるかに影響を与える。組織のなかの人間に対して、マネジメントが本当に欲し、重視し、報いようとしているものが何であるかを知らせる。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
(解説・エピソード)
働く人は、自身の昇給や昇格にとても敏感だ。ドラッカー先生はそれらについての意思決定が最大の管理手段だという。逆の言い方をすれば、何によって評価され、かつその評価制度が公平に行われているかがとても大切になる。えこひいきなどもってのほかだが、何が評価されているかが分からなければ、何について頑張ればいいかが分からない。
また、評価には公平性が求められることは言うまでもない。そのためには、評価者の訓練も大切だ。求められる「成果」が何かをしっかりと伝え、また、相手がしっかりと理解していることが必要だ。
一方、ドラッカー先生は次のようにも述べている。
「自ら成果をあげるということは、一つの革命である。前例のないまったくの新しい種類のことが要求される。あたかも組織のトップであるかのように考え、行動することが要求される。」(『明日を支配するもの』)
(私の体験)
ある会社の社外取締役をしており、その関係でその会社の指名委員会の委員長をしている。親会社や子会社の役員の選定や評価を行っている。先ごろは親会社の社長の選定を行った。
その際に、評価のポイントや公平性ということはとても注意しているが、その人事を通じて、社内外にどのようなメッセージを伝えるか、つまり会社としてどういう方向を目指し、そのためにどういう人を選定しているかということがうまく伝わることについてもとても注意している。
5.(ドラッカー先生の言葉)
人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。手続きや雑事を必要とする。人とは費用であり、脅威である。
しかし人は、これらのことのゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえである。組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することである。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
(解説・エピソード)
ドラッカー先生は「強み」ということを強調する。
「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない。結果を生むには、利用できる限りの強み、すなわち、同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動員しなければならない。(『経営者の条件』)」
「強みが成果に結びつくよう人を配置する」、「人を生かすべきものとして扱い、その適材適所を図る」(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
次のようなエピソードも述べている。
「鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが自らの墓碑銘に刻ませた『おのれよりも優れたものに働いてもらう方法を知る男、ここに眠る』との言葉ほど、大きな誇りはない。成果をあげるための優れた処方はない。」(『経営者の条件』)
松下幸之助さんも「長所7割、短所3割」で人を見るとおっしゃっている。強い組織は、それぞれの強みが発揮でき、各人の弱みをカバーするチームだ。それがチーム力だ。また、それぞれのメンバーも自身の強みを発揮できる場のほうが、当然働く人も生き生きと働ける。
チーム力を発揮できるリーダーは、各人の強みを活かせる人だ。
(私の体験)
私は、各人の長所を活かせるリーダーは「人を心から誉めることのできる人」だというふうに考えている。人をけなしてばかりいる人は、人の短所に目が行くからだ。長所を活かすためには、その長所を見出さなければならず、それができる人は人を心からほめることのできる人だと思う。
また、人には必ず良い面と悪い面があるが、人の良い面を見つけられる人は、「積極思考」だともいえる。物事にあたるときに、「できる」と思える面と「できない」と思える面があるが、積極思考の人は「できる」ほうから物事を考えるので成功する確率も高い。しかし、積極思考であっても、計画を立てるときには慎重に計画を立てることが必要なことも言うまでもない。「大胆に着想し、慎重に計画を立て、大胆に実行する」ことが必要だ。
6.(ドラッカー先生の言葉)
組織とは、個としての人間一人ひとりに対して、また社会を構成する一人ひとりに対して、何らかの貢献を行わせ、自己実現させるための手段である。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
(解説・エピソード)
組織が働く人に求めていることは貢献だとドラッカー先生は言う。
「目標は組織への貢献によって規定されなければならない」(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
さらには、
「人間関係の能力をもつことによって、よい人間関係がもてるわけではない。自らの仕事や他との関係において、貢献を重視することによって、よい人間関係がもてる。こうして人間関係が生産的となる。生産的であることが、よい人間関係の唯一の定義である。(『経営者の条件』)」
