月刊誌「致知」1月号に対談記事「かくしてV字回復は成し遂げられた」が掲載されていました。あしかがフラワーパーク園長を務めた後、はままつフラワーパーク理事長を務める塚本 こなみ氏と、新江ノ島水族館 社長 堀 一久氏による対談をまとめたものです。それぞれのV字回復の過程を紹介した内容は、経営を考えるうえでたいへん示唆的でした。今日は、同記事内容の一部を紹介しながら、「一番になることの意義」について考えてみます。
塚本氏があしかがフラワーパークで一貫して取り組んだのは、「世界一の藤棚」をつくりあげることだったと言います。
同氏がまだパークに関わる前だった当時、栃木にある大きな藤をパークに移植して新たな藤の公園をつくりたいという構想がありました。しかし、「移植できる藤の花は直径60センチまで」という当時の造園業界の常識から、直径1メートルもの藤が600平方メートルにもわたる藤棚の移植などとても無理だということで、移植工事を打診しても何十社と断られていたそうです。その後、女性樹木医第1号となり話題になった塚本氏に打診があり、同氏がそれを引き受け、困難極める移植工事をやり遂げ、そこから数年かけて世界一の藤棚に仕上げていったと言います。
はままつフラワーパーク理事長の就任時には、パークに特徴がなかったそうです。そこで幹部たちに集まってもらい、「いろいろなものがたくさんあるのは、何もないのと同じ。何だったらどこにも負けないものにできるのか」を徹底的に議論し、最終的に「桜とチューリップの共演」に行き着いたと言います。
同氏の就任前から、パークの日本庭園には1,500本の桜が植えられていました。そして、日本庭園ではないところに10万球のチューリップが植えられて、それぞれが単体で存在していた。桜だけなら青森の弘前公園に負ける。チューリップだけならオランダのキューケンホフ公園に敵わない。しかし、桜とチューリップの共演というコンセプトは世界中どこにもない。チューリップを50万球にまで増やし、「世界一美しい桜とチューリップの庭園」と銘打って全国に発信したのだそうです。
堀氏は、江の島水族館のコンセプトを見直しました。旧江の島水族館時代はラッコやシャチの導入、どこよりも早いイルカショーなどの話題性を持たせることに注力していた。しかし、ラッコブームが去るなどで入館者がかつての1/10にまで落ち込み、存続も危ぶまれるまでになった。
施設の老朽化などもあってリニューアルをすることになったのを機に、同水族館のコンセプトも、ブームを追いかけるのではなく、「素晴らしい相模湾をしっかりと演出し、海洋環境を伝えていくこと」にリニューアルした。
同水族館の目の前に広がる相模湾は日本でも有数の生物の宝庫で、浅瀬から深海に至るまで1,900種類の魚が生息しているそうです。その素晴らしい相模湾を伝えることを、同水族館の使命として言語化したわけです。展示も、そのコンセプトに沿ったストーリーラインにしていったと言います。
ビジネス書で名著と言われる『ビジョナリーカンパニー2』では、「三つの円」の考え方が紹介されています。飛躍した企業では、そうでない企業に比べて、「三つの円」が重なる状態で事業活動が実現できているとされるものです。「三つの円」とは下記です。
・自社が世界一になれる部分
・経済的原動力になるもの
・情熱をもって取り組めるもの
あしかがフラワーパークは藤棚で一番。はままつフラワーパークは桜だけでは一番ではない、チューリップだけでも一番ではない、これを「桜とチューリップの共演」にすることで一番になれる。江の島水族館は、相模湾の演出で一番。これらの例は、一番になるというのが、一部の企業だけに可能なことや、特殊な技術や資産などを有することが前提なわけではなく、自社で使える強みに注目してどのように活かすかの定義次第なのだと示唆していると言えます。
「三つの円」では「世界一」とありますが、状況によっては、「世界一」でなくても、例えば「日本一」「業界一」「地方一」「お客さまに対して最も○○な会社」などでもよいのかもしれません。いずれにしても、同書が示唆する「一番になることの意義」が垣間見られる事例だと思います。
また、一番と言える自社なりの商品・サービスを適切な形でお客さまに届けることと、収益性が上がることとは、卵と鶏の関係のようなものかもしれませんが、経済的原動力=十分な収益性が実現できることも成功に必要な要件だと言えます。事例のパーク・水族館も、新たに定義した商品・サービスの価値に見合うための価格見直しもお客さまに喜んで受け入れられ、赤字から黒字へ劇的な収益改善を実現し、今に至っていると言います。
そして、経営者や幹部メンバーを中心に、それが情熱を持って取り組みたいことだと思えていること。
業界の常識に否定されながらも困難な移植工事に果敢に挑んだ姿勢は、情熱以外の何物でもありません。
同水族館では、「生物たちの『つながる命』の価値を最大限伝えていく」「日本一居心地の良い水族館に」といったクレドを各部署の朝礼などで唱和し、何か迷うことがあったらクレドを読み返しながら、社員からアルバイトまで全員が思いを共有、部長やマネジャーを筆頭に皆で「えのすい」らしさをチェックし合っているそうです。「相模湾の演出」が、情熱をもって取り組めるものであろうことが、十分に伝わってきます。
自社で一番になれることは何かの定義。それが経済的原動力になるもので、情熱をもって取り組めるものであること。そして、今自社が取り組むべき最優先課題は何か。改めて問いかけたいポイントだと思います。
藤本 正雄