(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2026」掲載記事)
第1章 経営幹部育成の取組み
■ コンサルタントとしての、これまでの取組み
私は30歳の時にコンサルティング業界に入り、現在で21年目となります。そのうち、直近5年強は当社にてコンサルタントとして務めています。
前職までの主な業務領域は、事業戦略策定、業務改革、管理会計、事業再生などでした。メガバンクにおける管理会計構築支援や、中部エリアの中堅企業を対象とした事業再生のご支援などは、今でも特に印象に残っている仕事です。
当社に入社してからは、中堅・中小企業様を対象に、経営計画書の策定支援、PDCAの運用支援、事業承継(M&Aを含む)、経営者様向けの個別ミーティングなどに取り組んでいます。
なかでも経営計画書の策定支援は数多く手がけており、ミッション・ビジョンといった経営理念の整理に始まり、外部・内部環境を踏まえた方向付け(QPS戦略、組織・人材戦略等)、実行計画、経営目標などを計画として明確にしたうえで、その実行状況を定期的に確認し、助言を行うご支援を行っています。
こうしたご支援を続けるなかで、経営者の方々から共通していただくご要望がありました。それが、「経営幹部向け研修」です。
■「経営幹部向け研修」をはじめてみて
「経営幹部向け研修」自体は、それまで自分として十分な実績があった分野ではありませんでした。そのため、当初はご要望にお応えすることに不安もありました。
しかしながら、当社として「経営幹部向け研修」をプログラム化したこと、またこれまでのコンサルティング経験も活きると判断したことから、2024年より本格的に研修のご提供を開始しました。
実際に取り組んでみた結果、手前味噌ではありますが、「経営幹部のリーダーシップが強くなった」「経営について一緒に考え、自主的に行動してくれるようになった」といったお声をいただくようになってきました。
本稿では、この2年間で実施してきた「経営幹部向け研修」について、その背景や実施内容、得られた成果(効果)、そして取り組みを通じて得た気づきなどをご紹介したいと考えています。
特に、経営者のオーナーシップやリーダーシップが強い中堅・中小企業においては、「なかなか経営幹部が育たない」という悩みを抱えていらっしゃる経営者の方も多いのではないでしょうか。本稿が、そのような悩みをお持ちの経営者の皆さまにとって、少しでもお役に立てば幸いです。
第2章 経営者が持つ問題意識
■どのような問題意識を持っているのか
まず、経営幹部育成の必要性を感じていらっしゃる経営者は、どのような問題意識をお持ちなのでしょうか。
私の印象では、多くの経営者は、経営幹部の執行面、特に既存事業における日々の運営や取組み、その成果について、大きな不満を感じていないケースが多いように思います。そもそも、既存事業において実績を上げてきたからこそ現在の立場に至っているのであり、もちろん個別の問題や課題は都度発生するものの、一定程度は安心して任されているのが実情です。
しかし、環境変化が激しい現代においては、既存事業をこれまでと同じやり方で進めているだけでは、将来的に事業が衰退する恐れがあります。既存事業の変革や、新規事業の立ち上げに取り組まなければ、会社そのものが縮小してしまう可能性もあります。
経営者としてはこのような危機感を抱いているものの、経営幹部に対して環境変化への認識や、変化への対応について問いかけても、十分な答えが返ってこないことは少なくありません。
その結果、経営者としては、経営幹部と環境変化について認識を共有し、事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を「一緒に」検討することが難しい、という状況に直面するのです。
この点にこそ、経営者が経営幹部育成の必要性を強く感じる背景となる問題意識があるように思われます。
■なぜ問題が発生しているのか
では、なぜこのような問題が発生しているのでしょうか。ここでは、2つの観点から考えてみたいと思います。
1点目は意識面、2点目はスキル面です。
