『経営とは何か、と聞かれたら、迷わず「生き方(away of life)」だと答えるだろう。』
こちらは、野中郁次郎先生が著書『二項動態経営』の冒頭で述べていることです。
二項動態経営とは、野中先生が最後まで探求し続けていた組織的知識創造理論の新たなコンセプトです。『経営活動において直面するさまざまな矛盾やジレンマを「あれかこれか」の二項対立(dichotomy)で切り抜けるのではなく、苦しくても「あれもこれも」の二項動態(dynamic duality)を実践し、新たな価値を創造することこそが、過去の自己を超えていくただ一つの道なのである。』と書かれています。
つまり、野中先生の考える善い「生き方」とは、矛盾やジレンマに向きあうことだと捉えることができます。目の前に起きている変化を今までの固定観念で片付けてしまってはイノベーションは起きません。それどころか停滞して滅びてしまう。先生の代表作である「失敗の本質」は、過去の成功体験に過剰適応してしまいがちな組織の性質を指摘しています。「あれかこれか」と切り分けるのは、過去の「あれ」と「これ」の選択でしかありません。「あれもこれも」と矛盾に向き合うことで違う道を学び、未来に向かうことができるとおっしゃっているのです。
「本来、未来をつくり資本を生む主体こそが人間である」というのが先生のお考えです。でも、いつもと違うことが出てきたら「厄介だ」と構えてしまうのも私たちの本能だと思います。例えば、部下がいつもと違うやり方を提案してくると当たり前のように聞いてしまう。「そのメリットはなんだ」「結果は出るのか」と。それが結果として過剰な分析をさせることにつながり、機会を捉えようとするマインドがそがれていく。野中先生は、それをオーバーアナリシスの弊害だともおっしゃっています。
苦しくても、矛盾やジレンマに向きあうという意志を持てるのも人間の強みです。二項対立的に「あれかこれか」を選ぶ賢さであれば機械の方が優れてているでしょう。苦しくても「あれもこれも」と悩み、過去の自己を超えていく。経営者はそのことを忘れてはならない。なぜなら未来をつくる生き方こそが、善い経営の実践だからです。