「もし私に木を切り倒すのに6時間与えられたら、最初の4時間は斧を研ぐのに使うだろう」
これはアメリカの大統領であるリンカーンの言葉として知られています。この言葉を理解するのにちょうど良い「木こりのジレンマ」という寓話があります。
ある木こりが、休むことなく木を切り続けていました。しかし次第に斧の切れ味は落ち、作業ははかどらなくなります。「少し斧を研いだらどうですか」と周囲が勧めても、木こりはこう答えます。「そんな時間はありません。木を切らなければならないのです……」
この話だけを聞くと、「なんて非効率なんだ」「短期的にしか物事を考えていない」と感じる方も多いと思います。一時的に斧を研ぐ時間を投資すれば、その後の作業時間は短縮でき、長期的には効率が高まります。子どもでも分かるような話です。
しかし、皆さんの会社やご自身に当てはめて考えた場合、寓話の中の木こりになっていないでしょうか。
私は研修の一環で、「業務の簡素化・効率化」について部門横断で意見を出してもらい、具体的な改善を進めることがあります。改めて異なる部署・立場のメンバーの意見を聞くと、日常業務には多くの改善余地があることが分かります。しかし、目の前の作業に追われていると、それを客観的に見直す機会を持てていません。多くのメンバーを集めることで一時的に実務は止まりますが、結果的にはそれ以上の時間削減につながります。
また、個人のスキルについても同じことが言えます。近年はAIの進歩が著しく、さまざまな場面で効率化に寄与しています。職種にもよりますが、活用している人とそうでない人の生産性には大きな差が生まれています。しかし、皆さんはAIを使いこなすためにどれだけの時間を投資しているでしょうか。
「使ってみたいが、どうすればよいか分からない」という方もいると思います。しかし、基本的な使い方であれば1時間もあれば理解できます。業務で活用するには多少の慣れや試行錯誤が必要ですが、その投資以上のリターンは十分に得られます。
さらに基本的な点として、日々パソコンを使って業務をしている方は、WordやExcelを体系的に学んでいるでしょうか。関数やマクロを使えば一瞬で終わる作業を、時間をかけて行っているケースも少なくありません。
このように、組織の仕組みづくりや個人のスキル向上など、長期的な効率を高めるためには短期的な投資が不可欠です。
切れない斧で必死に木を切る木こりにならないためにも、自社やご自身にとって「斧を研ぐ」とは何かを、ぜひ一度考えてみてはいかがでしょうか。
平野 薫