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経営という仕事と経営の本質、経営者の姿勢

小宮一慶のモノの見方・考え方
2026.04.09

(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2026」掲載記事)

今回のKC文集では、経営を成功させるための経営者の行動や考え方について基本的なところを説明します。この文章は、『経営者の教科書 増補改訂版』第1章のエッセンスです。私が考える経営の根幹です。

I.経営という仕事
まず、経営という仕事を理解しなければなりません。
私は、次の三つだと考えています。

(1)「企業の方向づけ」
(2)「資源の最適配分」
(3)「人を動かす」

それらをいかにうまく行うかで経営の成否は決まります。

1)企業の方向づけ
「方向づけ」が何よりも大切
企業経営にとって、一番大切なことは、「方向づけ」です。「何をやるか、やめるか」を決めることです。これを誤ると、企業は崖っぷちに向かって進んでいくようなものです。多くの会社を見てきて、これをとにかく間違わないことが何よりも重要だと感じています。方向づけが企業の命運の8割を決めると私は考えています。
「何をやるか、やめるか」を決め、そこで「差別化」つまり、「他社との違い」を明確にできるかがとても重要なのです。

何のために「方向づけ」を行うのか・・・「目的」の大切さ
方向づけが企業の命運の8割を決めると述べましたが、方向づけの根本は何でしょうか。これが経営においてとても重要なことですが、それは企業の「目的」です。目的とは存在意義です。目標ではありません。なんのために企業を経営しているのかの「目的」を経営者が明確に持ち、働く仲間に共有されていることが企業経営においては、とても重要なことです。経営者にとっては「志」です。企業経営の根幹と言ってもいいでしょう。

松下幸之助さんは、著書『実践経営哲学』の第1項を「まず経営理念を確立すること」とされ、その内容は、目的を明確にすることとあります。稲盛和夫さんは『経営12か条』でその最初に「事業の目的、意義を明確にする」と書かれています。大成功する経営者は、「目的」、つまり何のために経営を行っているかを経営の中枢に据え、それを明確にし、経営者自身や自社がしっかりと持ち続けることの大切さを説いています。それをベースに「方向づけ」を行っているのです。

ピーター・ドラッカー先生も「企業の定義は『目的』からスタートしなければならない」と言っておられます。

「お金を追うな、仕事を追え」
しかし、それが実践の経営ではなかなか難しいのです。それは経営にはお金が絡むからだと私は考えています。私の人生の師匠の曹洞宗、藤本幸邦老師は「お金はないと不自由だが、お金は魔物」だとおっしゃっていました。お金が絡むとおかしくなる人も少なくないのです。
藤本老師は、「お金を追うな、仕事を追え」と何度も私におっしゃいました。目的を明確に持ったうえで、仕事、それも後に詳しく説明する「良い仕事」を行うことが大切です。

経営と管理は違う
経営を「管理」だと考えている人は沢山いますが、「管理」は正しい方向づけができているという前提があって、初めて生きてくるものです。方向づけが間違っているのに正しい管理がなされてしまうと、むしろ会社は早く崖っぷちに到達するだけです。
管理は、部長以下でもやれる仕事です。とにかく経営者が「方向づけ」を正しく行うことが最重要なのです。

「マーケティング」と「イノベーション」
ピーター・ドラッカー先生は、経営者は「マーケティング」と「イノベーション」を行わなければならないと言っています。「マーケティング」を営業活動と勘違いしている人がいますが、ドラッカー先生の言うマーケティングとは、お客さまが求める商品やサービスを見つけ出し、それを提供することです。自社の強みを活かせるお客さまを特定し、お客さまが求めている価値が何かを見出し、それらを提供することです。「お客さま第一」と言っているのと同じです。
一方、「イノベーション」は、商品やサービスの提供だけにとどまらず、製造方法、流通プロセス、組織そのものなどを大きく変え、新しい価値を作り出すことです。
方向づけとは、この「マーケティング」と「イノベーション」とも言えます。

「Q、P、S」で考える
まず、会社の方向づけを行うとき、見極めなければならないことは、「お客さまの動向」です。
このとき、私が他社との違いを分析するツールとして使っているのが「Q、P、S」という考え方です――クオリティ(品質)、プライス(価格)、サービスの三つです。

QPSにおいて、注意しなければならないのは「S(サービス)」です。たとえば機械のメンテナンス会社は、メンテナンスというサービスを提供してお金をいただいていますが、お金をいただくものはすべて「Q」に入ります。

「S」は「その他のS」だと考えてください。「知り合いが勤めているから」「店が近いから」「店員さんの対応がいいから」「品ぞろえが多いから」などの理由で店や会社を選ぶことも少なくありません。「店が近い」ということに対し、お金を払うことはないでしょう。「S」はお金を支払わない「その他」の要素すべてを指します。商品や価格が変わらない場合、「S」がお客さまの購買に大きな影響を与える場合があることは、言うまでもありません。

経営者は一番厳しいお客さまの目を持て
お客さまの求めるQPSを見極めるためには、経営者はお客さまの所へ行かなければいけません。頭の良い人は、お客さまが望むQPSの組み合わせを頭の中だけで考えてしまいますが、それではダメなのです。どんなに頭が良くても、お客さま自身ではないからです。
経営コンサルタントの大先輩である一倉定先生は「穴熊社長は会社をつぶす」とおっしゃっていましたが、まさにその通りです。
お客さまや現場の視点に立てるかどうかです。
経営者は「一番厳しいお客さまの目」にならなければならないのです。お客さまがモノを買うのであって、経営者が買うわけではありません。

