持続的成長企業の「経営と変革」 ~「師を得て変革を為し狂気を生む」の実践~ | コンサルタントコラム | 中堅・中小企業向け経営コンサルティングの小宮コンサルタンツ
loginKC会員専用お問い合わせ

コンサルタントコラム

ホームchevron_rightコンサルタントコラムchevron_right持続的成長企業の「経営と変革」 ~「師を得て変革を為し狂気を生む」の実践~

持続的成長企業の「経営と変革」 ~「師を得て変革を為し狂気を生む」の実践~

知恵のバトン
2026.04.09

(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2026」掲載記事)

■原理原則に背き、自ら変革を為すことを忘れてしまった会社は衰退する
私は年間200日近くを企業研修、リーダー育成に身を賭しています。
これは弊社の「なれる最高の会社づくりのお手伝い」とのミッション完遂に由来し、「良い会社づくりを1社でも多くお手伝いすることによって子々孫々に誇れる国・社会を次世代に遺す」という未だ拙い私の志による内なる動機が根底にあります。

理念や人智に基づいた人間としての規範を基軸にした人間教育という一手が、次の100年を創ると信じています。
「創る」というのは善良な新しい価値を生みだすことであり、いわば「変革」活動です。
変革は単なる改善とは違い、成り行きでは停滞・衰退しそうなものに対して、新たに企てを以って行動することで新たな成果を生み出すことです。企てを行うことを企業と言います。
「変革」とか「イノベーション」というと、単に新しいことをやる!といったような“非連続な”変化を想像する方も多いのですが、実は一見“非連続”に見える変化の根底で“連続”することを重要視します。

例えばイノベーションであればP.F.ドラッカー先生が定義するように、新しければ何でもいいわけではなく「社会や人々に受け容れられて」初めてイノベーションとなるわけです。その根底には新しさという一見非連続に見えるが必ず“人間の本質”という連続的な価値が姿を変えて現れているわけです。
ドラッカー先生は「変革の原理は保守主義(コンサバティズム:Conservatism)」と言っています。ときには「正統性」「正統保守主義」という言葉を用いています。『産業人の未来』の中でドラッカー先生は次のように語ります。

「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である

出典:『ドラッカー名著集10 産業人の未来』ダイヤモンド社刊 傍線筆者)

我が国では保守思想や保守主義とは(まさに今の選挙のたびに引き合いに出されますが…)その本質を説明できる人は実に少ないものです。決して昔を懐かしむだけの懐古主義ではありません。変革に臆病なネガティブな意味での保守的(自己保身的、現状維持バイアス)とは一線を画します。真の保守主義を理解するためには歴史観を伴っていることが欠かせません。吉田松陰先生の言葉を拝借すればその歴史観を持っているかどうかが「人間と禽獣の違い」なのです。

■時代を貫く原理原則・正しい考え方とは
先ずは良い会社であること、そして“なれる最高の会社づくり”のお手伝いをさせて頂く中で、私が会議の意思決定場面や教育研修の場でお伝えする人智は、外部環境を機会にすることは当然として、個々の境遇や経験則に偏らない経営・仕事の「原理原則」と何千年も人類が連続的に蓄積してきた「正しい考え方」です。
この二つが“非連続な変化”を生み出すための“連続性”(根底にあること)そのものです。因みに「正しい」とはこの“一線で止まる”と書いて「正」、つまり人間としての共通規範(考え方・哲学・理想)を意味しています。

また「原理原則」とはマネジメントの父、P.F.ドラッカー先生の言を借りれば、「転換期にあって重要なことは、変わらざるもの、すなわち基本と原則を確認することである」「いかに余儀なく見えようとも、またいかに風潮になっていようとも、基本と原則に反するものは、例外なく時を経ず破綻する」(『マネジメント〔エッセンシャル版〕基本と原則』ダイヤモンド社刊)とされるものを指します。

経営の原理原則の内、最重要なことはドラッカー先生の言う通り、顧客の創造(原著:create a customer)にあり、そしてそれを為すのは、いかにテクノロジーが発達しようとも「知識労働者」たる全従業員=人です。
故にあらゆる経営(Management)の共通の目的は顧客を創造することであり、それを可能とする全従業員の力をその一点に結集させるべく活かすことです。
“働く人を活かす”とは、仕事をお客さまにとっての価値(喜び、過去の問題や未来の課題の解決など)に集中させること、そしてその達成を通じて働く喜びを共に味わうことで得られる人間としての根源的な生きる意味(生きがい=meaning of lifemission of life)を獲得することで自己実現、自己超越をもたらすことです。
このことを通じてのみ、会社は社会の公器としての使命を全うできるのです。ここまでは基本と原則の話です。
経営の原理原則は、たて糸を表す「経」の一文字でもわかるように、時代を貫く鉄則です。
例えば日本の代表的詩人のひとりである高浜虚子の「去年今年(こぞことし)貫く棒の如きもの」という詩がその本質を見事に言い当てていると言えるでしょう。

私たちはこの「経」(時代を貫く原理原則)を手にして営むにあたって、常に自らは制御不能な外部環境に晒されながら、内部環境(ヒト・モノ・カネ・情報)といった有限の制約条件を御しながら発展を期すわけですが、その外部環境、内部環境にも先人の艱難辛苦によってもたらされた学ぶべき恩恵としての原理原則が2つ存在します。
一つは生成発展(生成化育とも)です。このことを重んじた経営者として有名なのは松下幸之助さんです。最も経営者に読まれている書の一つ、『実践経営哲学』(PHP研究所)には次のようにあります。

