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事業承継を成功させるために知っておきたいポイント

事業承継
2024.02.16

「事業承継」は今や中堅・中小企業においては、筆頭に挙がるぐらいの経営課題となっています。
事業承継とは、単なる資産の承継や株の承継のことではありません。企業経営において、事業承継をどのように考え準備しておくべきかについて、まずは知っておくべきことを解説します。

INDEX:
1.事業承継者がいないという課題
2.事業承継における「成功」の定義とは
3.後継者人材の資質を見極める
  経営者の資質①「素直である」
  経営者の資質②「勤勉である」
  経営者の資質③「利他心がある」
  経営者の資質④「誠実である」
4.同族の後継者の育成―社外から、1メンバーからスタート
5.内部昇格者の育成―複数の立場での経験を積ませる
6.経営幹部になったら「経営人材」としての育成を
  経営人材の育成① 経営に必要な基礎的知識の習得
  経営人材の育成② 経営者として必要な心構えを持つ
  経営人材の育成③ 経営の実践(経営計画の策定とPDCA)を行う
7.現経営者の実務を引き継ぐ
  ステップ1:現経営者の業務を可視化、一覧化する
  ステップ2:各業務の承継計画についてアクションとスケジュールを明確にする
  ステップ3:承継計画の実施、チェック、見直し(PDCA)を進める
8.事業承継は経営の大切な仕事

1.事業承継者がいないという課題

「事業承継問題」が大きな問題としてフォーカスがあたるようになり、随分時間が経っています。ここでの事業承継問題とは、「経営者の後継が不在であり、後継者が見つからないと最悪の場合は廃業となる」ことです。中小企業庁の試算で、2025年までに平均的な引退年齢とされる70歳を超える中小の経営トップが245万人にのぼり、うち127万人が後継者未定と発表されています。このままでは、事業は黒字であるにも関わらず廃業する企業が続出することが懸念されています。

なお、実際の後継者としては、「同族企業における親族」がこれまで一番多かったところ、「幹部社員の内部昇格」が上回る傾向が出ています。また、「M&Aなどで事業承継する外部の企業や個人」という選択肢も確実に増えています。

2.事業承継における「成功」の定義とは

そもそも、事業承継における成功とは何かについて考えてみましょう。

事業承継における成功とは、下記のようなこととして表現できるように思います。

「経営理念も含めて前代からの事業を継続的に承継しつつ、外部や内部の環境変化に対応した事業の見直しや新しい事業展開ができる後継者に事業承継され、企業・組織として継続・発展できること。」

事業承継における「成功」を考えると、後継者はただ見つけるものではなく、居るか居ないか、ということでもないことが分かります。後継者となる人材候補を確保して見極めること、育てること、そして決めた人材へ経営を渡していくこと、それらを計画的に行っていく必要があります。

「自分が社長になったら、承継について準備を始めるべき」といわれるぐらい、社長としての大きな仕事でもあります。

3.後継者人材の資質を見極める

「見極めるほど後継者の候補がいないから困っているのだ」となる前に、本来は将来経営を担えるような人材をいかに採用し育てることが必要です。

同族企業では親族からまずは後継者候補を考えることが多いでしょうが、できれば最初から決め打ちせずに、社員からの内部昇格も含めて広く候補の人材を見極めておきたいものです。適切でない人が事業を承継して、お客さまや社会に迷惑をかけ、社員を不幸にするようなことのないよう、「見極める」ことが大切です。

特にM&Aの場合は買収先として選んでもらうことに意識が強くなり、「見極める」ような気持ちになれないかもしれません。しかし、外部の会社や個人であるからこそ、なおさら後継者となりえるのか見極めることが必要です。自社のことを分かっている現経営者だからこそ、その後を任せられる人物なのかどうかという判断が必要となります。

では、後継者となりえるのか見極めるためには、後継者候補の何を見るべきでしょうか。

見るべき視点として、候補者の実績・経験などの客観的に評価できることと、後継者の資質などの主観的に評価することがあります。実績・経験はこれまでの社内や社外での成果などで判断していくとして、より見極めが難しい「資質」については、次の4つを挙げてみたいと思います。