ライバルの動向を素直に客観的に分析する
QPSの組み合わせを考える時、もう一つ注意しなければならないことは、自社のライバル企業がどのようなQPSの組み合わせをお客さまに提供しているかということです。
ユニクロやニトリが全国に展開してもうかなりの時が経ちましたが、彼らの出現により、品質(Q)のそこそこ高い商品が、従来より格段に安く(P)提供されるようになりました。それにより、既存の同業他社は少なからぬ影響を受けました。
ですから、ライバル会社の状況をきちんと把握しておかなければならないわけです。

ただ、ライバル会社を見るときに、二つのことが必要になります。一つは専門性です。自社の専門分野についての知識がなければ、ライバルを分析することはできません。ただし、それについては、自社内や外部の専門家の知恵を借りることができます。

もう一つ大切なことがあります。素直で謙虚な気持ちで、あくまでも客観的に、ライバル会社のQPSがどういう組み合わせになっているのかを見極めることが大切です(これも訓練で必ず向上します。素直に見ようという気持ちが大切です)。

自分の会社や自社商品に対して、「思い入れ」を持つのは悪いことではありません。ただ、「思い入れ」が過ぎると「思い込み」になります。思い込みを持つと、バイアスがかかってしまうのです。

松下幸之助さんは、「人が成功するために一つだけ資質が必要だとすれば、それは素直さだ」とまでおっしゃっています。素直で謙虚な目で、お客さまのこと、ライバル会社のことを見ることができるかどうか。それが、経営者に求められる大切な資質なのです。

また、素直な人は、他人の知恵を活かすことができます。いつも素直で謙虚でいたいものです。

「お客さま志向の小さな行動」を徹底する
お客さまの視点を持つ、本当の意味での「お客さま第一」の会社を作るために、とても大切なことは、働く人全員がお客さまを大切にする心を持つことです。しかし、これも言うのは簡単ですが、なかなかそれを徹底できている会社は少ないのが現実です。

私は、多くの会社を見てきて、お客さま第一の会社は「お客さま志向の小さな行動」を徹底することにより、結果として従業員の意識を高めていると感じています。意識教育ではなく、行動を変えることから、始めているのです。「お客さま」という言葉遣いや、電話の出方、あいさつの仕方などの行動です。

「指揮官先頭」の覚悟を持つ
ただ、「小さな行動」をやらせ続けることは、簡単なことではありません。実際、電話が鳴りっぱなしになっている職場などいっぱいあります。出たとしても、応対が悪い会社も珍しくありません。そして、そうならないように、電話を3コール以内に取ること、丁寧に応対することなどを、経営者や上司が従業員にやらせることができるかどうか。それが、会社が成功するかどうかの一つの大きな分岐点です。

そうなるためには何が必要でしょうか。

まず、自分が「指揮官先頭」でやることです。部下にやれと言っても、自分がやっていないなら、部下は心の中で「お前こそ頑張れよ」と思っているのです。まず、自分がやること。

山本五十六の有名な言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」というのがありますが、「やってみせ」が最初に来ていることに注意が必要です。

方向づけを正しく行うための経営者の3つの訓練
ここまで方向づけの大切さを述べてきました。「正しい努力」の「紙一重の積み重ね」が重要ですが、その正しい努力についてご説明しましょう。
それは3つあります。

  • 新聞の大きな記事を読む
  • 経営の原理原則を学ぶ
  • 何千年もの間、多くの人が正しいと言ってきたことを学ぶ

 

これを紙一重の積み重ねで積み重ねていくのです。

経営者にとっての新聞の読み方の訓練法
経営者は日経新聞を読むことが大切です。そして、まずは、大きな記事を読むのです。これは「自分の関心を世間の関心に合わせる訓練」です。
会社という字は、面白いもので、「社会」という字を反対にしたものですが、どんな大企業であっても、社会の大きな動きには勝てません。世の中がどのように動いているかを知ることは、経営においてとても大事なことです。
忙しい時には、記事の内容を4、5行にまとめた「リード文」や最初の数段落だけでも読んでください。数カ月も経てば、新聞の「読め方(読み方ではない)」が違ってきて、世の中が徐々に見えるようになってきます。

関心のないものは見えない
人は関心のないものは、何度見ても見えません。20万部以上出た『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の冒頭で「7ELEVEn」のロゴの最後の「n」は小文字であることを述べましたが、多くの方は、毎日見ていても、そのことに気づいていません。それは、関心がないからです。関心のないことは何万回見ても、気づかないものなのです。

新聞も同じで、関心のない記事はどんな重要な記事でも読み飛ばしてしまいます。新聞の大きな記事を読むことで関心の幅を広げることが大切です。

経営の原理原則を学ぶ
次に大切なことは、経営の原理原則を学ぶことです。ゴルフをやる場合には、まっすぐ打つ打ち方を最初に学んだほうが上達は早いものです。それが原理原則だからです。同様に、経営を実践で行う場合にも、原理原則を学んだほうが、上達が早いことは言うまでもありません。

私は当社のコンサルタントに「もし、お客さまのところへ行って、会社の見方が分からなかったら、とにかく「お客さま第一かどうかだけ見てくるように」とよく言います。それが、経営の根幹だからです。外部志向か内部志向かを見るという言い方をしてもいいでしょう。

しかし、原理原則はそれだけではありません。「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」を行うのが経営ですが、それぞれに関して、「お客さま第一」を根幹としながらも、多くの原理原則があるのです。戦略立案(方向づけ)、会計・財務、経営者の姿勢、人を動かすことなどについて多くの原理原則があります。

