人がパフォーマンスを発揮したり、成長したりする際に「気持ちが大事」ということを何度となく聞いてきました。
自分自身の経験としても、スポーツ競技をやってきたり、ビジネスの一線で試行錯誤してきた中で、そのことが大事なことであるということは感じています。
一方で、なぜ「気持ちが大事」なのかはよくわかっていないと思い、今日は、気持ちがどう人のパフォーマンスに影響を及ぼすのかについて調べて考えたことをお伝えできればと思います。
■「気持ち」でパフォーマンスは上がるのか?
「気持ちが大事」の「気持ち」の部分を言語化すると、「自分はできると信じること」と言えるのではないかと考えます。
そのことを表す具体例があるので紹介したいと思います。
<大リーグアナハイムエンジェルスの菊池雄星選手の話>
菊池選手は、岩手の花巻東高校の出身で、高校時代に甲子園で活躍。その後、日本のプロ野球でも活躍を続け、現在は大リーグアナハイムエンジェルスでエースとして活躍しています。
そんな菊池選手が、他県の強豪校から誘いがあった中で、地元岩手の花巻東高校に決断したとき、次のようなことを考えたと言います。
「北海道が優勝できたんなら、岩手だってできる。岩手から甲子園優勝をつかみ取りたい。」
この思いに至るきっかけをつくったのは、その当時、駒大苫小牧高校で北海道初の優勝を果たした田中将大選手の姿でした。
惜しくも菊池選手は、甲子園ベスト4という結果に終わりましたが、その後の活躍を見れば、甲子園での飛躍が大きなきっかけになっていたことは明白です。
「俺にもできる」
この言葉が、菊池選手のパフォーマンスに大きな影響を与えたと言っても良いと考えます。
■サッカー日本代表はなぜここまで強くなったのか?
サッカー日本代表は、1998年のフランスでのワールドカップに初出場してから、7大会連続でワールドカップに出場しています。そして、2026年に北中米で行われるワールドカップ予選も圧倒的なパフォーマンスで8度目の出場権を獲得しました。
しかし、1990年ごろ、サッカーの日本代表がワールドカップに出場できると思っていた人はごくごくわずかで、日本がワールドカップに出場することは、果てしなく遠い「夢」の状態でした。
そこに一石を投じたのが、1992年に発足したオフトジャパンでした。その年に初めてアジア杯を制し、その勢いでワールドカップ予選も勝ち続けましたが、あと一歩のところで、あの有名な「ドーハの悲劇」が起こり、出場を逃しました。
その光景を目の当たりにしていた中田英寿選手や城彰二選手の世代の活躍によって、念願のワールドカップの出場を果たし、そしてその後、7大会連続で出場。前回大会では、優勝経験のあるドイツ・スペインを破りました。
なぜ、サッカー日本代表は、ここまで強くなることができたのでしょうか?
もちろん、サッカー人口や指導者の成長、指導方法の向上、環境の向上などもあると思いますが、私が注目しているのは「先人の姿の影響」です。
どういうことかというと、ドーハの悲劇を見ていたサッカー少年たちが、「俺もあの舞台に立ちたい」、「俺がワールドカップに出場させる」という想いを持ち、ワールドカップに出場することは夢ではなく目標になりました。
ワールドカップに出場し続ける日本代表を見ていたサッカー少年たちは、「ワールドカップに出場するだけではなく、そこで活躍したい、勝ちたい」ということが夢ではなく、目標になっています。
先人の姿を見て「俺にもできる」と思ったのではないか。そして、その気持ちが、サッカー少年たちのパフォーマンスを引き上げていったのではないかと考えます。
■「俺にもできる」はパフォーマンスを上げるのか?
しかし、「俺にもできる」は本当に人のパフォーマンスを上げるのでしょうか?
調べてみると、そこには「脳」がカギを握っていることがわかりました。具体的には、脳の中の「前頭前野」と呼ばれる部分。
脳辞典によると、「前頭前野はヒトをヒトたらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている。前頭前野は系統発生的にヒトで最もよく発達した脳部位であるとともに,個体発生的には最も遅く成熟する脳部位である。一方老化に伴って最も早く機能低下が起こる部位の一つでもある。この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。」とあります。
この「前頭前野」は「脳の中の脳」とも呼ばれていて、脳の中でも超重要な部位。言い換えれば、ここが活性化すると、人のパフォーマンスも上がると考えられます。
そして、研究の中で、この「前頭前野」を活性化するために効果があるのが「幸せな感情」であり「ポジティブな思考」であるということがわかってきました。それが以下となります。
「自然科学研究機構 生理学研究所(生理研)は2016年、幸せに関連する脳領域について、構造面・機能面から調べた結果を発表。生理研 定藤規弘教授、小池耕彦特任助教、中川恵理特任助教、愛知医科大学 松永昌宏講師らの研究グループによるもので、4月13日付の米国科学誌「NeuroImage」オンライン版に掲載された。
研究の結果、幸福度が高い人ほど、内側前頭前野の一領域である吻側前部帯状回と呼ばれる脳領域の体積が大きいこと、幸せ感情の程度が高い人ほど、吻側前部帯状回の活動が大きいこと、さらに、ポジティブな出来事を想像しているときの吻側前部帯状回の活動はその場所の体積と相関していることが明らかになり、幸福度が高い人は、吻側前部帯状回が大きいために幸せ感情を感じやすいことがわかった。」(マイナビニュースより)
■「前頭前野」は鍛えることができる
上記の研究を行った定藤教授は次のようなことをコメントしています。
「今回の成果について、「最近の研究で、脳は筋肉と同じように、鍛えれば鍛えるほど特定の脳領域の体積が大きくなることが分かっていますので、今回の結果は、楽しい過去の記憶の想起や、明るい未来を想像するといったトレーニングにより、持続的な幸福が増強する可能性を示したものと言えます。」(マイナビニュースより)
これはまさに、菊池雄星選手がしていたことであり、サッカー日本代表選手や日本のサッカー業界に起きていたことではないでしょうか。
体操選手やフィギュアスケートの選手が、これまでは無理だと思っていた技を誰かができるようになると、その後、続々とその技ができる選手が出てくるということは、これまで起こってきたことだと思います。
なぜ、そのようなことが起こるのか不思議に思っていましたが、今回のことを調べて、「あの選手に負けたくない」、「あの選手ができるなら自分にもできるはず」という気持ちが、前頭前野を刺激し、人のパフォーマンスを引き上げることにつながっているのだということがわかりました。
人間の脳は、本当にすごい。
金入 常郎