まず意識面についてですが、経営者と比較すると、経営幹部のオーナーシップやリーダーシップに対する意識は、どうしても弱くなりがちだと言えるでしょう。
特に同族経営の中堅・中小企業においては、経営者は会社と一心同体であり、企業経営はまさに「自分ごと」です。
一方で、経営幹部といえども被雇用者という立場にある以上、企業経営が「他人ごと」になりやすく、オーナーシップやリーダーシップの意識が相対的に弱くなってしまいます。
この意識の差が、環境変化に対する感度の低さや、事業変革に対する主体性の弱さにつながっているのです。
■「インプットがないと考えることはできない」
2点目はスキル面です。環境変化や事業変革について考えようとしても、「インプットがなければ考えることはできない」という現実があります。
この「インプットがないと考えることはできない」という点は、私がさまざまな場面でお伝えしていることですが、人は考え方や知識、情報などの取得、すなわちインプットがなければ、変化の必要性を理解し、あるべき姿や取り組むべきことを具体的に考えることはできません。
にもかかわらず、実際の現場では、十分なインプットの機会を与えないまま、「考えていない」ことだけを問題視してしまうケースが少なくありません。
この点を、経営者と経営幹部に置き換えて考えてみます。経営者の方々は、後継者の時代から後継者向けセミナーに参加し、経営者になってからも各種経営セミナーに参加される機会が多いのではないでしょうか。弊社が主催している経営実践セミナーや後継者ゼミナールにも、多くの経営者の方にご参加いただいています。
このように、経営者には経営を学ぶ機会が比較的多く、そうした機会を通じて、環境変化への危機感や事業変革の必要性を考えやすい環境にあります。
では、経営幹部の方々はどうでしょうか。もちろん、主体的に経営を学んでいる経営幹部の方もいらっしゃいますが、特に中堅・中小企業においては、決して多数派とは言えません。社内研修の機会も限られており、経営を体系的に学ぶ機会がほとんどないケースも多いのが実情です。
このことが、環境変化への危機感や、事業変革の必要性を考えにくくしている大きな要因だと考えています。
経営者は経営を学ぶ機会が多いため、環境変化への危機感や事業変革の必要性を考えやすい。一方で、経営幹部は経営を学ぶ機会が乏しいため、同じような問題意識を持ちにくい。この両者のギャップこそが、経営者と経営幹部が、事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を「一緒に」検討することが難しい状況を生み出している大きな原因だと考えるのです。
第3章 経営幹部育成プログラム
■育成プログラムの目的
第2章でご紹介した経営者の問題意識を踏まえ、当社では経営幹部育成プログラムを設計しました。
まず、本プログラムの目的です。経営者の問題意識を踏まえ、次のような目的を設定しています。
「環境変化について認識を共有し、事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を経営者と一緒に検討し、その内容を現場に落とし込める経営幹部を育成する」
この目的を実現するため、育成プログラムには次のような要素を盛り込んでいます。
・「環境変化について認識を共有し」
環境変化を認識するためには、日本経済新聞等を通じて、社会や経済の動向を継続的に把握することが必要です。加えて、それらの変化が自社にとって機会となるのか、脅威となるのかを分析できなければなりません。
・「事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を経営者と一緒に検討し」
経営の原理原則を学んだうえで、それらを自社の経営にどのように当てはめるのかを具体的に考える必要があります。
・「その内容を現場に落とし込める経営幹部を育成する」
現場に落とし込むためには、リーダーとしての心構えや振る舞いを学び、実践することが不可欠です。これにより、はじめて「人を動かす」ことが可能になります。
■育成プログラムの対象者