それを得るためには、それらの原理原則を理解して、大成功している経営者や経営コンサルタントの本を読むこともとても大切です。

お薦めはピーター・ドラッカー先生の本です。ただ、ドラッカー先生の本は難しい部分も少なくありません。それを実践の経営を通して非常に分かりやすく説明しているのがファーストリテイリングの会長兼社長の柳井正さんが書かれた『経営者になるためのノート』です。他に、松下幸之助さんや稲盛和夫さんの本ももちろんお薦めです。経営コンサルタントの大先輩、一倉定先生の本も本質をついています。私の本だと、『経営者の教科書 増補改訂版』です。

大切なことは、良い本を何冊かしっかり読んだ上で、「どの本を読んでも書いてある本質は同じだ」と思えるようになることです。そうなれば、原理原則を、本当に理解したことになります。そこまで本を読みこんでください。そして良い本を何度も読むことが大切で、実践と勉強を繰り返し往復するのです。

何千年もの間、多くの人が正しいと言ってきたことを学ぶ
私は経営者に、このことが一番大切だと説明しています。方向づけにしろ、経営者は判断するのが仕事です。その際に大切なことは、その判断が正しいかどうかです。もちろん、外部環境を的確に分析し、また、経営の原理原則にしたがっていることもとても大切ですが、何よりも大切なことは、人間として正しいかどうかです。儲かるか儲からないかという前に、正しいか否かということを考えなければなりません。そのためには、何千年もの間、多くの人が正しいと言ってきたことを学ぶことが必要なのです。

具体的には、仏教や、論語を中心とする儒教、キリスト教の教えなどです。分かりやすい解説本なども多くありますから、こつこつと紙一重の積み重ねで学ぶことです。

仏教の根幹は「利他」です。儒教の根幹は「仁、義」です。思いやりや社会全体のことを考えるということです。キリスト教の根幹は「愛」です。どれも、本質は同じですが、何千年もの間、多くの人に説かれてきたのは、これらを実践することが難しい一方、本当にそれが分かれば、多くの人が幸せに生きられるからです。

そして、多くの人が知らないことがあります。それは、これらが、幸せだけでなく、成功の根本原則だということです。稲盛和夫さんは65歳になられたときに、京セラの社長をいったん辞め、仏教の修業を2年間されています。松下幸之助さんは成功してから、家にお坊さんを一緒に住んでもらっていたと言います。明治の大実業家の渋沢栄一翁の考え方の根幹は「論語」です。儒教の「先義後利(社会全体のことを先に考えて、自身の利は後にする、義を先にすれば利は後からついてくる)」という考えを根本に据えました。それで大成功されたのです。

「独裁すれども独断せず」
この言葉は、近鉄で名経営者と評判の高かった佐伯勇さんのものです。物事を決めるまでは、素直に謙虚になって衆知を集める。「独断」しないということです。

そして、それを最後は自分の判断で決める。衆知を集めたうえでの決断は独断ではありません。そして、決めたことは徹底してやらせる。それが「独裁」です。
徹底してやらなければ、良い結果は出ません。万一失敗したときも、失敗が早く分かるとともに、徹底してやったことは、失敗の本質が分かりやすいのです。

経営が上手くいかない会社では、大抵、会議の時にずっと社長がしゃべっています。そうしておいて自分は、部下の言うことを聞きません。すると部下は、余計に何も言わなくなります。そして最後には独断で決めてしまう。

良い会社では、部下も社長も皆で仮説を出すことができ、それを検証して、成功確率を高めるまで十分に練ってから、やってみるという風土がある会社を指します。「独断せず」なのです。

そして、一度決めたことは徹底的にとことんやらせる。「徹底」というのが、経営を成功させるひとつの大きなキーワードですが、衆知を集めて決め、それを徹底してやるという社風作りが大切なのです。 

2)資源の最適配分
資源の最適配分の第一ステップは「長所を活かす」
ここからは「資源の最適配分」について説明しましょう。正しい方向づけを行うに際しても、資源(ヒト、モノ、カネなど)を最適に配分することが重要なことは言うまでもありません。資源を最適に配分するのに、まず大切なことは、「長所を活かす」ということです。

特殊な装置があるならそれを活かす、資金が潤沢な会社ならそれを利用して新たな設備投資、M&A、拠点の拡充、あるいは人員のレベルアップを図ることができます。お金のない会社と同じことをしていては長所を活かしていないのです。
そして、働く人の長所を活かすことも重要です。私も皆さんも必ず良いところと悪いところがあります。それをきちっと見極めて、その長所を活かすことを考えるのです。

もちろん、悪い点は改善が必要かもしれませんが、悪いところを改善しても「普通」になるだけです。普通ではだれも評価しません。会社も人も長所を活かし、さらにそれを伸ばすことが必要なのです。

それが組織をより強くします。例えば、営業はすごく得意だけど報告書を書くのは苦手という人は結構いるものです。凡庸なリーダーなら、その人に対して「○○さんに習って、報告書をきちんと書くように」とアドバイスするかもしれません。

しかし、できるリーダーなら、営業は得意だけど報告書を書くのは苦手という人と、逆に営業は不得手だけど文章作成はうまいという人を組ませればいいのです。ひとりだと、自分の弱点はカバーできませんが、チームというのはお互いの長所を活かせるように、短所をカバーしあうことができるのです。
いずれにしても、資源の最適配分の最初のステップは「長所を活かす」ということです。