「この大自然、大宇宙は無限の過去から無限の未来にわたって絶えざる生成発展を続けているのであり、その中にあって、人間社会、人間の共同生活も物心両面にわたって限りなく発展していくものだと思うのである。」

「個々の資源というものをとってみれば、有限であり、使っていくうちになくなるものも出てくるだろう。けれども、それにかわるもの人知によって必ず生み出し、あるいは見出すことができると考えるのである。」

「限りない生成発展ということが、自然の理法、社会の理法として厳として働いているからである。」

松下幸之助さんの言を借りれば、要すれば会社も事業も人も常に古きもの、衰えていくものから新たなことを行って「発展」し続けることが原理原則だと言っているのです。
そしてこの発展の原則を経営・マネジメントに置き換えれば、P.F.ドラッカー先生の次の言葉がまさに至言です。

「組織が生き残りかつ成功するためには、自らがチェンジ・エージェント、すなわち変革機関とならなければならない。変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである。」

出典:P.F.ドラッカー『ネクスト・ソサエティ』

「人類の歴史において、変革のための最初の組織が企業だった。」

出典:P.F.ドラッカー『変革の哲学』序文

つまり、「生成発展」の原則に従い、私たちが生き残りかつ発展していくためには、自らが変革を為すこと、その一点にあるのです。
そしてそれは変化に適応するだけではなく、自ら変化を生み出すことが常に求められているのです。

■なぜ変革を忘れた組織・個人が非常に多いのか
この10年以上、業界・企業規模の大中小問わず延べ2000人以上の経営者、経営幹部、そして所謂課長・部長層の管理職の方々と相互に触れあい、切磋琢磨し、そしてその率いておられる組織の実態と向き合ってきました。
コンサルタントという職業柄いただくことができた一次情報に基づけば、毎年7割ほどの企業が赤字であるという統計上のファクト以上に、先にドラッカー先生の言の如く「自ら変化をつくりだす」(変革する)ことを忘れてしまっている企業・組織が多いということです。
結果として「上から指示されたことだけをやる」(物事を正しく行う)ことがマネジメントだと勘違いしている人が8割以上と言っても過言ではありません(変革の重要性を頭では分かっていても実践しない人を含めるとさらに多いのではないでしょうか)。
「物事を正しく行う」ことのその「物事」がすでに陳腐化し、誰の喜びにも繋がらず、大切な人(お客さま・働く仲間等の)苦しみを和らげることにも繋がらなくなってしまっていたら、それを正確に行うことはすでに凶器になるわけです。

中小企業さんであれば、変革の当事者が社長、或いは経営幹部の極一部に限られてしまう傾向にあります。
この状況の根底には何があるのか。
一言で申せば「唯物論」(=目に見える物質の価値しか信じられなくなるモノの見方・考え方)に無抵抗に冒され、「歴史観」をはじめとする「観」(=目に見えない価値の体系=例えば変革の行動原理となる「信念」がどのような価値の体系としてその統合としての軸となっているか等)の喪失、哲学や特有の使命・目的の無い「空っぽ人間」の大量生産に起因していると考えます。
なぜそうなったのか。
それを学ぶには日本及びその因果に深くかかわる世界の近現代史(凡そ16世紀後半或いは17世紀~現代)の大きな流れを深く理解する必要があります。

また、人間の根源、本質を理解するための古典研究も欠かせません(深く歴史に学べば古典に代表される様々なように見えて根底では共通する思想の理解に誘う力に導かれる筈です)。
本稿でその近現代史については紙幅の関係上、詳述は避けますが、日本の敗戦革命及び戦後日本のGHQによるWGIPや3S政策に代表される“日本及び日本人弱体化(空っぽ化)政策”について是非ネット等でも歴史的一次資料を基にした説明を知ることはできるので一度お調べ頂ければと思います。
そうすることでいくつかの真実に気づき、愕然とし、人間が人間たる所以としての「仁」「義」「恥」、そして「敬」の精神が湧き起こるようであれば、今の状況が平和ボケの状態だと認識し(恥じ)、今後変革の担い手として立ち上がる(義を思い、仁を以って尽くそうとする)人も増えるかもしれません。

そしてもっとご先祖様、先人の艱難辛苦、偉業、貢献の歴史に「敬」(うやまい)を覚え、自らをも敬する(つつしむ)ようになるものと思います。
例えばマネジメントとはアート(或いはリベラルアーツ)であるとドラッカー先生は仰っていますが、昨今の生涯学習、リスキリングも悪いとは言いませんが、我々が取り戻すべきは目先のスキルではなく歴史観を獲得するような長期的価値のための教養です。
近現代史を学んだその結果として、戦前の一般的な教養レベルと現代の我々のそれでは格段の差があることに羞恥して震えるはずです。
つまり、かくも人間は目先のパンのために退化するのかと。かつて我が国では14歳にして『啓発録』を著した若者がいたというのに…。

いい歳をして「言われたことしかやらない」人をこれ以上増やさないために、些かの実践知と共に長期的視点による考察を先人の知恵を借りつつ敷衍したいと思います。

■松下幸之助さんの夢と現実直視
松下幸之助さんは前掲『実践経営哲学』でもご懸念しているように、「人間社会、人間の共同生活も物心両面にわたって限りなく発展」していくことの内、物心の「心」のほうは、昨今の我が国の現状を観察するに、やや心許ないと私は感じています。
松下幸之助さんが昭和51年(1976年)に我が国の30年後のありたい将来像を描いた『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』(PHP研究所)という書籍があります。
そこに描かれた日本の理想像は、驚くほど昨今でも実際に起こっている外部環境条件(例えばスタグフレーション等)を提示しながらも、令和8年の現状を観るに私たちは多くを実現できずにいるばかりか、衰微している感を禁じえません(因みに松下さんはこの書出版の2年前(昭和49年)に『崩れゆく日本をどう救うか』との書籍も出されています…)。