次に、育成プログラムの対象者についてです。「経営幹部育成プログラム」である以上、原則としては現在の経営幹部を対象とします。実際、現経営幹部を対象とすることで大きな変化が生まれ、目的が達成されるケースも少なくありません。
一方で、これまでの思考や行動へのこだわりが強すぎる経営幹部の場合、現実には柔軟な変化が難しいこともあります。
そのような場合には、次世代の経営幹部候補となる人材を育成プログラムの対象とすることも、有効な選択肢となります。その際には、現在の経営幹部に対して、「次世代の経営幹部を育成するための取り組みである」という趣旨を丁寧に説明することが重要です。
■育成プログラムの内容
本プログラムの目的を踏まえ、経営幹部育成プログラムの内容は、次の3つを柱としています。
① 課題図書を通じた経営の原理原則の学び
② 課題図書を踏まえた自社の戦略検討
③ 日本経済新聞を活用した経済分析
まず①では、経営の原理原則を学びます。具体的には、経営理念、経営戦略、マーケティング、財務といった経営の基本に加え、現場を動かすためのリーダーシップについても学んでいきます。
課題図書としては、弊社代表・小宮一慶の著書『経営者の教科書』や、ユニクロ創業者・柳井正氏の『経営者になるためのノート』などを取り上げています。
②では、①で学んだ原理原則を踏まえ、自社の戦略について検討していただきます。具体的には、自社の経営理念を前提に、次のような内容を整理していきます。
・環境分析
外部環境を分析し、自社にとっての機会・脅威を明らかにするとともに、内部環境を分析し、自社の強み・弱みを整理します。
・方向付け
環境分析を踏まえ、QPS戦略や組織・人材戦略を検討し、QPSおよび組織・人材の「目指すべき姿」を明確にします。
・課題設定
「目指すべき姿」の実現に向け、現状の問題点や、解決に向けて取り組むべき課題を整理します。
・実行計画
設定した課題を実行に移すための具体的な計画を検討します。
なお、②はあくまで育成プログラム内のワークであり、ここで検討された内容を必ずしも会社として採用する必要はありません。ただし、経営者が有益だと判断した内容については、実際の経営に取り入れていただいてもよいと考えています。
重要なのは、この一連の検討を通じて、参加者が自社を取り巻く環境を認識・分析し、方向付け、課題設定、実行計画までを考える経験を積むことです。これにより、既存事業や所属組織の枠にとらわれず、全社経営の視点で考える訓練を行います。
③では、日本経済新聞の記事を題材に、多角的な経済分析を行います。プログラムへの参加にあたり、日経新聞を毎日読むことをお願いしており、そのうえで毎回1本の記事を選び、次の観点から分析していただきます。
・記事内容の要約
・深掘り情報(関連する他の記事や情報)
・記事や情報から読み取れる示唆
・自社への影響
日経新聞を毎日読むことで、経済全体や社会全体への関心が高まり、②で行う環境分析の精度も向上します。その結果、新たな機会や脅威に対する方向付けが、より明確になっていきます。
これら①~③の取り組みを通じて、本プログラムの目的である
「環境変化について認識を共有し、事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を経営者と一緒に検討し、その内容を現場に落とし込める経営幹部を育成する」
ことの実現を目指します。
■育成プログラムの進め方
育成プログラムの回数や頻度は設計次第ですが、私自身は、1つのプログラムにつき全6回、月1回のペースで実施するケースが多いです。以下では、その進め方をご紹介します。
まず、プログラム開始前に「事前説明会」を開催します。ここでは、プログラムの目的や概要を説明するとともに、課題図書を読んでいただくこと、日経新聞を毎日読んでいただくことをお願いしています。
その後、1回目以降の講義を順次開催します。各回の時間割は、おおむね次のとおりです。
・課題図書を踏まえた講義(約1時間)
・事前課題の発表・討議(約3時間)
・経済分析の発表・討議(約1時間)
それぞれの内容は以下のとおりです。
- 課題図書を踏まえた講義(約1時間)
課題図書のなかから重要なポイントを取り上げ、講師が解説や他社事例を交えながら説明します。