長所を活かせる人は「積極思考」で「人を心から褒める」ことのできる人
長所を活かせる人は「積極思考」です。だから成功を得やすい。

積極思考の人は「できる」ほうから見て、消極思考の人は「できない」ほうから見るのです。どんなに頭のいい人でも「できない」ほうから見ていると、できない理由ばかり考えて、結局何もできません。「できる」面から見るからこそやれるのです。

もちろん、無謀なことまで積極思考でやれと言っているのではありません。松下幸之助さんは6割、孫正義さんは7割やれると思ったらやると言っていますが、これはもちろん主観的ですが、自身でやれると思う部分が大きければやってみるという姿勢が大切です。

ここで、人の長所を活かせる人は積極思考だと説明しましたが、積極思考かどうかの判断基準は「人を心から褒める」ことができるかどうかだと私は考えています。人の良いところを見つけないと長所を活かせませんが、人の良いところを見て心から褒められる人は、もちろん長所を活かせますし、積極思考なのです。

人をけなしてばかりの人がいますが、それは人の悪い面ばかりを見ているからです。部下でも上司でも、そして子供でも必ず良いところがあります。それを心から褒めることができる人は、積極思考だし、その良い面をうまく使える人なのです。

褒めるとおだてるは違う
ここでひとつ勘違いしないでいただきたいことがあります。「褒めるとおだてるは違う」ということです。
先に、人の良いところを心から褒めると説明しましたが、褒めるとは良いところを良いというのであって、ダメなところまで褒めてはいけません。それは「褒める」ではなく「おだてる」です。「褒めて育てろ」という方もいますが、ダメなことをダメと言わないと、おだてられた本人は仕事や上司を甘く見ます。もちろん、それでは本人も伸びません。

ですから、リーダーは、良いところは良い、ダメなところはダメときちんといえるかが大切なのです。

資源の最適配分で難しいのは「公私混同」をなくすこと
大企業でも、中小企業でも会社がうまくいかなくなる大きな原因の一つが、「私利私欲」や「公私混同」です。これはオーナー経営者でもサラリーマン経営者でも同じです。経営や生き方の勉強を十分にしていない人が上に立つと、どうしても自分の利益を優先することを考えがちです。それではうまくいくものもいかなくなります。そんな人を部下もお客さまも世間も好きではないからです。
もちろん、私も含めて、誰もが聖人君子にはなれませんが、それでも成功する生き方や考え方を学ばなければならないのです。

部下が同じことをやっても許せるかどうか
公私混同かそうでないかの基準は、とても簡単。「部下が同じことをやっても、許せるかどうか」です。それが、切手1枚であっても、飲み代であっても、車であっても同じです。
例えば、部下が営業車を使って休みの日に家族で旅行へ行くことなど許している会社はほとんどないと思いますが、許していないなら、自分もプライベートで会社の車を使ってはいけないのです。家族との食事代を会社の経費にすることを部下に認めていないなら(こんな会社もないと思います)、自分のプライベートの飲み代を経費にしてはいけないのです。

私は、30年ほど前に、倒産直前の会社の若い女性社員さんから「社長のセルシオのために働いていると思うと、アホらしくて働けない」と言われたことを一生絶対忘れないと思います。
「同じことを部下がやっても許せるか」というような基準をしっかり持っていると、経営も人生も間違いません。これは自分で自分を律するしかないのです。経営や人生の生きた勉強というのは、成功するための基準や考え方をしっかり勉強して身につけることなのです。

公私混同をやめ「正々堂々」と生きる
公私混同をしない。それはつまり、自分をいかに律せられるかです。「あなたのやっていることは、公私混同だ」とは、トップには誰も言ってくれないのです。

それは、「経営」のもう一つの仕事である「人を動かす」にもおおいに関係します。部下を動かし、また自分が経営者として100%のエネルギーを出すためには、正しいことをやっている、「正々堂々」としていられることが大切であり、そのためには公私混同は絶対に避けるべきです。それが成功への近道です。

論語に「驕(おご)る」ということと「吝(りん、ケチ)」をとがめる文章が出てきますが、驕り高ぶっていることもケチであることも良くないということです。バランスが大切です。

「欲」を一段階高めればビジネスは成功する
中には、「会社やビジネスなど私利私欲で始めるものじゃないか」と言う人もいるでしょう。それは確かにそうかもしれません。私なども偉そうなことを言っていますが、会社を始めた当初は、私や従業員の家族が食べるためだという要素が大きかったことは否めません。食べていくためだったり、お金持ちになりたい、あるいは名誉欲という動機から会社を興した人も多いでしょう。

だから、最初はそのために必死に頑張るのです。必死に頑張るから、ある程度はうまくいく。しかし、問題はそこからなのです。そこそこうまくいった時から、その後、食べるのに困らなくなった後、それでもお金のために働くのか、それとも、仕事にもっと高い目的や目標を見いだせるかで、仕事の質やレベルが上がるかどうかが決まるのです。

言い換えれば、それまでの「欲」をより高いレベルの「欲」に高められるかどうかが大成功のカギなのです。社会やお客さまや働く人をより良くしようという欲です。そして、欲をより高い欲に変えられた人が、結果として経済的にもより豊かになるのです。松下幸之助さんや稲盛和夫さんを見ていればよく分かることです。「利益」や「報酬」というものは正しい考え方や良い仕事の「結果」なのです。
経営者として仕事を続けていて、このことに気づくことがとても大切です。