詳細は本書をお読み頂ければと思いますが、まさに松下政経塾出身の高市総理と同じく野田佳彦氏が共同代表を務める新党「中道」なんちゃらが衆院選を繰り広げることに至った現在(本稿執筆時)、このお二人にこそ読んで頂きたい内容です。
特に本書でも連続的な私たちの価値観=伝統として引用される仁徳天皇の「民の竈」の逸話が指導者の基本精神であることのくだりは現在まさに原則として見直して欲しいものです…。
わが国の政治・経済・社会・教育、そして私たち一人ひとりのあり方を見直すに多く資する内容が50年前に示されています。本書の松下幸之助さんの言葉を一片だけここに共有します。

「何と申しましても今日、国家社会を支えているのは一人ひとりの国民です。
ですから、日本の国をよりよくしていこうとねがうのであれば、お互い日本国民一人ひとりが社会のあり方や理想の姿というものについてともどもに意見を出し合い、お互いの知恵と力とをあわせていかなければならない。
そういうお互いの積極的な努力が一つひとつつみ重ねられてはじめて、この国、この社会がよりよき姿において発展していくのではないか、またそこに民主主義社会の真価が発揮され、おのずと道がひらけていくのではないかと、このように思うからです。」

出典:松下幸之助『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』PHP研究所

この言葉は、当時の戦前の教育を受けていた時代の経営者であれば、同じことを理念や企業使命に掲げているケースが多いことを私は過去の長寿企業の理念研究から知りました。

先に「外部環境、内部環境にも先人の艱難辛苦によってもたらされた学ぶべき恩恵としての原理原則が2つ存在します。」と述べ、その一つが「生成発展」であることを述べました。もう一つあります。
それがすなわち四書五経の一つ『大学』で示される「修身・斉家・治国・平天下」との世界観としての思想であり、そしてこの思想は歴史が証明した原則と言えるものです(戦前の教育を受けた方が創業した会社の多くの社是・理念にはこの思想を色濃く意識された内容が多いのです)。
平和を願うからこそ、人々は様々な議論を尽くしますが、平和(平天下)がもたらされるのは、一つ一つの国が治まっていること(治国)であり、その根源は国家社会の構成単位である家がととのっていること(斉家)、現代でいえば「会社」も含めてととのっていること、そしてさらにその根源は一人ひとりが我が身を修めていること(修身)なのです。
例えばドラッカー先生はドラッカー経営大学院に於いて学生たちに「私が言いたいことは、国家として高等教育に力を入れていた国が100年後に大きな成功を収めているということだ。
だから、私も若い君たちの教育に力を入れていきたい」と述べています。

また「知識労働者」の時代には「仕事と組織に継続学習を組み込むことが必要である」と述べています(P.F.ドラッカー『ポスト資本主義社会』)。治国とは、現代の国際政治学や地政学でいうところのバランス・オブ・パワー(力の均衡)のことを指しています。
ウクライナを例にとると分かるように、力の均衡を崩したり、保てなくなると戦争リスクが高まります。
歴史的に俯瞰すれば、中国大陸が分かりやすい例でしょう。
「新たな王朝⇒中央集権⇒内部政治の腐敗と民の困窮⇒財政危機⇒地方反乱⇒政府弱体化⇒隣接勢力の侵略⇒新たな王朝」というサイクルを繰り返しています。
中国4000年の歴史とは言いますが、この間に民族も激しく入れ替わり、現在の中華人民共和国は1949101日に毛沢東がその成立を宣言して以降のもので、歴史は非常に浅いのです。
2500年前の孔子の言行録『論語』がいまだに世界中の指導者に学ばれ続けるのは、こうした歴史の真実があることも見逃せないでしょう。
歴史とは人間によって繰り返されるのです。平和の根本は常に国民一人ひとりの「修身」にあるのです。
会社であれば社員一人ひとりの修身、殊にリーダーの役割を担う人の人格の向上にあるのです。
ドラッカー先生が人生を賭して世に生み出したマネジメントの体系も第二次世界大戦を目の当たりにしたことで二度とこの世に「全体主義」「独裁国家」を生まないためのものでした。

話がやや大きくなりましたが、ここで「変革」について話を戻していきたいと思います。
「マネジメント」の父はドラッカー先生ですが、そのドラッカー先生が名指しで「世界で初めてマネジメントの重要性を理解し、教育し、実践して成果をあげた」のは日本資本主義の父とされる渋沢栄一です。
彼がその原理原則、考え方の拠り所にしたのは言うまでもなく孔子の『論語』です。

江戸時代後期に600以上の村々を再興させた二宮尊徳翁もさることながら、500以上の企業の創立に関わり、600以上の社会福祉団体の設立にも関わった人物です。
これ以上の「自ら変化をつくりだす」(変革する)ことを為したリーダーはなかなか見当たりません(古代であれば行基をはるかに凌ぐ空海=弘法大師様のとんでもない業績(伝説も含む)もありますが…)。
その変革の拠り所は名著『論語と算盤』で示されているように、「仁・義・道徳」つまり世の為人の為になることこそが算盤(利益)となる、という原則です。