- 事前課題の発表・討議(約3時間)
第1回はオリエンテーションとして、自社戦略の検討方法について講師から説明します。第2回以降は、自社戦略に関する課題を事前に検討していただき、その内容を講義時に発表していただきます。
各回の課題例は次のとおりです。
⇒第2回:環境分析
⇒第3回:「目指すべき姿」(QPS戦略、組織・体制戦略)
⇒第4回:「目指すべき姿」実現に向けた取組み課題
⇒第5回:実行計画
⇒第6回:まとめ
発表後は参加者同士で議論を行いますが、当初は意見や質問があまり出ないことも少なくありません。そのため、講師が参加者を指名し、意見や質問を促します。すると、次第に指名がなくても発言が出るようになり、議論も徐々に活発化していきます。
- 経済分析の発表・討議(約1時間)
事前に検討していただいた経済分析を発表していただき、講師からフィードバックを行うとともに、参加者同士で議論を深めていきます。
このような講義を月1回、全6回にわたって実施し、約6か月間で育成プログラムを進めていきます。
第6回の「まとめ」では、各参加者がこれまで検討してきた自社戦略について、経営者の前で発表していただきます。
具体的には、約5,000字の文章にまとめ、その内容を発表します。プログラム開始時に「最終回では5,000字の文章としてまとめていただきます」とお伝えすると、多くの参加者は「5,000字も書けるだろうか」と不安な表情を見せられます。
しかし、第6回の発表時には、5,000字ではむしろ足りないと感じるほどの内容をまとめ、熱意をもって発表されるまでに成長されています。
この第6回の発表後には、経営者から総評をいただきますが、参加者ご本人の想像を超える発表内容に対し、高い評価の言葉が述べられることも少なくありません。
第4章 育成プログラムの成果
■育成プログラムを通しての「3つの向上」
本章では、これまでご紹介してきた育成プログラムを通じて、どのような成果が得られているのかをご紹介します。
育成プログラムを実施するなかで、講義中に私自身が感じる変化、また講義後に経営者の方々が実感される参加者の変化として、大きく3つの向上が見られます。それは次の3点です。
・環境変化に対する感度の向上
・戦略的思考力・実行力の向上
・リーダーシップ力の向上
これらの「3つの向上」は、育成プログラムの目的とも整合しており、プログラムの目的が着実に実現していると評価できるものだと考えています。
目的と「3つの向上」の対応関係は、次のとおりです。
・「環境変化について認識を共有し」
→ 環境変化に対する感度の向上
・「事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を経営者と一緒に検討し」
→ 戦略的思考力・実行力の向上
・「その内容を現場に落とし込める経営幹部を育成する」
→ リーダーシップ力の向上
それでは、以下で「3つの向上」について、具体的な成果をご紹介していきます。
■環境変化に対する感度の向上
育成プログラムでは、「課題図書を踏まえた自社の戦略検討」における環境分析と、「日本経済新聞を活用した経済分析」を通じて、経済や社会全体への関心を高め、その変化が自社にどのような影響を与えるのかを分析していきます。
当初は、環境分析を行っても、自分たちが日常的に見えている範囲のことに終始してしまうケースが少なくありません。その結果、自社にとっての機会や脅威についても、新たな発見や気づきが乏しい内容になりがちです。
また、経済分析においても、日本経済新聞を指定しているにもかかわらず、地方紙の記事を取り上げて分析する参加者も見受けられます。
しかし、講義のなかで
「この育成プログラムの機会を活かし、日経ネットやGoogleなどの検索を通じて、市場、お客さま、競合、仕入先などについて幅広く調べてみてください」
とお伝えすると、徐々に「自分たちが見える範囲」を超えた環境変化に目を向けるようになり、分析の視点も広がっていきます。
また、当初は地方紙の記事を用いていた参加者も、他の参加者の発表を聞くなかで、日本経済新聞を基にした経済分析に取り組むようになります。