「良い仕事」をする・・・ドラッカー先生が「利潤動機」を否定する理由
ここまでの経営哲学的な話を一気に腑に落とすのは、なかなか難しいかもしれません。
私も最初は漠然としか分かりませんでした。実践でそれを腹落ちさせ、そして、仕事の喜びを知り、結果として経済的に豊かになるためには、自分も含めて働く人が「良い仕事」をすることに専念することが一番だということにある時気づきました。

良い仕事をして、お客さまに喜んでいただいて、それが、従業員の喜びにつながり、社会に貢献して、その結果儲かる――そういう循環にもっていければ、先ほど説明した「高い欲」に自然と気づくようになります。

ちなみに、私は「良い仕事」ということについて三つの定義を持っています。良い仕事とは「①お客さまが喜ぶこと、②働く仲間が喜ぶこと、③工夫」です。その三つに集中することが会社や社会を良くする本質です。世の中も、働く仲間も、求めているのは、それらだからです。

そして、良い仕事をして、良い会社を作れば、自分も豊かになる。その豊かさは「結果」であり、世の中からの「評価」なのです。
ドラッカー先生は「利潤動機というものがあることさえ疑わしい」と述べておられます。私はコンサルタントの仕事をし始めて最初の頃はこのドラッカー先生のこの言葉がよく分かりませんでした。利潤のために経営や仕事をしていると思っていたからです。しかし、長年多くの会社を見てきて、また自社を経営してきて、本当に良い会社を作り、良い人生を送るためには、利潤動機ではなく、「良い仕事」に専念し、お客さまや社会に貢献する、働く人を活かし幸せにすることを目的にすることが大切だと確信するようになりました。売り上げや利益は、良い仕事の結果や評価なのです。

「動機善なりや、私心なかりしか」
これは、京セラの名誉会長の稲盛和夫さんの言葉です。
経営者が、物事を判断する際に、「動機が正しいかどうか」ということと、さらには「私心がないかどうか」ということを考えなさいということなのです。

稲盛さんは新しい通信会社(現KDDI)を設立された際にも、ご自身は一株も保有しませんでした。お持ちならば数千億円にはなったでしょう。JALの再建、再上場に際しても同じです。京セラを上場させて得た資金は財団をお作りになり、そこに280億円寄付して、科学振興に役立った方たちの育成に使われています。

リーダーとして、やろうとしていることの動機が世の中のためになるなど善なのかどうか、財産や名誉を得ようとするような私心がそこにはないかということを考えることが大切です。
ものごとを判断するときに、「親しい友達に頼まれたから」などというのは正しい動機ではありません。あくまでも、お客さまや会社、社会のためになるかが重要です。

ただし、結果的に儲かるかどうかも経営者にとっては大切な判断材料です。私心をなくしたうえで、適正な利潤が取れるほどの良い商品やサービスを提供する必要があるのです。
儲かるということと、良い仕事をして社会に貢献するということは何ら矛盾することではありません。「儲ける」ということと、結果として「儲かる」ということとは本質的に違うことなのです。

社員がやる気になる「給与の決め方」
一倉定先生は「従業員に、同じ地域で同じような仕事をしている人と比べて1割高い給与を払うべき」とおっしゃっています。給与が少ないと、子供さんを行きたい学校に行かせられない、旅行にも行けないなどとなり、それでは、どうしても仕事や会社にプライドを持てません。

しかし、逆に、生き方や人生の正しい考え方の勉強を十分にしていない人たちに多くの給与を与えると、遊んでしまったり、仕事をないがしろにして、結局人生を有意義に送れないことになってしまいます。だから、「1割多く」というのが妥当だと私も思います。

さらには、私は一代で東証プライム上場会社を作ったある経営者から次のように言われたことがあります。「小宮さん、会社というのはどれだけ多くの人を雇っているかも大事だが、1000万円以上の給与を取っている人が何人いるかも大切だ」ということです。

経営者だけが高い給与を取っている会社もありますが、長く勤めてくれている従業員、とくに、自分の人生を賭けて働いてきてくれた幹部たちには報いなければなりません。そういう人たちにどれだけ報いるかが経営者のプライドでもあるわけです。

3)人を動かす
リーダーは二つの「覚悟」を持て
経営という仕事の最後は「人を動かす」です。
ここでは経営者に大切な「二つの覚悟」について簡単に記しておきます。
ひとつは「先頭に立つ」覚悟です。先頭に立って行動する「指揮官先頭」の覚悟がないリーダーには誰もついてきません。
もう一つは「責任を取る」覚悟です。自分の管轄下にある組織については、すべての責任を取る覚悟がないと、やはり、部下は思い切って仕事ができません。

これら「二つの覚悟」について、ここであえて触れたのは、今日からでもこの二つの覚悟を持って行動してほしいと思うからです。
ですから、今日からでも「先頭に立つ」「責任を取る」を自覚して行動してください。

モチベーションより働きがいを高める
私のところにも、経営者から社員のモチベーションを上げるにはどうすればいいかという質問がときどき寄せられます。その時に私は、必ず「働きがいを高めることです」とお答えします。社員のモチベーションを高めることはもちろん大切なことですが、そのために無駄な努力をしている会社も少なくないのです。
皆さんは、ディズニーランドに行ったり、親しい仲間とゴルフをする際に、わざわざモチベーションを上げる努力などしていないはずです。自然にモチベーションが上がるからです。