とよい人間関係を築く前提として貢献の必要性を述べている。
組織がその構成員に求めるものは、その組織に対する「貢献」だ。それを目標にしなければならない。ここをあいまいにしては組織運営は成り立たず、その組織はパフォーマンスが出ない。
目標設定も重要だ。
「マネージャーたるものは、上は社長から下は職長や事務主任にいたるまで、明確な目標を必要とする。目標がなければ混乱する。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)」
どのような貢献を各人に求めているかを明確にするのが、各人や所属する部署に求める「目標」だ。各人が具体的にどのように組織に貢献するかを目標としている組織が良い組織だ。ダメな組織は「共同無責任」となっているところが多い。
(私の体験)
会社は仕事をしにくるところだという当たり前のことが分かっていない人もいる。ただ、行っていればいいくらいの気持ちの人もいる。会社は学校とは違う。学校はお金をもらって教育を提供するサービス業だが、仕事は違う。組織への貢献が必要だ。
目標に関しては、「散歩のついでに富士山に登った人はいない」という話を講演などでよくする。明確な目標なしでは、いつまでもそのあたりを散歩しているような状態かもしれない。
稲盛和夫さんは「高い目標を持て」とおっしゃる。その目標は「高い志」やしっかりした「目的(=存在意義)」に根差していなければならない。
7.(ドラッカー先生の言葉)
通常使われている意味での権限委譲は、間違いであって人を誤らせる。しかし、自らが行うべき仕事を委譲するのではなく、自らが行うべき仕事に取り組むために人にできることを任せることは、成果をあげるうえで重要である。(『経営者の条件』)
(解説・エピソード)
トップマネジメントでも中間管理職でも、部下に権限を委譲することが必要となるが、権限移譲のポイントは、自分しかできない仕事に専念するためだ。それが、パフォーマンスを高める。
トップマネジメントに関しては、
「あらゆる組織にとって、トップマネジメントの機能は不可欠である。もちろんトップマネジメントが行う具体的な仕事は、組織によって異なる。それは個々の組織それぞれに特有である。問題はトップマネジメントとは何かではない。「組織の成功と存続に致命的に重要な意味を持ち、かつトップマネジメントだけが行いうる仕事は何か」である。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)」とドラッカー先生は述べている。自分しかできない仕事をするのだ。
トップマネジメントが行うべき仕事は「経営」で、経営とは①企業の方向付け、②資源の最適配分、③人を動かすである。
ドラッカー先生は、トップマネジメントに限らずリーダーには、必要な4種類の性格があると言っている。「考える人」「行動する人」「人間的な人」「表に立つ人」だ。「考える人」と「行動する人」は先に述べた私が考えるビジネス基礎力の「思考力」と「実行力」だ。「人間的な人」でなければ、人の喜びや悲しみが分からないため、人がついてこない。「表に立つ人」とは「指揮官先頭」で行動する人だ。それには覚悟がいるし、普段からそれを行っていなければならない。
(私の体験)
私はよく経営者に「部下の仕事に逃げ込むな」ということを話す。部下の仕事がよくできたからと言って、リーダーは評価されない。リーダー独自の仕事をしなければならない。特にトップマネジメントならなおさらだ。そのために権限移譲が必要なのだ。
経営コンサルタントの大先輩・一倉定先生は「ダメな会社は、社長が部長の仕事をし、部長は課長の、課長は係長の、係長は平社員の仕事をしている。そして、平社員は会社の将来を憂いている」とおっしゃっていたが、それぞれのマネージャーは、自分にしかできない仕事をしなければならない。
8.(ドラッカー先生の言葉)
成果をあげる秘訣の第一は、共に働く人たち、自らの仕事に不可欠な人たちを理解し、その強み、仕事の仕方、価値を活用することである。仕事とは、仕事の論理だけでなく、共に働く人たちの仕事ぶりに依存するからである。(『明日を支配するもの』)
(解説・エピソード)
組織のパフォーマンスを高めるためにも、働き甲斐を生むためにも、お互いを知る、お互いに関心をもつということが大切だ。
「組織の摩擦のほとんどは、たがいに相手の仕事、仕事のやり方、重視していること、目指していることを知らないことに起因する。問題は、たがいに聞きもせず、知らされもしないことにある。(『明日を支配するもの』)」
お互いを知る、理解するということで信頼が生まれるとも述べている。
「組織は、もはや権力によっては成立しない。信頼によって成立する。信頼とは好き嫌いではない。信じあうことである。そのためには、たがいに理解しなければならない。『明日を支配するもの』)
知る努力も必要だ。
「成果を上げる組織では、トップマネジメントが意識して時間を割き、ときには新入社員に対してまで、あなたの仕事について私は何を知らなければならないか、この組織について何か気になることはないか、我々が手をつけていない機会はどこにあるか、気づいていない危険はどこにあるか、私に聞きたいことは何かとじっくり聞いている。(『経営者の条件』)」
(私の体験)