実際に、この育成プログラムの参加者から、次のような声もありました。
プログラムを通じて日経新聞を継続的に読むようになったことで、自身が所長を務める営業所の担当エリアにおいて、市場環境の変化が起きていることに気づき、先行して取り組みを進めることができた、というものです。
このように、「環境変化に対する感度の向上」が実現することで、新たな気づきが生まれ、新たな取り組みへとつながっていきます。
■戦略的思考力、実行力の向上
育成プログラムでは、課題図書を通じて経営の原理原則を学ぶとともに、その学びを踏まえて自社戦略を検討します。こうした学びと検討を繰り返すことで、戦略的思考力と実行力を高めていきます。
ここでいう「戦略的思考力・実行力」とは、環境分析を踏まえ、全社視点で「目指すべき姿」を描き、その実現に向けた取り組みを考え、実行に移していく力のことです。単に現状を維持・継続するのではなく、現状よりも高い「目指すべき姿」を描き、それに向けて行動できることが求められます。
育成プログラムでは、「目指すべき姿」を描くために、課題図書を踏まえながら、マーケティング、イノベーション、組織・人材といった戦略論についても講義を行い、自社のQPS戦略や組織・人材戦略を検討していきます。
ここで、戦略的思考力・実行力の向上が特に顕著に見られた事例をご紹介します。
ある参加者は営業部長として営業部門を率いていましたが、本プログラム以前は、各営業チームの調整役にとどまる傾向がありました。
しかし、育成プログラムを通じて、全社方針を踏まえたうえで営業部門の「目指すべき姿」を描くようになり、その実現に向けて、新規取引先や新規商品の開拓を主体的にリードするようになったそうです。経営者からも、「育成プログラム以前と比べて、より強いリーダーシップを発揮するようになった」と高い評価を受けています。
■リーダーシップ力の向上
育成プログラムでは、課題図書を通じて経営の原理原則を学ぶなかで、リーダーとしての考え方や振る舞いについてもお伝えしています。また、自社戦略検討の一環として、実行計画の作成にも取り組んでいただいています。
ここでは、参加者が実際に行動を変えた事例を2つご紹介します。
1つ目は、課題図書のなかで紹介され、講義でも解説した『論語』の次の言葉です。
「その身正しければ、令せずして行わる。その身正しからざれば、令すといえども従わず」
(現代語訳:上に立つ者の姿勢が正しければ、命令しなくても人々は自然に従う。逆に、リーダーの姿勢が正しくなければ、いくら命令しても人々は従わない)
この言葉が強く印象に残った参加者は、その後、自身がお客さまに対して正しく振る舞えているか、部下に対して正しく向き合えているかを省みながら、日々の業務に取り組むようになったそうです。
2つ目は、「部下の貢献を承認し、感謝を伝える」という考え方に影響を受けた事例です。この内容が印象に残った参加者は、部下の取り組みや報告に対して、意識的に「ありがとう」と伝えるようになりました。その結果、組織全体において、感謝の言葉を掛け合う風土が徐々に広がっていったと、後日お話しくださいました。
このようなリーダーとしての考え方や振る舞いは、個人の資質に委ねられがちですが、課題図書や講義といったインプットを通じて気づきを得ることで、思考や行動が変わることがあります。これらの事例は、そのことを端的に示していると言えるでしょう。
また、育成プログラムで作成した実行計画についても、プログラム終了後に現場で活用できているという声を多くいただいています。
実行計画では、組織的な取り組み課題について、目的や目標、具体的な取り組み内容、スケジュール、担当者・責任者を明確にします。これにより、これまで計画が曖昧で部下を動かしきれなかった取り組みについても、具体的な行動に落とし込むことが可能になります。
この点も、リーダーシップ力の向上につながる重要な成果だと評価しています。
第5章 育成プログラム後の課題について
■育成プログラム後の課題は何か
ここまでご紹介してきた経営幹部育成プログラムに取り組んだ場合、その後にどのような課題が生じるのかについて、本章では整理してご紹介します。