このことは競争戦略論の大家、マイケル・ポーターが晩年に著した「CSV競争戦略」(本業で社会課題の解決に貢献すること)を最強の戦略であるとしたことに帰結しています。
いうなれば渋沢栄一氏が大切にした「仁・義・道徳」による経営、別の言葉で言い換えればいえば「先義後利」の経営となります(詳しくは渋沢栄一と由縁の深い一橋大学で教鞭を執り,長年その思想を研究してきた田中一弘氏による著書『先義後利の経営: 渋沢栄一が求めた経済士道』(有斐閣)が大変参考になります)。

このような考え方で長期的価値を生み出した経営者の事例は枚挙にいとまがありません(代表的な例としては、利他の心を重んじた「心の経営システム」によって京セラのみならず、KDDIの創業守成、そして日本航空復活を為した稲盛和夫さん、或いはヤマト運輸2代目経営者、小倉昌男さんの『経営学』で示されたクロネコヤマトの宅急便サービスの創造など)。
因みに「義」とは弊社小宮の解釈でお伝えすれば「(自分ことしか考えないではなく)全体のことを考える」、つまり世の為人の為という公共心、公欲を「先にする」=大切にするということです。

もう一つ、数ある経営戦略、競争戦略で最強の実践的蓄積があると評価されているものに、ジェイ・バーニーによるRBV(リソース・ベースド・ビュー)です。
競争戦略論の一大学派であるケイパビリティ(capability)学派の中心にあるパラダイム(学説・理論・原則)です。企業の競争力は、その企業が持っている独自の資源や組織能力で決まる、という考え方です。
このことについては陸上自衛隊勤務を経て東京大学史上初の「経営学」の博士号を授与され、自らも経営者として成果をあげる苦学の人、岩尾俊平氏(現・慶應義塾大学准教授)も著書、講演等で述べています。
現代のものが溢れ、物質的な価値が飽和状態を迎え、目に見えない価値を追求しようとする流れや、グローバル化(国際化)を背景にしたグローバリズム(国境を越えた経済活動の競争を是とする勢力)と保守主義(conservatism)による対立が生み出す変化の速度と激しさによる不透明感は今後もしばらく続くと思われます。

こうした時代にこそP.F.ドラッカー先生が「転換期にあって重要なことは、変わらざるもの、すなわち基本と原則を確認することである」と言うように普遍にして不変の考え方に立ち返ることが必要です。
これまでどのような外部環境であろうが、柔軟かつ強靭(しなやか)に成長・発展を続ける企業は企業経営が行なわれたこの150年間の不透明で混乱した時代にも存在しました。

また我が国の歴史においては江戸時代の藩政改革事例、大店(おおだな)経営を加えれば、より長期的な実例を基にその成長・発展の共通点たる法則を探ることも可能です。
直近の50年間でいえば、そうした持続的成長発展企業は『ビジョナリーカンパニー』にまとめられていますが、それらの事例の共通点をも含めていえば、短期間ではなく数十年以上にわたる持続的成長を遂げている企業或いは組織にはある共通する「考え方」とその蓄積によってもたらされている行動習慣としての「文化」が存在します。
このことを経営戦略論では「組織実行能力(Organizational Capability=OC)」として注目されてきました。その注目される以前からドラッカー先生は「企業文化は戦略に勝る」

Culture eats strategy for breakfast.”という言葉を残している。またそのドラッカー先生の教え子、世界最大級のアルミ・メーカー、アルコア社の中興の祖ポール・オニールは、次のように語っています。

「どのような会社でも、価値を生み出すのは人である。
人は、理念と価値観によって動かされ、信じがたい成果を上げる」

出典:エリザベス・ハース・イーダスハイム 『P・F・ドラッカー 理想企業を求めて』

未だ歴史が浅い企業群ではあるものの世界の時価総額トップ10の常連であるGAFAM、狂ったほどに高い顧客満足と従業員満足を生み出し続ける米国ネット通販事業者であるザッポス社など、企業文化、組織文化こそ最強の競争優位性であることを主張して隠しません。若くして2020年に亡くなったザッポス前CEOのトニー・シェイは「企業文化を築けば、成果はあとからついてくる」と明言していました。

■企業経営における変革の歴史と鉄板理論
ではどのような企業文化、組織実行能力を身につければよいのでしょうか。先ほど挙げたザッポスの例をみると、長寿企業と変わらぬ重要な取り組みをしています。それが理念を体現する行動規範の徹底です。ザッポスでは10のコアバリューとして以下のように徹底すべきことを明文化しています。

  • サービスを通じて感動を届ける(Deliver WOW Through Service
  • 変化を起こし、喜んで受け入れる(Embrace and Drive Change
  • 楽しさと少し風変わりなものを作り出す(Create Fun and A Little Weirdness
  • 冒険し、クリエイティブに、そして心を開く(Be Adventurous, Creative, and Open-Minded
  • 成長と学びを追い求める(Pursue Growth and Learning
  • コミュニケーションでオープンで嘘のない関係を構築する(Build Open and Honest Relationships With Communication
  • 積極的なチームとファミリースピリットを作り出す(Build a Positive Team and Family Spirit
  • 少量で多くをこなす(Do More With Less
  • 情熱的に、意志を固く(Be Passionate and Determined
  • 謙虚に(Be Humble

上記のコアバリューを入社前の採用段階から入社後のマネジメントの仕組みに至るまでその徹底を奨励し、評価し、「規律の中の自由」を大切にして企業文化を築いています。このことが創業からたった10年で1000億円の売り上げを誇る企業に成長したのみならず、さらなる発展を継続している土台になっています。