松下幸之助さんも会社が大きくなっても、新入社員に話を聞いていた。
英語のcompanyという言葉は、会社や仲間と訳されるが、com(一緒に)という言葉とpanとに分かれる。panはパンであったりフライパンのように鍋を意味するという。同じ釜の飯を食うということだ。
宴会や社内旅行などが一部の組織では嫌われる一方、一部の組織では頻繁に行われている。運動会を復活させている会社もあるという。
もちろん、強制では逆効果になるが、そのような機会はお互いを知る良い機会となる。私は、事務所にいるときはよくスタッフを誘って近くのファミレスに行くが、仕事だけでは分からない面が見えることがある。お互いを理解するところから仕事がスタートすると感じる。
9.(ドラッカー先生の言葉)
優先順位の決定にはいくつか重要な原則がある。すべて分析ではなく勇気にかかわるものである。第一に、過去ではなく未来を選ぶ。第二に、問題ではなく機会に焦点をあてる。第三に、時流に乗るのではなく独自性をもつ。第四に、無難で容易なものではなく、変革をもたらすものを選ぶ。(『経営者の条件』)
(解説・エピソード)
経営の一番は「企業の方向づけ」だが、それには未来志向であることが大切だ。経営や人生が難しいのは、誰も分からない未来に働きかけなければならないことだ。もちろん、過去の経験等は参考にはなるが、過去と同じ環境が現在、未来に存在する可能性は低い。そして、未来をどう良くしていくかを考えなければならないが、未来は不確定なので、議論が対立することも少なくない。ドラッカー先生は「マネジメントの行う意思決定は、全会一致によってなしうるものではない。対立する見解が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断のなかから選択が行われて初めてなしうるものである。したがって、意思決定における第一の原則は、意見の対立をみないときには決定を行わないことである。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)と述べている。
そのためにも、機会に焦点をあてることが大切だ。
また、時流に乗るのは難しくないが、それはいずれ去る。他社と違う独自性を出すことが大切だ。そうすれば生き残れる。
無難で容易なものは、だれでもやることができる。
これらは判断や考え方の問題だが、それには勇気が必要なことも少なくない。
(私の体験)
仕事柄多くの会社を見てきたが、自社の「独自性」というのがキーワードだと思う。それを未来志向で実行できるかだ。そのためには、リーダーの役割が特に大きい。リーダーが、未来志向で、かつ何が何でもやり遂げるという強い意志をもっているかどうかにかかっている。
また、時流に乗りたがる経営者もいるが、だいたい成功しない。最近のタピオカや高級食パンブームで、それを始めた経営者も知っているが、成功はしていない。そんなオリジナリティのないビジネスなど誰でもやるし、長続きしないからだ。強みを生かして、お客さまや社会を良くしようと思うような気概が必要だ。
10.(ドラッカー先生の言葉)
厳しいプロは、高い目標を掲げ、それを実現することを求める。誰が正しいかではなく、何が正しいかを考える。頭のよさではなく、真摯さを大切にする。つまるところ、この真摯さなる資質に欠ける者は、いかに人好きで、人助けがうまく、人づきあいがよく、有能で頭がよくとも、組織にとって危険であり、上司及び紳士として不適格である。(『現代の経営』)
(解説・エピソード)
「真摯さ(integrity)」ということをドラッカー先生はとても重視する。テクニックも必要だが、その根底に真摯さを持っていなければならない。
「信頼するということは、リーダーを好きになることではない。つねに同意できることでもない。リーダーの言うことが真意であると確信をもてることである。それは、真摯さという誠に古くさいものに対する確信である。」(『未来企業』)
「信頼がないかぎり従う者はいない。そもそもリーダーについての唯一の定義が、つき従う者がいることである。(『未来企業』)
ドラッカー先生の本には、真摯さの例として、「フェイディアスの教訓」という話が出てくる。アテネの会計官はパルテノン神殿完成後に彫刻家のフェイディアスからの請求を見て、顔をしかめたという。どの位置からも絶対に見えるはずのない彫刻像の背中の部分の製作費まで請求していたからだ。それに対して、フェイディアスは「そんなことはない。神々が見ている」と答えたという。
真摯さに関連して、以下のことも述べている。
「真摯さを絶対視して、初めてまともな組織といえる。」(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
(私の体験)
「信」という字は、「人」の「言葉」と書く。言ったことを守るというのが信用、信頼を得る大前提だ。だから、私は、小さな約束は必ずメモするようにしている。小さな約束はこちらは忘れがちだが、相手は覚えていることも少なくない。
“integrity”という言葉は、ドラッカー先生の本では「真摯さ」と訳されることが多いが、私は語感的に「首尾一貫」というふうに取らえている。言ったことを守り、他の言動とも首尾一貫していることが大切だろう。
11.(ドラッカー先生の言葉)