私が考える主な課題は、大きく次の3つです。
・学びを継続すること
・経営者とともに自社戦略を検討すること
・自社戦略を担当組織に落とし込むこと
以下、それぞれについてご紹介します。
■学びを継続すること
育成プログラムでは、課題図書や日本経済新聞を読むことを通じて、経営の原理原則を学び、また環境変化を把握し、分析することを学んできました。
しかし、このような学びは、一度行えば終わりというものではありません。
経営の原理原則は幅広く、同じ内容であっても繰り返し学ばなければ、実践に落とし込めるほど身につくものではありません。
また、環境変化についても、一度把握・分析すれば終わりではなく、常に変化を意識し、その変化に対応していくことが求められます。
そのため、学びは継続して行う必要があります。むしろ育成プログラムは、あくまで「学び」のきっかけに過ぎないとも言えるでしょう。では、どのようにすれば学びを継続できるのでしょうか。
前提として、参加者一人ひとりが学びの必要性を理解し、継続する意欲を持つことが重要です。そのうえで、会社としても個々人の学びを支援することができます。
例えば、経営やビジネスに関わる書籍を推奨図書として提示し、購入費用の一部を補助するといった取り組みが考えられます。
また、日本経済新聞についても、法人として購読契約を結んだうえで社員に日常的に読んでもらい、月次でレポートを提出してもらう運用を行っている会社もあります。
前述のとおり、「インプットがないと考えることはできない」のです。育成プログラム終了後も、インプット、すなわち学びを継続することが重要になります。
■経営者とともに自社戦略を検討すること
そもそも、育成プログラムの目的は次のとおりでした。
「環境変化について認識を共有し、事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を経営者と一緒に検討し、その内容を現場に落とし込める経営幹部を育成する」
「事業変革に向けた方向性や具体的な実行計画を経営者と一緒に検討できる経営幹部」を育成することが目的である以上、育成プログラム終了後は、実際に経営者と経営幹部が一緒に自社戦略を検討することに挑戦すべきです。
具体的には、自社戦略として検討すべき項目を明確にしたうえで、検討を進める会議体を設けます。
例えば、ミッション、ビジョン、環境分析、全社戦略、商品・サービス戦略、組織・人材戦略、重点実行策、数値計画など、検討項目を整理したうえで、月1回程度の会議を設定し、継続的に議論を進めていきます。
はじめのうちは、経営幹部の発言内容に物足りなさを感じることもあるかもしれません。しかし、育成プログラム後も学びを継続し、経営者とともに自社戦略を考える経験を積み重ねるなかで、経営幹部の視野は確実に広がり、視座も高くなっていきます。
そのような段階になれば、経営者が単独で戦略を考えるよりも発想の幅が広がり、現場に落とし込める実効性の高い戦略をつくることが可能になります。
■自社戦略を担当組織に落とし込むこと
経営幹部が経営者とともに自社戦略を策定するようになれば、その背景(環境変化など)や、方向付けの意図についても理解したうえで、各自の担当組織に重点実行策を落とし込むことができます。
また、経営幹部自身が自社戦略の策定に関わっているため、戦略の実現に対して主体性を持ちやすくなることも期待できます。
このように、経営幹部は自社戦略の実現に向けた取り組みを、「受動的」にではなく、「主体的」に現場へ落とし込むようになっていきます。
さらに、課題図書や講義を通じて学んだ「リーダーとしての在り方」や、「実行計画の策定・実施」も、担当組織への落とし込みを進めるうえで大いに活きてくるはずです。
第6章 最後に
企業が存続し、成長していくためには、経営者のリーダーシップが欠かせません。しかし、環境変化が激しく、複雑化する現代においては、経営者お一人だけで自社戦略を考え続けることには限界があります。
経営者とともに自社戦略を検討し、さらに戦略の実現に向けて現場に落とし込める経営幹部を育てるために、本稿が皆さまの参考になれば幸いです。