トランプ前大統領が狙撃されたことや、バイデン大統領の出馬辞退が表明されるなど、米大統領選挙に向けた情勢が刻々と変化している中ですが、マクロ経済を見ているものとしては、今月末の日米の中央銀行の金利に対する動きがとても気になるところです。
私は、今月末の日銀の政策決定会合では政策金利が0.1%上昇、米国のFRBの政策決定会合であるFOMCでは0.25%程度の利下げの可能性はあるものの、9月まで利下げを見送るのではないかと考えています。
まず、日本です。日本では2.5%程度のインフレが続いています。米国は3%程度のインフレですが、インフレの「粘着性が高い」という表現が使われます。日本のインフレもかなり粘着性が高く、なかなか下がりません。
もう2年ほど、インフレ率が名目賃金を上回り、実質賃金が目減りする状態が続いています。給料は上がっているものの、実質的に使えるお金の価値が減っているのです。
この春の賃上げの状況がそろそろ現金給与総額などの雇用統計に出てきますが、実質賃金が上がるかどうかが、家計の暮らしやすさの改善とともに、現状低迷を続ける家計の消費支出にも影響を与えることは間違いありません。
家計の支出はGDPの5割強を支えています。そういった意味でも、インフレ率を少し抑える政策が望ましいと考えます。
さらには、日本の個人金融資産は約2100兆円あり、そのうち現預金が1100兆円を占めています。現預金の大部分は預金です。
インフレ率が2%を超えているということは、モノの値段が1年で2%程度上がるということですが、逆の見方をすればお金の価値が2%程度下がるということです。
金利の役割りのひとつは、それを補填することです。このままでは国民は年間20兆円ほど損をしています。
ちなみに米国では3%程度のインフレに対して、3ヶ月物の金利は約5%ありますから、インフレによる貨幣価値の目減りを金利が十分に補填していると言えます。
しかし日本では普通預金金利が3月のマイナス金利解除で上がったと言っても、せいぜい0.02%しかありません。
これでは家計の貯蓄がインフレ分どんどん目減りしていってしまいます。そう言った意味でも、日銀は金利を上昇させる必要があります。
また、現状景気は停滞気味ながらなんとか維持できていますが、今の状態では景気後退に入ったときに景気を刺激するための利下げの「のりしろ」もありません。
ですから、日銀は利上げにより金融を「正常化」する必要があるのです。
米国では、先ほども述べたように3%程度のインフレ率ですが、現状の政策金利(1日だけ銀行間で貸し借りする金利)は5.25%~5.5%に誘導されており、現状の金利はかなり高い状態にあります。
FRBはインフレ再燃を横にらみしながらも、経済の持続的成長を考えれば今後政策金利を下げていくことが望まれています。
そうしたことを考えれば、7月末のFOMCでの利下げの可能性もありますが、市場関係者の間では9月のFOMCではかなり高い確率で0.25%程度の利下げが行われると予想されています。
先ほどから述べているように、日本の今の金利水準はインフレ率から考えると極めて低く、金融を正常化する意味からも利上げの必要があります。
しかし、これまで長期にわたり金利が非常に低い状態に慣れてしまっている日本経済や企業にとって急激な利上げは、大きな悪影響を与えることも当然懸念されます。
そう言ったことを考えると、7月の日銀の政策決定会合で0.1%程度の利上げ、年末までにもう一度0.1%の利上げをするのが良いのではないかと私は考えています。
【小宮 一慶】