成果をあげるための実践的な能力は五つある。第一に、何に自分の時間がとられているかを知り、残されたわずかな時間を体系的に管理する。第二に、外部の世界に対する貢献に焦点を合わせる。第三に、強みを中心に据える。第四に、優先順位を決定し、優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中する。第五に、成果をあげるよう意思決定を行う。(『経営者の条件』)
(解説・エピソード)
ここでは、ドラッカー先生は、総括的に、成果をあげるために必要なことを説明している。
ひとつは、先にも出てきた時間管理、二つ目は周囲や社会が何を求めているかを知り、それに貢献することに集中するということ、第三にそのためにも自身の強みを生かすこと、そして、優先順位を決めること、なんでもやれないからだ。そして、最後に重要なことは、成果をあげるべく、意思決定を行うことだが、「そうなりたいと思う」ということが何よりも大切だろう。
ドラッカー先生は次のようにも言っている。
「問題の解決によって得られるものは、通常の状態に戻すことだけである。せいぜい、成果をあげる能力に対する妨げを取り除くだけである。成果そのものは、機会の開拓によってのみ得ることができる。」(『創造する経営者』)
トラブルシューティングに時間を取られがちだが、「普通」になる努力をしているだけだという認識が必要だ。
(私の体験)
20名足らずの当社でもコピー機が故障すると何人もが集まって、その対応をしている姿を見かける。仲間を助けようとする姿勢は評価できるが、そういうときに私は、「コピー機が元通りになっても普通になるだけ」という話をし、専門家を早く呼びなさいと指示する。
多くの人が、「普通」の状態になるために多大な努力をしているが、自身の強みを生かして、周りや社会から評価されることに集中したほうが自身のためにも、社会のためにも良いことだと認識しないといけない。
人から評価もされず、普通かそれ以下にしかなれないことには、それほどの時間を使わないことが大切だ。
12.(ドラッカー先生の言葉)
効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である。(『未来企業』)
(解説・エピソード)
ドラッカー先生は「リーダーシップ」についての記述も多い。
「リーダーシップは重要である。だが、それは、いわゆるリーダー的資質とは関係ない。カリスマ性とはさらに関係ない。神秘的なものではない。平凡で退屈なものである。」(『未来企業』)
同様に、「リーダーシップとは、人を惹きつける資質ではない。そのようなものは煽動的資質にすぎない。リーダーシップとは、仲間をつくり人に影響を与えることでもない。そのようなものはセールスマンシップにすぎない。」(『現代の経営』)
また、「カリスマ性でも資質でもないとすると、リーダーシップとは何か。第一に言うべきことは、それは仕事だということである。(『未来企業』)」
リーダーシップとは、「仕事」なのだ。その定義は、上で述べているように、使命を明確に定義し、それに基づいた目標を設定し、そのための優先順位を設定することだ。
(私の体験)
仕事柄多くのリーダーを見てきたが、そのリーダーシップのスタイルはさまざまだと感じている。一方、成功している多くのリーダーに共通しているのは、「ビジョナリー」だということだ。将来像を描き、それに向かっていくための道筋を具体的にかつ慎重に選定し、優先順位を決め、資源を適切に配分できる人たちだ。つまり、リーダーとしての役割をきちんと認識し、それを実行している人たちだと言える。
13.(ドラッカー先生の言葉)
今日でも私は、『何によって人に憶えられたいか』を自らに問い続ける。これは自らの成長を促す問いである。なぜならば、自らを異なる人物、そうなりうる人物として見るように仕向けてくれるからである。(『非営利組織の経営』)
(解説・エピソード)
この話には、付随するエピソードがある。
「私が13歳のとき、宗教の先生が教室のなかを歩きながら、生徒一人ひとりに、『何によって憶えられたいかね』 と聞いた。誰も答えられなかった。先生は笑いながらこう言った。『いま答えられるとは思わなかったよ。でも50歳になって答えられないと問題だよ。人生を無駄に過ごしたことになるからね』」(『非営利組織の経営』)
また、ドラッカー先生は次のようにも述べている。
「まず果たすべき責任は、自らのために最高のものを引き出すことである。人は自らがもつものでしか仕事ができない。しかも、人に信頼され協力を得るには、自らが最高の成果をあげていくしかない。(『非営利組織の経営』)」
自分自身も強みを生かし、かつ、最高の成果をあげることで、人から評価され、協力を得ることができる。
(私の体験)
私はよく、「なれる最高の自分になる」というお話をする。人は、なれないものにはなれないが、だれでも、自身の能力を伸ばしながら「なれる最高の自分」にはなれると思う。
そのためには、自身を信じることが大切だ。自分という宝石の原石を磨き続けなければならないが、そのためにも自分を信じるということが大切なのだ。それには、小さな成功体験を積み重ねる必要がある。そうすれば、自分ならできるという「自負心」が芽生える。
人生には良い時や悪い時が必ずあるが、それでも、前向きに「なれる最高の自分」を目指すことだと思う。これは、松下幸之助さんがおっしゃる「生成発展」にもつながる。
松下さんやドラッカー先生など、成功している人は、未来や人間の持つ可能性を信じていると感じる。
小宮 一慶