経営者の資質①「素直である」

まず、リーダーが素直であれば、自身の失敗や良くない点をそのまま受け入れることができます。そして、その失敗や良くない点を踏まえて、事業をどのようにすればよりよくなるのか考えることができます。逆に素直でなければ、自分の失敗や良くない点を受け入れられず、同じ過ちを何度も繰り返すでしょう。

また、事業の方向付けを行っていく際にも、お客さまのニーズや外部環境について「素直に」見るということがとても重要になります。

経営者の資質②「勤勉である」

リーダーが勤勉であれば、環境変化や新しい知識を積極的に学び、それを事業に活かそうとします。優れたリーダーほど、学びに対して貪欲であるとともに、その学びの途中からどのように実践に活かせるか考えるものです。逆に勤勉でなければ、環境変化などに対応できず、事業は衰退するかもしれません。

また、頭の良いリーダーだったとしても、口ばかりのリーダーであればどうでしょうか。勤勉さは周囲の人の信頼を得るためにも必要な性質です。

経営者の資質③「利他心がある」

リーダーが利他心を持って行動できる人であれば、お客さまや社員を第一に考え、お客さまの満足や社員の幸せを考えて事業に取り組むことができます。これは言うは易しで、現実には「利他」の資質がないと本当に難しいものです。

優秀な人には「自分が正しく、自分の力を見せつけてやりたい」という想いが原動力となる人がいます。こうした想いが個人としての大きな成果を生み出すことにもつながることは確かですが、リーダーとなる人がこのような想いが強すぎると、メンバーの強みを引き出し、組織としてお客さまに喜んで頂くことが難しくなります。このような人にはリーダーとしての地位を与えることは慎重になるべきです。

経営者の資質④「誠実である」

リーダーが誠実であれば、お客さまに対してはもちろんのこと、社員に対しても約束したことは守ろうとします。経営者としてものごとを判断するときの判断軸となるもので、お客さまに信頼され、社員から信頼されるためにとても重要な要素です。風通しがよく自由闊達な企業文化を築いておられる企業の経営者には、この「誠実さ」が共通の資質として見られると感じます。

これらの「素直」、「勤勉」、「利他」、「誠実」といった資質はどのように見極めるべきでしょうか。これは残念ながらノウハウがあるわけではなく、後継候補者にこれらの資質が備わっているのか、とにかく観察するしかありません。その際、その候補者に対する自分の好悪は一旦置いて、リーダーとしてこれらの資質があるかを見極めることが大事です。

4.同族の後継者の育成―社外から、1メンバーからスタート

親族の後継者候補については、社会人になるタイミングで、すぐに承継予定の会社に入社するのではなく、一度他社に就職することをおすすめします。

同族の社員が入社すれば、自社においては特別扱いされ、社会人として必要な姿勢や心構えなどの基礎が確立しないことがあるためです。一社員として、社会人としての基礎力を培うだけでなく、多様な経験や外からの視点を養うこともできます。

承継会社への入社後もすぐに経営幹部とすることは避けるべきです。まずは営業や生産など、現場の1メンバーとしてスタートをしてもらいましょう。1メンバーとして仕事をするなかで現事業のオペレーションを知り、現場の苦労や問題、課題について身をもって知ることができます。

入社直後から役員や部長クラスからスタートされる場合があります。こうした場合には現場を知らずに後継者が育つケースが見聞きされるので注意が必要です。
(※但し、上記は20代~30代前半頃までの短い社会人経験で入社されるケースを想定しており、それ以降で特に同業界等の経験がある場合はスタートから経営幹部に就任することはありえます。)

1メンバーとして入社したのち、周囲からも認められる実績をあげるようになれば後継者として経営幹部に引き上げていきます。

この間、親族の後継者候補として甘えないように指導することも大事な教育です。「自分は親族だからどんな結果でも経営者となるだろう」と考えている様子があれば、きちんと実績をあげないと後継できないことを厳しく伝えることも現経営者の役割です。もしそれでも変わらない様子であれば、資質がないとして後継者から外すことも検討すべきでしょう。

