7月23日、日米間の相互関税交渉が妥結し、対日関税は15%で合意されました。当初提示されていた25%よりは低く抑えられたものの、従来の水準と比べれば依然として高い水準です。たとえば自動車の場合、従来の関税は2.5%でしたが、今回の合意で15%となり、実に約6倍の上昇です。
このような関税上昇分を販売価格に転嫁すれば、日本車の価格競争力が低下し、米国市場でのシェア維持に影響が出る可能性があります。
こうした状況を受けて、自動車メーカー各社は、関税によるコスト上昇を回避するため、米国内での生産・販売体制の強化を進める可能性があります。実際、トヨタ自動車は本年に入り、米国内での生産能力拡大を打ち出しています。また、トランプ政権が掲げる「米国製造業の復権」に呼応するかのように、トヨタ自動車の豊田章男会長は、米国で生産した自動車を日本へ輸入するという方針を示されています(出典:日本経済新聞 8月6日朝刊「『トヨタを使ってください』豊田章男会長、首相に関税交渉カード渡す」)。
このように、生産拠点の「米国シフト」が進むと、国内生産の減少による雇用や経済への影響も懸念されます。
では、この高関税政策は今後も継続されるのでしょうか。
一部には、「関税による物価上昇がインフレを招き、米国民の反発が高まることで関税は引き下げられるだろう」との見方もあります。たしかにその可能性は否定できませんが、歴史的に見ると、関税政策は国内産業の保護手段として有効であったケースも多く存在します。
たとえば、1929年の世界大恐慌後、イギリスやフランス、米国などの主要国は「ブロック経済」を採用し、関税を通じた国内産業の保護に舵を切りました。今回も、関税政策によって米国国内の製造業が活性化すれば、この政策は継続される可能性が高いと考えられます。
さらに、少し先の話となりますが、2028年の米国大統領選挙で民主党に政権交代が起きた場合、関税政策は転換されるのでしょうか。
私は、仮に政権交代が実現したとしても、高関税政策が継続される可能性があると考えています。その理由は二つあります。
第一に、関税政策が米国の産業保護に資する、つまり「国益にかなう」と判断される場合、政権が変わっても方針を変える理由が乏しいという点です。
第二に、実は民主党の方が、伝統的に保護主義的な政策に傾く傾向がある点です。民主党は労働組合を主要な支持基盤としており、国内産業の保護が支持者の利益にかなうためです。そのため、高関税政策を共和党政権が採ったという理由だけで、民主党がこれを撤回するとは限りません。
以上の理由から、今後しばらくは高関税政策が継続されるシナリオを想定しておく必要があると考えます。少なくとも、政策継続を前提にしても事業が成り立つよう、経営戦略や事業計画を再構築すべきです。
紙幅の関係上、具体的な対応策は割愛しますが、実際に私が支援している企業でも、輸出製品の価格見直しや、得意先の米国内生産シフトに対応する施策の検討を進めているケースが増えています。
今後の不確実な国際環境に備え、早め早めの検討と準備が不可欠です。
増田 賢作