また稲盛和夫さんが遺した京セラの事例として「心の経営システム」も挙げておきましょう。

心の経営はリーダーシップを必要とする

▼心の経営におけるリーダーの7つの役割

(なぜ人間教育を軸にしたリーダー育成が必要か)

  1. 伝道者(凄まじいほどの経営理念を伝える教育、コンパなど対話の努力の積み重ね)
  2. ビジョナリー(先見の明を持ってビジョンを示すもの)
  3. 意思決定者
  4. 教育者(人格を磨く:「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」の体現者になる)
  5. 実行者
  6. 正しさの具現者
  7. 外部との交渉役(他者への思いやりと内部への説得)

▼心の経営の5ステップ導入手順

  • 経営理念の明示とリーダーシップ導入
  • ミドルマネジメントをリーダーに変身させる
  • 全員参加の意識の醸成
  • 目標管理の導入
  • 教育訓練の導入

Philosophy・理念を軸にして教育体系を構築し、心の経営が後戻りしないようにする)

出典:青山敦 『京セラ 稲盛和夫 心の経営システム』(日刊工業新聞社)

稲盛さんは本書をして、「私が実践してきた『心の経営』を明らかにする好著」と仰っています。

ご参考までに稲盛さんは遺作ともいえるその著書『経営 稲盛和夫、原点を語る』のなかで、このリーダーの選任について、敬愛した西郷隆盛の言葉として「徳の高い者には高い位を、功績の多い者には報奨を」と引用しています。
この原典はやはり四書五経の一つ『書経』にある「德懋懋官、功懋懋赏」(徳に懋(つと)めるは官に懋めしめ、功に懋めるは賞に懋めしむ)です。現代語訳をすれば、

「徳の高い者には、官職を与えてその徳をさらに広めさせ、功績のある者には、賞を与えてその功績をさらに奨励する」となります。役職につかせるのであれば課長であれ常務であれ、人格者を当てなければなりません。
また一方で仕事のパフォーマンスが高い人財には褒賞(給与、賞与等)で重んじなければなりません。
しかし昨今の多くの企業でみられる人事はこの原則を必ずしも守れているとは言い難いのではないでしょうか。
根本には長期的価値としての独自の企業文化からバックキャストした人財育成を含めたマネジメントが行なわれていないことに起因していると私は痛切に感じています。

上記のことは、松下幸之助さんの以下の教訓にも通じます。

発展と衰退の法則
組織の硬直化(お役所化)を排し、一人ひとりの自主独立性を発揮させること

「“命これに従う”という姿では、いかに多くの人材を擁しても、会社は発展しません。いかに大きくなり、いかに多くの人材を擁するようになっても、若い人々が常に自由に意見を述べ、自由闊達に仕事ができる気風をなくしてはならないと思うのです。」

出典:松下幸之助『経営心得帖』「新入社員でも」より (PHP文庫)

また人財育成については、以下のように次世代のリーダー育成の重要性を語っています。

「幹部以上の人たちの知識、経験を会社の仕事をするために磨き、自らを高めて伸びていかねばならない。そのなかで社長の伸び方よりも、重役の伸び方よりも、幹部の人たちの伸び方が一番大切なのである。」

出典:松下幸之助『物の見方 考え方』 (PHP文庫)

また、世界最高のビジネススクールとされるハーバードビジネススクール社が経営組織論の大家を擁して行った研究結果でも以下のように分析をまとめています。

①ある製紙工場で長期にわたって行われた詳しい調査において、チームワークを重んじる、職種を減らす、研修を増やす、雇用の安定性を高める、給料を上げるといったように、 高業績を引き出す経営慣行を取り入れたところ、生産性と売上高が増え、利益も300%以上増えるという結果になった。
②製鉄、半導体製造、石油精製、アパレル製造といった業界を対象に同じような調査をしたところ、人材重視の経営は品質、生産性、利益率を高め、コスト、離職率を低下させるということが分かった。

出典:チャールズ・オライリー、ジェフリー・フェファー『隠れた人材価値』Harvard Business School. 翔泳社刊

同書では持続的成長企業のサウスウエスト航空の事例も下記のように紹介されています。

「サウスウエストが成功を手にできたのは、工夫を凝らした戦略でも、洗練されたテクノロジーでもなく、拍子抜けするほど平凡な理由による。人材を育てて競争優位を生み出しているのである。
CEO(最高経営責任者)のハーブ・ケレハーは持ち前の率直さでこう語っている。
夜も眠れないほど、無形の資産のことが気になるんです。競争相手に模倣されない強みといえば、何と言っても目に見えない資産でしょう。だから、私が何より恐れているのは、社員の団結心、サウスウエストならではの文化、心意気といったものが薄れていくことです。他社と戦ううえでの最大の資産を失うことになりますから。」

出典:チャールズ・オライリー、ジェフリー・フェファー『隠れた人材価値』Harvard Business School. 翔泳社刊

昨今経営でも重視されている貸借対照表(バランスシート)には表れない人財や企業文化を競争優位上の重要な資本とする「目に見えない資本」の存在をケレハーがだいぶ前から認識し、「夜も眠れないほど」重視していたことは、いまもって私たちも学ぶべきところが大いにあると思います。

