いまさらながら、2011年のなでしこジャパンの試合を映像で見返しました。あの年は東日本大震災の直後。世界が日本を見守る中で戦い世界一に輝いたワールドカップでした。
インタビューで澤穂希選手も川澄奈穂美選手も、「なぜか優勝できると信じていた」と語っています。チーム全体に、根拠を超えた不思議な確信があったのです。その空気を支えていたのは、「震災の中、サッカーをしていていいのか」と悩みながらも、「私たちがサッカーをすることでみんなを元気にできる」という使命感でした。勝つことの目的が、ただ自分たちの栄光のためではなく、人々の力になるためにあったのです。
川澄選手は、当時のチームを「個性と自己犠牲」で成り立っていたと振り返っています。
一人ひとりに代名詞がつくほど個性的な選手たち。けれども誰もが「自分の主張よりもチームの勝利を第一に考える」という姿勢を貫いていました。たとえ試合に出られなくても声を出し、ベンチからチームを支える。その姿は「自己犠牲」というよりも、むしろ誇りある献身と言えるでしょう。背景にあったのは「サッカーをできる喜び」と「使命感」でした。
ここに、リーダーシップの本質が表れています。強みを生かすことは自分のためであると同時に、自分のためだけではありません。その強みを差し出すことで、誰かの役に立ち、チームに力を与えることができます。その姿勢こそが、真のリーダーシップではないでしょうか。
リーダーシップとは、役職や立場に限られたものではありません。自分の個性を、より大きな目的のために差し出せるとき、人は自然に周囲を導く存在になります。そして、その姿勢が仲間に広がるとき、全員がリーダーシップを発揮する強い組織が生まれます。
経営にも同じことが言えます。震災がなでしこジャパンに「なぜ自分たちはサッカーをするのか」という問いを突きつけたように、経営にも常に「なぜこの事業をするのか」という目的や使命感が問われます。経営者のリーダーシップとは、社員一人ひとりがその使命感に共鳴し、覚悟を持って個性を発揮し、誇りある献身ができるような“場”をつくることだと思います。
当たり前のように働ける日々は、決して当たり前ではありません。その有難さを胸に、個性を献身に変えていけるとき、人も組織も本当に強くなります。社員一人ひとりがリーダーとなる組織をつくること。そこに、これからのリーダーシップの形があると感じます。
馬場 秀樹