本来仕事においても、自然にモチベーションが上がるはずなのですが、経営についての考え方が違っていると、働く人のモチベーションが上がらない状態に陥るのです。
その一番の原因は、経営者が「目的」と「目標」の違いをはき違えている場合です。

「お客さま第一」と「働きがい」を同時に実現・・・社員を疲弊させてはいけない
「お客さま第一」は経営の原理原則の第一です。これを外してうまくいく会社はありません。そして、「お客さま第一」をある程度きちんと実践していると、売上高や利益の結果も間違いなく出ます。

経営コンサルタントの私の思考も長い間そこで止まっていました。「お客さま第一」をきちんとやっていると、お客さま企業の業績が良いからです。しかし、そこで働く人が疲弊している会社も少なくないことに気づきました、中には厳しくお客さま第一をやったために、社員を追い詰めた会社もありました。
私は、いまでは、「お客さま第一」と「社員の働きがい」を「同時に」実現することが大切と経営者には必ずアドバイスしています。

つまり、お客さま第一(の行動)を行うことそのものが、同時に働く人の働きがいとなっているということです。働く人の犠牲の上で、お客さま第一や会社の利益の向上があってはいけないのです。
会社が働く人に与えられる幸せは①働く幸せ(働きがい)、②経済的幸せですが、その働きがいをお客さま第一の活動を通じて感じてもらえるようにすることが大切なのです。

私は良い会社かどうかを見極めるひとつのバロメーターとして「離職率」を見ています。離職率の高い会社はどんなに利益が出ていても私の基準では良い会社ではないのです。働く人が幸せではないからです。
もうひとつ、離職率に関連して見ているのは、「辞めた人が戻ってくるか」ということです。辞めた人が戻ってくるのは良い会社です。

II.経営の原理原則
ここまで「経営という仕事」ということに焦点をあて説明してきました。ここからは「経営の原理原則」を説明していきます。

「良い仕事」から「良い会社」を作る
私の経営に対する基本的な考え方のひとつが「良い仕事」を行うことにより、その結果「良い会社」を作るというものです。
「良い仕事」についてはここまでに何度か出てきました。「お客さまが喜ぶこと」、「働く仲間が喜ぶこと」、「工夫」です。
「良い会社」の定義は
1.良い商品やサービスを提供し、お客さまが喜び、社会に貢献する会社
2.社員が幸せな会社
3.高収益
です。社員の幸せは、①働く幸せ(働きがい)、そして②経済的幸せです。この順番を間違わないことです。(そして、高収益とは付加価値(売上から仕入れを引いたもの)の2割の営業利益ということです。)

いずれにしても小さな行動をベースにした「良い仕事」の結果が「良い会社」なのです。働く人が「良い仕事」を行うことで、働きがいを感じながら、「良い会社」を作るのが経営の根幹です。

「ダム経営」を心がける
経営には余裕を持つことも大切です。
松下幸之助さんは「ダム経営」を挙げておられます。

ダムに水が貯まっていると、日照りの日が続いても、下流に安定して水や電力を供給することができます。会社も同じように、ヒト、モノ、カネにいつも余裕を持った経営をしよう――というのが、「ダム経営」です。

そのためには、良い時に貯めておく習慣をつける必要があります。良い時に貯めておかないと、不況が来た時に安定した経営ができません。リーマンショックや東日本大震災で、そのことが身に染みた経営者が沢山いたことでしょう。良い時に必ず貯めておいて、しんどい時にも安定してヒト、モノ、カネを持っていられるようにしなければならないのです。

利益とは何か
そもそもの経営について、普段何気なく使っている言葉でも、深く考えておかなければならないことがあります。私は、企業研修などで、「利益とは何か」ということをよくグループディスカッションのテーマにします。さまざまな答えが出てきます。「売上高から費用を引いたもの」。もちろんそれも間違いではありません。

しかし、経営者は、利益の経営哲学的意味をきちんと働く人たちに説明できなければなりません。もちろん、まず自分がそれを十分に理解していることが大切です。
ひとつは、利益はここまで何度も話してきた「良い仕事」の「結果」ですが、その「評価」や「尺度」でもあります。良い仕事をどこまで徹底してやっているかの評価や尺度です。
さらには、「手段としての利益」があります。私は次の五つだと考えています。

1.延命不測の事態に備えるために利益の蓄積が必要です。一部はキャッシュで積んでおく必要があります。
2.未来投資後の項でも詳しく説明しますが、設備投資だけでなく、M&Aや優秀な人材を確保するなどには利益が必要です。
3.働く人の待遇改善利益なしには待遇改善はできません。
4.株主への還元配当や自社株買いを行うためには利益が必要です。
5.社会への還元税金などで社会に還元するのです。

こうして考えると、利益は、働く人、会社、お客さま、株主、そして社会を良くするためのコストなのです。利益なくしては、誰も良くなりません。
赤字は社会に損害を与える害悪です。経営者は適正な利益を出すことに信念を持たなければならないのです。

確固とした「目的」「志」と高い「目標」はセット
ここまで何度か出てきましたが、「目的」は存在意義です。なんのためにこの会社が存在するのかということです。ベースにあるのは経営者の「志」です。自社の商品やサービスを通じて世の中の発展に貢献することや働く人を幸せにするなどです。

一方、「目標」はその通過点や目的達成のための手段です。目標としては、成果物としての商品やサービスの開発やその結果として生み出される売上高や利益などです。

ここでとても大切なことは、目的と目標は必ずセットだということです。目的もなしにただ単に高い目標だけを掲げて、従業員のお尻を叩いて目標達成のノルマを課している企業を少なからず見かけます。働かされている人にとってはたまったものではありません。がめつい経営者や株主の金儲けの手段にされ過酷なノルマを背負わされているからです。
あくまでも、目的や志がベースになっていることが重要です。明確な目的を持ち、高い志があるからこそ、目標も高くなるのです。