■「ビジョン」を組織・チームの“自分事”にするための変革リーダーの思考
◆思考の質が集中すべき行動を変える
変革にしても通常の事業運営にしてもその全体像を描いて共通の目的、目標に社員の全熱量を注ぐ環境をつくることが大切ですが、その全体像の中でも社員に求める行動が何であるのかを明確にできるリーダーは少ないものです。
共通の目的・目標、その先にある成果(お客さま、関わる人びとのよりよい変化に対する評価)に向かう全体像のなかで、その変革を牽引するリーダー(最高責任者は経営者の場合もあれば、役職に関係なく有志のリーダーもあり)に不足しがちなのが「行動の変化の前に理解の変化を迫る」ことです。このことは弊社コンサルタントの新刊『集中経営』(新宅剛・藤本正雄著)でも示されていますが、同じく先にドラッカー先生は以下のように指摘しています。

「成果は自動的に生まれるものではない。ハウツーによって簡単にできることではない。試行錯誤で得られるものでもない。組織は、われわれ人間にとっての新しい環境である。したがって、それは新しい資質を求める。同時に、新しい機会を与える。行動の変化よりも、まず理解の変化を迫る。」

(出典:P.F.ドラッカー『イノベーターの条件』)

何をするにも成果・結果を得られるのは正しい考え方による理解を伴った行動があればこそです。ただの行動ではなく時間と熱量の集中を必要とします。時間、人、モノ、そして資金もあらゆるものに限りがあります。何の「理解」の変化かは、方向付け(理念・ビジョン・行動規範=マネジメント・仕事のルール)への理解です。個人個人の価値観は様々であっても、仕事の価値観、ルールは共有しなければなりません。この一貫性を生み出す徹底がリーダーの最重要の仕事です。

◆「理解の変化」のためには「敬意」「未来の成長」と共に「時間」をかける
ここでもドラッカー先生の示唆を先に共有します。

「人のために時間を数分使うことはまったく非生産的である。何かを伝えるにはまとまった時間が必要である。方向づけや計画や仕事の仕方について15分で話せると思っている者は、単にそう思い込んでいるだけである。

肝心なことをわからせ何かを変えたいのであれば1時間はかかる。何らかの人間関係を築くには、はるかに多くの時間を必要とする。知識労働者との関係では特に時間が必要である。上司と部下との間に権力や権威が障壁として存在しないためか、あるいは逆に障害として存在するためか、それとも自意識のためか、理由はともあれ知識労働者は上司や同僚に多くの時間を要求する。」(出典:P.F.ドラッカー『経営者の条件』)

私がいつも推奨するのはこの「理解の変化」のための時間を最低でも1週間に2時間は使うことです。例えば私が事業変革のリーダーを務めていた時は毎週月曜日の午前中3時間はメンバーに必ず時間を空けてもらうルールを設定し、そこで事業の目的、目標、共通の価値観(行動規範)を徹底して説明、対話し、その上で今週はどのような行動に集中するのか、先週の行動、成果は何か、そしてそこから導き出せる共通の教訓とは何かを共有していました。このくらいしてようやくついてきてくれるメンバーの未来の成長、責任の明確化、成果をあげることで得られる貢献の実感が組織に伴ってきます。

なぜこうした肌身のコミュニケーションを重視したか。それを説明するには紙幅の都合上詳述は避けますが、ドラッカー先生がマネジメント、コミュニケーション、そしてマーケティングの上でも仕切りに「知覚」を重視したことに関係します。「知覚」とは想像ではなく生身でのみ感じ取ることができる五感であり、判断の多くの拠り所となる直観の栄養分のことです。人間を深く理解しないまま変革も通常のマネジメントも進行させてはならない。このことも原理原則だと確信します。

【求める理解の変化:5つのP
私は自らが変革リーダーだった時から、現在の変革支援の場面でも以下の5つの理解の変化の徹底を常に要求します。(さらに具体化すると8つありますが本稿では紙幅の都合上5つまでとします)

  • Philosophy:会社の理念、思想、リーダーの「観」=ビジョン
  • Principle:原理原則(共通の行動規範、共通のルールの根拠)
  • Paradigm:モノの見方、考え方(歴史観を伴った状況、外部環境のとらえ方)
  • Policy:方針、方向性(戦略の方向性・軸・各戦術要素の成果に至る因果関係)
  • Plan:具体的な作戦と計画(PDCACの評価軸、タイミングも明確にする)

上記で最も大切なことは一貫性こそが信頼の基であるという考え方です。そのために最重要なことはリーダーの「観ていること」(人間観、経営観、仕事観など)が何であるか、そしてそれがメンバーの幸せにどうつながるのかを意識することです。意識するとは意識して言動するということです。言動一致、人に対する態度の一貫性を貫き、さらには変革活動の成功・失敗に対しても一貫した軸を保つことを見せることです。人は当初は「利」についてくるものです。例えば政治でいえば現在の我が国のトップの「国家観」はどうでしょうか。目先の利益を追っているのか、長期的な国益と国民の幸福のための「観」があるのか。選挙の時だけではなく、投票所に自らの意志と判断で赴く多くの国民はその有無を感じ取っているのではないでしょうか。

また、なぜこれだけ「理解の変化」への時間をかけるのか。それはともに働く仲間、ついてきてくれるメンバーへの人間としての敬意があるからです。誰でも正しい理解に基づく行動(お客さま第一とは具体的に何をすることか、何が最もお客さまの価値にとって重要な行動なのか)を通じて成果をあげ、成長することができる。成長の先には各々の掴み取りたい幸福がある。そのためにリーダーは何としても成果をあげ、結果を出してもらう覚悟をもたなければならないのです。社員の幸福は正しい成果を伴った結果を出さない限り、絵空事になってしまいます。共に働く組織に働きがい、生きがいを生み出し、仕事が作業にならず常に「事に仕える(=大いなる目的に仕える)」環境をつくり、働く喜びが得られない冷めた組織にしないことが未来をより良くすることに繋がります。仲間の未来の成長に責任を持つことがリーダーの使命であるとも考えます。