ここまでの試練を通過して後継者として経営幹部になったら、次は経営幹部から経営者となるための教育が必要となります。

5.内部昇格者の育成―複数の立場での経験を積ませる

社員からの資質のある人材候補を育成する場合は、複数の部署での仕事を経験してもらいながら、リーダーとしての経験を積んでもらいましょう。生産や製造を数年経験させたら、営業の経験もしてもらうなど、社内の仕事に通じること、社内の人脈を作ること、お客さまに関わること、人を動かすこと、判断や結果に責任を負うことなど、経験を通して学んでいけるように意図を持ってキャリアデザインをしてください。

その実際の仕事ぶりのなかで、先述した資質を見極めることもできるでしょう。

6.経営幹部になったら「経営人材」としての育成を

親族の後継者であれ、内部昇格者であれ、経営幹部になってからの育成はどのように考えればよいでしょうか。

よく企業経営者の皆さまとお話ししていると、よく次のようなお話がでてきます。

「経営幹部といっても、経営者というよりプレーヤーから成長できていない幹部が多い。担当している業務範囲や短期の視点で考えることが多く、事業全体や中長期の視点で考えることがなかなかできない。」

つまり、経営幹部であっても「経営人材」ではないということなのです。

では経営人材にするための教育を何かしているのか、というと残念ながら行われていないことが多いのが実態です。特定の業務範囲のリーダーとは異なり、「経営人材」という会社全体のリーダーを育てるためには、一定の教育が必要となります。それも、外部の力もうまく活かしつつ、現経営者自身が経営幹部の教育にあたることが必要です。

経営人材の育成① 経営に必要な基礎的知識の習得

企業の経営を担う立場として知っておくべきことがあります。候補者が経営者とならなくても、経営幹部であれば、企業の経営の目線でものごとを考えることが必要ですし、新しい経営者を支える人材も必要です。

具体的内容としては、経営戦略、マーケティング・イノベーション、組織・人事、財務・会計などを学ぶことです。また、現代の社会の変化や流れなどを学ぶこともあげられます。

世の中が複雑になり、また変化が激しい時代において、このような基礎的知識は経営者としてますます必要となっています。

こうした教育は社内で行うには負担が重すぎるため、外部の会社や機関が提供しているプログラムを活用するのも有効です。小宮コンサルタンツでも、「KC後継者ゼミナール」や「経営幹部養成講座」として同様のプログラムを提供しています。

もちろん、外部プログラムを活用するにしても、後継者の方々が自学自習も行うことが前提です。日本経済新聞を読む、経営に関連する書籍を読むなどの自助努力でもインプットを行い、日々の仕事において活かすよう促してください。

経営人材の育成② 経営者として必要な心構えを持つ

企業の経営者として持つべき考え方や姿勢はどのように育成すればよいのでしょうか。

具体的には、リーダーとして持つべき信条、理念や、経営のなかで発生する問題・課題に対してどのように考え、実行していくべきかという判断軸や姿勢です。

特に全社員のリーダーとして、人材をどう活かし、成果を生み出していくかについて学ぶことが必要です。

こうした教育においても外部プログラムの活用は有効ですが、現経営者自身も後継者に直接教育することが必須と考えます。なぜなら、長年実際に経営者、リーダーとして務めてきたのは現経営者自身だからです。その言葉には説得力、重みがあるはずですし、自社のことについて経営の立場から話すことができるのも現経営者しかいません。自身や先代が行ってきた歴史や経営理念についても是非話をしてください。

具体的には月に1回程度の「社長塾」などを設けて、後継者に対してお話しをしていくことなどが考えられます。もちろん、日頃のコミュニケーションのなかで伝えていくこともできますが、改めて場を設定した方が伝えやすいこともあるでしょう。

経営人材の育成③ 経営の実践(経営計画の策定とPDCA)を行う

経営幹部が現経営者と一緒に経営計画を策定し、実践することを通して「経営人材」として成長することができます。

具体的には、企業の経営理念を再確認したうえで、外部・内部の環境を踏まえた企業の方向付けを検討します。この方向付けを踏まえて、3か年のアクションプラン、組織・人員計画、収益計画などを作成していきます。経営計画の作成後はアクションプランを実施するとともに、定期的にチェック、見直ししていきます。このような経営の実践を現経営者と経営幹部と一緒に進めていくこととなります。