「ビジョン」も同様です。ビジョンとは長期的に自社がどうなりたいかという目標です。業界ナンバーワンになる、東証プライム上場などですが、しっかりした「目的」や「志」なしに、高いビジョンを掲げても、従業員もお客さまも社会も白けています。こちらもあくまでも確固とした「目的」や「志」とセットなのです。
また、ビジョンに関しては、あくまでも「目的」とセットで、単に経営者の我欲を表明するようなものは避けるべきです。働く人もお客さまも知ったことではないからです。

「成果」と「結果」の違いを理解する・・・「お金を追うな、仕事を追え」
ドラッカー先生は「適切な成果に焦点をあてる」と述べておられますが、その際に注意しなければならないのは「成果」と「結果」の違いです。「成果」というと売上高や利益と勘違いしている人も少なくありませんが、それらは「結果」です。「成果」とは「成果物」と言い換えてもいいかもしれませんが、あくまでも、お客さまが喜ぶことや働く仲間が喜ぶことです。商品やサービス、あるいは、レポートや開発物などです。

その成果により、売上高や利益が出るのです。「成果」→「結果」という考え方が大切です。私の人生の師匠の藤本幸邦老師がおっしゃっていた「お金を追うな、仕事を追え」ということと相通ずるものです。

さらに言えば、「成果」を生むためにはそのプロセスが必要で、「プロセス」→「成果」→「結果」という流れをきちんと築くことが経営計画策定などで必要とされることです。

「徹底」がキーワード
そして、重要なポイントのひとつは「徹底」です。現場では「徹底」がとても重要です。
徹底すれば、現在の市場でももっと深掘りできます。もっとも、自社商品がすでに市場の60%ほどのシェアを持っていて、これ以上になると独占禁止法に触れるというのであれば、深掘りしようがないかもしれません。しかし、それでも商品の工夫やコスト削減はできるはずです。そして、ほとんどの会社は、それほどのシェアはありません。

だから、どんな場合でも「徹底」する必要があります。この「徹底」というのはビジネスを成功させるうえでの非常に重要なキーワードなのです(ビジネスだけでなく、人生成功のためのキーワードでもあると私は思っています)。

社員の「基礎力」を高める・・・「思考力」と「実行力」
経営者をはじめ働く人に必要な「基礎力」がありますが、それは「思考力」と「実行力」です。考える力とその考えたことを実行する力です。

世の中は複雑系です。一方、便利な時代はあまり考えなくても済む時代です。どこかに電車で行くにしても、ピッといわせて自動改札機を入場し、ピッといわせて出るだけです。しかし、そのシステム自体はとても複雑なものです。

現場での仕事も、お客さまへの対応、製造など、本質的なところではどんどん複雑化しています。それを理解し、対応する思考力が必要なのです。

そして、それを実行する能力も必要です。考えているだけでは何も起こりません。考えたことを実行する能力が求められます。「小さな行動」の積み重ねや、「言ったことを守る」、「思ったことをやる」習慣を持つことで実行力を高めることができます。

マネジメントチームの育成
そこそこ成長した企業が成長を止める、あるいは成長が鈍化する要因の一つとして、「マネジメントチーム」の欠落をドラッカー先生は指摘しています。カリスマ経営者がグイグイ引っ張って経営してもある程度までは大きくすることができます。しかし、売上高が数十億円から100億円程度を超える規模になると、数人程度でもいいのでマネジメントチームが必要になります。カリスマ経営者だけでは、目が行き届かなくなるのです。

マネジメントチームには、①企業の方向づけ、②資源の最適配分、③人を動かす、の経営をサポートしてもらわなければなりません。とくに、方向づけは、衆知を集めて考えたほうが精度が上がります。

そして、マネジメントチームには、自社や「経営者」の考え方もきちんと理解してもらわなければなりません。さらにはある程度の社歴のある会社では、自社の歴史を学んでもらうことも大切です。

III.経営者の正しい姿勢
ここからは、「経営者の姿勢」についての重要なところを説明します。

リーダーの持つ「甘さ」と「優しさ」は違う
リーダーが持つべき二つの覚悟のひとつである「指揮官先頭」ができるようになっても部下はすぐにはついてきてくれません。自分がやれば必ず人はついてくるなどと思うのは、思い上がりの幻想です。「指揮官先頭」は必要条件です。

リーダー自身が先頭に立ってやるとともに、お客さまが喜ぶことや働く仲間が喜ぶことなどの「小さな行動」を部下にやらせることが必要です。

皆さんは部下に厳しく言うことはできますか。これはとても大切なことです。

リーダーの持つ「甘さ」と「優しさ」は違います。「甘さ」というのは、その場しのぎです。「こんなことを言うと、この人がかわいそうだ」とか、「注意すると、自分が恨まれるんじゃないか」と考えて言わずに済ませてしまうのは甘さです。

一方、リーダーが持つ「優しさ」とは、中長期的にみんなを幸せにできるかどうかということ。お客さまを幸せにして、自分も含めて働いている人たちを幸せにできるかどうかは、リーダーが持つ「優しさ」にかかってきます。