■とるべき原理原則(Principle)と経営理論(Paradigm)について
先述の①経営哲学が善に基づくこと、公欲に基づくものかが決定的に重要なことは異論がないと思いますが、戦略としての一貫性をどれだけこだわって貫けるかが重要です。

戦略に落とし込む際に②の原理原則で最も重要なことは公益、つまりお客さま第一と共に働く仲間の幸せの追求を通じて国・社会に貢献することを当然のこととしているかです。

利己的であってはならないということですが、経済学の父アダム・スミスの言を借りれば「いかに利己的であるように見えようと、人間本性のなかには、他人の運命に関心をもち、他人の幸福をかけがえのないものにするいくつかの推進力が含まれている。人間がそれから受け取るものは、それを眺めることによって得られる喜びの他に何もない。」(『道徳感情論』第1篇第1章「共感(シンパシー)について」より引用)ということです。この人間の本質は松下幸之助さんの人間哲学、或いは稲盛和夫さんが主張するところの心の核である「魂」の解釈とも通じます。

お客さまも、働く仲間も、そしてそれを一体として捉える社会の目も、人間としての根源的な欲求を何ととらえるのかを厳しく見つめます。それが哲学というものです。

これを経営戦略という枠組みで捉えたものがマイケル・ポーターの競争戦略論の帰結としてのCSVCreating Shared Value)競争戦略です。

ちょうど10年前に私もこの戦略を事業に応用しました。CSVとは一言で申せば「本業で社会に貢献する」ということです。

つまり、事業を通じて経済的価値と社会的価値、そして人間の根源にある普遍の価値・欲求を同時に創出・満たすということです。
このことは『ビジョナリーカンパニー』でも語られるハリネズミの概念とも符合します。
この概念は3つの輪からなり、すなわち「最も情熱を傾けられることは何か」「世界一になれることは何か」「経済的な原動力になれるか」の3つが重なるところに集中することが偉大な企業に発展していたことを証明するものです。
ゆえに希少な価値を生み出すポジショニングに帰結します。古くは自利利他、先義後利という思想に基づきます。マネーゲームの末の原点回帰といっても良いでしょう。
先義後利で生み出された商品・サービスは長期的な価値を我々にもたらします。小倉昌男さんのクロネコヤマトの宅急便が代表例です(詳細は『小倉昌男の経営学』参照)。

つまり事業は戦略としても「社会的価値が優先する」でなければならないということです。
ゆえに①Philosophyがなければ経営戦略としては成立しません。「今の時代はSDGsとかESGが重要だから」といって、そのフレームに当てはめて戦略を整理するのは本末転倒です。
心の底から社会を、人々をどのように喜ばせたいのか、長期的に(持続的に)どのような価値を提供したいのか、との思いが先になければなりません。遅かれ早かれ見抜かれます。
CSV競争戦略(社会的価値を優先する)はある意味、原点回帰的なものとして、裏付けのある戦略と言えるでしょう。

もう一つ、最強の経営戦略として評価されているのがジェイ・バーニーによるRBV(リソース・ベースド・ビュー)です。
競争戦略論の一大学派であるケイパビリティ(capability)学派の中心にあるパラダイムです。企業の競争力は、その企業が持っている独自の資源や組織能力で決まる、という考え方です。
経営現場で実際に最も有効だと証明してきたとの評価もあります。具体的にはVRIO分析と言われ、経済的価値(Valuable=差別化された価値があるか)・希少性(Rare=他社が容易に獲得できない希少性があるか)・模倣困難性(Inimitable=他社が容易に真似できないことか)・組織(Organization=上記3つ、経済的価値があり、希少で、模倣困難な経営資源を獲得するための企業の政策や組織文化を有しているか、整備されているか)の4つの問いによって経営戦略とその実践及び組織実行能力を強固に結びつけることが可能になります。バーニーは次のように語ります。

「本物のストーリーとは、心に深く根づいた価値観と信念を反映するものだ。自分の価値観や信念と相反するようなストーリーをつくっても、社員はいずれそこにある偽善に気づき、変革への本気度を疑うようになる。」

(出典:ジェイ・B・バーニー他「企業文化の変革はリーダーがストーリーを語ることから始まる」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文)

新たな船出にこのCSVRBVの視点を取り入れて人々の目の色を変える戦略に昇華させることは大変有用なことと考えます。

■変革の実務 ~代表的な3つのモデル~
変革を進めるにあたってはその実践者や碩学によって多くのモデルが提唱されてきました。中でも最も活用されているものにジョン・P・コッターの「変革の8段階」、のちに「8つのアクセラレーター」としたモデルがあります。古いものだと社会心理学者クルト・レヴィンの「場の理論」の内、「解凍」「変革」「再凍結」の3段階モデルがあります。
また昨今『両利きの経営』でも紹介された「コングルーエンスモデル」があります。
上記3つが代表的な変革モデルと言えるでしょう。私が実践で活用していたのはレヴィンの3段階とコッターの「変革の8段階」を融合させたプロセスでした。
この3つの内、私が多く採用するコッターの変革に求められる8つの要素はこれから変革を為そうとする人の青写真の解像度を上げるために、またすでに変革に関わる全ての人の良いチェックリストにもなろうかと思いますので、図示しておきます。

▼図表1

 

 

 

 

 

 

 