現経営者と経営幹部が一緒に進めるなかで、現経営者は経営幹部に対して経営者として必要な「長期的」、「多面的」、「本質的」なことを教えていくことが必要です。

もちろん、経営幹部に教えらえるように、現経営者自身がそれまでに「長期的」、「多面的」、「本質的」に考えられるようになっていることが前提です。

経営幹部は現経営者から教わりながら「経営人材」となるため、現経営者自身が「経営人材」でなければ教えられません。

7.現経営者の実務を引き継ぐ

特に意識されることがなければ、現経営者と後継者の方が一緒に仕事をするなかで口頭や書面で共有することが一般的だと思いますが、ここではわたしたちがご支援するなかでお薦めしている承継方法についてご紹介します。

ステップ1:現経営者の業務を可視化、一覧化する

現経営者の業務を書き出して一覧化します。エクセルで書き出すのが整理しやすいでしょう。この書き出し作業は無秩序に書き出す前に、業務分類を設定してから書き出した方が整理されます。

業務分類は、まず「社外」と「社内」に切り分ることをお薦めします。

「社外」については、外部の得意先や仕入先など、「対象先単位」で分類していきます。個別の会社ごとに業務が異なるのであれば個別会社ごとに設定しますが、例えば得意先のなかでも「大企業向け」「中堅・中小企業向け」などで業務が括れるのであれば、括れる単位で設定します。

そして、「対象先単位」のなかで、「交渉・意思決定事項」と「事務プロセス事項」の2つに分類します。そして、この2つの分類の下に現経営者が対応している業務を書き出していきます。

「社内」については、「ヒト」、「モノ」、「カネ」などの内部資源の視点から分類していきます。「ヒト」は人事に関わること、「モノ」は拠点や設備に関わること、「カネ」は損益や資金繰りに関わることが中心となります。

それぞれのなかで、「意思決定事項」と「事務プロセス事項」の2つに分類していきます。そして、この2つの分類の下に現経営者が対応している業務を書き出していきます。

業務分類をもとに書き出した業務一覧は後継者とも共有、確認していきます。

ステップ2:各業務の承継計画についてアクションとスケジュールを明確にする

業務一覧をもとに承継計画を作成していきます。このなかでは各業務の承継者、承継時期、承継方法について検討していきます。

承継者は基本後継者ですが、業務によっては他の経営幹部や社員が担った方がよい場合があります。現経営者の業務を一覧化してみると、意外と細かい業務も担われており、その分大事な業務に時間が取れていないことがあります。本来の経営者の仕事は何かを見直す良い機会にもなります。

承継時期については、後継者への最終的な承継時期から逆算しながら各業務の承継時期を設定していきます。

承継方法については、基本パターンは現経営者と後継者で業務内容について共有したうえで、しばらくは並走で業務を実施したのち、徐々に後継者単独で業務を実施しつつ、現経営者がフォローすることになります。社外の方との関係性が求められるものや、資金繰り等会社の存続に関わるものほど、並走期間は長めにとるなど、丁寧な承継が求められます。

ステップ3:承継計画の実施、チェック、見直し(PDCA)を進める

承継計画作成後は計画に基づいて実施していくこととなります。

そして、計画実施のチェックとして最低でも月に1回は現経営者と後継者で進捗状況をチェックするミーティングを開いてください。このなかでは計画が予定通り進んでいるのかどうかの確認や、業務内容の詳細確認などを進めていきます。

できれば、このミーティングの後などに現経営者と後継者で食事をするなどして、これまで現経営者として考えてきたことや、大事にしてきたこと、後継者としての想いなどをお互いが共有することも大事です。実際にこのようなインフォーマルなコミュニケーションができている場合には承継がスムーズに進むケースが多いように思います。

8.事業承継は経営の大切な仕事

経営者の方は、会社や社長業と自分自身が一体となっているがあまり、自身が経営者でなくなることについて想像がつかないということもあるようです。そしてついつい考えることを先延ばしにした結果、相当な高齢になっても承継の準備が何もできていないケースも見受けられます。

ここまで見てきたように、後継者を見極め、育成し、実際に承継をしていくには相当の時間がかかります。

まずは、経営者自身が、経営者としての卒業のタイミングを決めてください。そしてその期限に向けて事業承継の準備を着実に行っていきましょう。

未来へのバトンタッチを行っていくことは、お客さまや従業員に対しての大切な経営の仕事であると認識することが大切です。

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