もし「甘さ」というコインがあるとすれば、その裏側は「冷酷」です。リーダーが甘いことばかり言っていると、組織はいずれダメになるからです。「優しさ」というコインがあったら、その裏側は「厳しさ」です。やはり言うべき時には、厳しいことも言わなければいけません。

勇気やエネルギーの源泉は「信念」
ただし、厳しいことを言うには勇気がいります。では、その勇気はどこから出てくるのでしょうか。私は、勇気は「信念」から生まれると考えています。つまり、お客さまに喜んでいただいて、この会社を良くして、働いてくれている人にも幸せになってもらおうという信念があれば、厳しいことも言えるのです。

しかし「しばらくの間、うまくいけばいい」とか「小言を言うと嫌がられるのではないか」といったような考えでは、厳しいことは言えません。

そして、経営者は「正しい」信念を持つことが大切です。

「正しい信念を持つ」――この言葉の中には、キーワードが二つあります。それは「正しい」と「信念」です。世の中には正しくない信念だってあります。「この会社は、俺のベンツを維持するためにある」「社長一族だけがいい思いをするためにこの会社は存在する」というのも信念です。でも、正しい信念ではありません。それでは人はついてきません。そうした意味で、経営者にとって「正しい信念」を身に付けられるかは、とても重要なことなのです。

正しい信念を持つために、私がお薦めするのは、先にも説明したように、何千年もの長い間、読み継がれた本を読むことです。例えば『論語』や『老子』などの中国の古典や、『聖書』や『仏教聖典』でもいいでしょう。多くの人が正しいと信じて長く読み継がれた本です。そうした本には、真理があるからです。

原典に当たるのは難しくても、今は読み下した良書が沢山あります。最近の方の本であれば、松下幸之助さんや稲盛和夫さんなど、多くの人が素晴らしいと認める方の本を読み、それを実践することで「正しい信念」は身に付いていくのです。こういう良い本を何度も何度も読むことです。一度読んで分かったつもりではダメなのです。

「正しい信念」がない経営者は、どこかでコケます。

「正しい」という意味は独りよがりではなくて、何千年もの間多くの人に支持されてきた思想、つまり真の成功と幸せのための思想を身に付けるということです。これは、人間として一番大事なことでもあります。ビジネスで成功するしない以前の問題です。

良い本を繰り返し読む
「正しい信念」は、一朝一夕には身に付きません。勉強あるのみです。長く読み継がれている本や、多くの人が「良い本だ」と認める本を何度も読むことをお薦めします。それを積み重ねていくことが大切なのです。

ここで何から読み始めて良いか分からないという方のために、いくつか紹介しておきましょう。私がいつも薦めるのは、松下幸之助さんの『道をひらく』です。私は30年以上読み続けています。自宅の勉強机の上に置いてあり、寝る前に数項目必ず読みます。見開き2ページで1項目が読めるので読みやすく、何度読んでも新鮮で、自分のブレをただすのにとても役立っています。稲盛和夫さんの『生き方』もとても良い本です。

一番強い組織は宗教団体
皆さんの会社の社歴は何年ですか? 100年、200年という会社もあると思います。当社のお客さまで一番社歴の古いお客さまは、1200年以上京都で事業を行っています。

この会社は特別として、一般的には100年以上続く会社はそれほど多くありません。しかし、宗教団体は1000年、2000年ざらに続いています。従業員にお金を支払う企業がなかなか100年もたないのに、信者から寄付を集める宗教団体は1000年、2000年の長さで存続する。

理由は、宗教団体は「考え方」を求心力にし、信者に心の安らぎを与えているからです。お金を求心力にしていません。求心力を「考え方」、それも「正しい考え方」にした組織が、長く強く存続する組織なのです。

コミュニケーションは「意味」と「意識」の両方
先に「徹底」について説明しましたが、ものごとを「徹底」するには「意識」を伝えることが必要です。

私は、コミュニケーションは「意味」と「意識」の両方だと思っています。「○○という商品を重点的に拡販する」「△△地域のお客さまへの訪問頻度を増やす」などは意味です。一方、皆さんは、同じことでも好きな人に言われたらやりたいけれども、嫌な人に言われたらやりたくないということがあると思います。これは「意味」は同じでも「意識」が違うからです。

「意識」を伝えるのには、面と向かって話すのが一番です。

私も講演会で話すのが好きですが、それは「意識」を伝えやすいからです。

働く仲間となら、普段から挨拶や雑談、ときには一緒に食事をすることなども有効です。

宇宙の原理を知る
大成功した人が共通に語っていることも勉強して損はありません。

松下幸之助さんは宇宙の原理は「生成発展」だと述べておられます。歴代の首相が教えを乞いに行ったと言われる東洋哲学の大家である安岡正篤先生は「生成化育」とおっしゃっていますが、同じことです。

大成功している人たちや哲学の大家たちは同じことを言っているのですが、つまり、宇宙の原理は、常に世の中は変わり、発展しているということです。松下さんは、その宇宙の原理に則る限り、必ず成功すると述べておられます。松下さんの言葉を引用すると、

「自然(大宇宙)の理法は生成発展の性質をもっています。もの事は、この自然の理法に則ってするならば、必ず成功するようになっている。成功しないのは自分にとらわれたり、何かにこだわったりして、この自然の理法に則っていないからだ」
とおっしゃっています。

自分や自社も発展を続ける、私の言葉で言えば「なれる最高の自分になる」ように努めることも生成発展にかなっています。妥協するのはかなっていません。

以上、私が考える経営の本質を説明してきました。
詳しくは、『経営者の教科書 増補改訂版』をお読みください。


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