一つ一つの要素の解説は紙幅の都合上ここではできませんが、何れにしても、先ずはリーダーが内なる動機(使命、志、コーリング)を基に自らが動くこと、その率先垂範、指揮官先頭で周囲を感化したり、「共にあの山の頂を目指そう」と理解、共感を求める愚直な行動が先に存在しなければなりません。
自らを突き動かすものがない者が周囲を動かすことはできません。

■さいごに “狂気”の正統性(伝統) ~本気で変革を成し遂げたいリーダーの皆さまへ~
事業変革にしても組織変革にしても、全ての実践者は恐らく共通した苦悩を初期に抱きます。
「あいつは狂っている」とか「余計なことはするな」などの周囲の冷ややかな態度、言葉に夜も眠られぬほどの日々を過ごすものです。
「改善」レベルではこのような状況は起きません。成し遂げるべき目的と現状の乖離の幅によってこの苦悩の期間は変わりますが、3か月くらいの時もあれば長ければ1年、2年、周囲の冷ややかな視線に晒されることもあります。正直、使命感をはじめ、利他の精神を鍛錬していなければ大変に辛いものです。
しかし心配はいりません。それが変革の正統性なのです。そのことを理解するには、変革を成し遂げてきた先人に学ぶことが救いになるかもしれません。

明治の大変革(世界史上、国のあり方を転覆させた革命をすることなしにご一新を為した国家レベルの大変革)に深く関わった多くの志士を教育によって短期間に輩出した吉田松陰先生は、次のように語っています。

「狂愚誠に愛すべし、才良誠に虞るべし。狂は常に進取に鋭く、愚は常に避趨に疎し。才は機変の士多く、良は郷原の徒多し」

出典:『松陰詩稿』

現代語に訳すれば、「狂っていると思われるほどの情熱を傾けて行動する人こそ愛すべきである。
一方、才知があり善良にみえるけれども理屈ばかりで行動しない人こそ(未来のために)恐ろしい存在である」となります。
無論、変革リーダーは前者「狂愚」です。後半は「情熱を以って取り組む人は進んで物事に鋭く取り組み、愚直である者は損得勘定で逃げたりはしない。
一方、才知だけの者は要領よく立ち回り、善良なだけの者は保身のために事なかれ主義、迎合主義(=郷原)の者が多いから注意しなければならない。」となります。
現代もこの本質は全く変わることはありません。

また、獄中から仲間を励ます者に送った文章から、次のように我々を励まします。

立志尚特異  立志は特異を尚(たっと)ぶ,
俗流與議難  俗流は與(とも)に議し難(がた)し。
不思身後業  身後の業を思はず,
且偸目前安  且()つ目前の安きを偸(ぬす)む。
百年一瞬耳  百年は一瞬のみ,
君子勿素餐  君子素餐(そさん)するなかれ。

▼現代語要約

志を立てるのに、他者と違うことを恐れず、俗世間の流行に流されず、目の前の安楽にも流されず、後世に影響を遺す仕事を考えよ。一生は短い。君たち、いたずらに時を過ごすことがないように。

出典:吉田松陰「野山獄に在りて士規七則に題す」より抄録

吉田松陰先生が発するところの「狂人」「狂愚」になりなさいとの言葉は、『論語』に由来すると考えられます。『論語』には次のようにあります。
「子曰く、中行()なるものを得て之に与せずんば、必ずや狂狷か。狂なる者は進みて取り、狷なる者は為さざる所有るなり。」
※中行=中正を貫く行ない。中庸の徳にかなった行いのこと

▼現代語訳
孔子先生は言われた。「私は、中道(中庸)の道を行う理想の人とともに歩みたいが、そういう人がなかなか得られないのであるなら、せめて狂者と狷者を得て、これに道を教えてともに歩いていきたい。狂者は行いがまだ伴わないところがあるが、志がとても高く、進んで善の道を行おうと思っている。また、狷者は、まだ知識の及ばないところがあるが、節度をかたく守り、人に迷惑をかけない者であるからだ」。
ここで言うところの「狂」とは、志が高くて進取の気性があることと解されます。

また、維新の三傑の一人で稲盛和夫さんが私淑する偉人として西郷隆盛がいます。西郷は次のような言葉を遺しています。

「聖人あるいは賢人に自分もなろうという気概・志もなく、過去の聖人・賢人の事績を見て、とてもこのようにはなれない、そのようなことは自分にはできないなどと気弱な心でいることは、戦いを前に逃げるよりも、はるかに卑怯な態度だ。」

出典:西郷 隆盛; 猪飼 隆明 『新版 南洲翁遺訓』 (角川ソフィア文庫)

つまり、変革を為そうとする者は、周囲から「狂っている」と思われるくらいでよいのです。苦しい時には現代の我々が当たり前に享受している恩恵を遺してくれた先人を友にして(私淑して)進んでいけばよいのです。
孔子はこうも言っています。「徳は弧ならず」と。真心(ドラッカー先生の言うintegrity)であれば、動機が善であれば、世の為人の為に変革を為すならば、かならず心から共感してついてきてくれる人がいるはずです。
吉田松陰先生の愛した『孟子』の「至誠にして動かざるものは、未だこれ有らざるなり」(真心を尽くせば、必ず人の心は動く)、そのことを信じて、また一人、また一人と現状維持バイアスに流されずに立ち上がることを祈念して、本稿を閉じます。

拙稿を最後までお読みいただき、誠に有り難うございました。


お問い合わせCONTACT US

コンサルティング、セミナー、KC会員についてなど、
お気軽にご相談ください。