―『箴言』29章18節より
今週の「言葉」は、今日もなお多くのリーダーに善き影響を与え続ける“サーバントリーダーシップ”の生みの親、ロバート・グリーンリーフによる小論集『サーバントであれ ― 奉仕して導く、リーダーの生き方』(英治出版)で度々引用される『箴言』にある聖句です。
本物のリーダーシップとは
グリーンリーフの考えるリーダーシップについては次の言葉がその根本にして全体を捉えていると言えます。
「本物のリーダーシップとは、他の人々の役に立ちたいという心からの願いが最大の動機になっている人から生まれるものなのである。」(出典:『サーバントであれ』)
因みに英語の接尾語である「~ship」(リーダーシップ、メンバーシップなど)には「態度」「性質」「心のあり方」などの意味があります。つまり、リーダーシップとはリーダーのあり方です。
昨今、日本でもこのサーバントリーダーシップはリーダー育成の場面でもてはやされている感がありますが、ややその本質から遠ざかっている「ゆるい組織」の温床のように扱われているのを目にします。人として寛容であることは重要ですが、それだけでは単なる「サーバント=奉仕者」です。サーバントリーダーは「奉仕者」であるとともに「リーダー」なのです。この二つが対立することなく、現実をより善良にしようとするリーダーとしての2つの側面を一体として捉えるところにその本質があります。
「サーバントリーダーシップでは、ほかの人にもっと奉仕すること、仕事に対し全体的(ホリスティック)なアプローチをすること、共同体意識を高めること、職場での心のあり方について理解を深めることを重視するのである。」(出典:『サーバントであれ』)
このことは、“3度ソニーを救ったリーダー”として著名な平井一夫さんが一貫して提言する「リーダーはIQよりもEQ(こころの知能指数)が重要だ」との言にも似ています。同氏はパーパス・ミッション・ビジョンの前に、先ずリーダー自身が「正しい人間であること」をリーダーシップの優先度として最重要と位置付けておられました。
「知識は道具に過ぎない。最も重要なのは志だ。」(グリーンリーフ)
多くの企業が経営者の発信のもとビジョン(具体的な未来像)を策定し示すようになってきました。先行き不透明な時代を強調されるあまりの衝動にも似ていますが、そのビジョンに決定的に欠けてはならないことが2つあります。それは「高い志」と「真摯さ」です。この2つが欠けていては、「ビジョン」は単なる数字的な表現に終始して人々を冷めさせるものにしかなっていないことを多くのリーダーは気づくべきです。グリーンリーフは次のように語ります。長い引用(前掲書)ですが重要なことですのでママ核心部分を引用します。
「(リーダーの)説得力が効果を発揮するのに不可欠な条件は、組織が大きな夢を実現しようとしていることである。……考え(夢)が前面に出て、人(リーダー)がその考えのサーバントとして見なされているときのほうが、組織はうまく機能する。この組織を素晴らしいものへ変えていくのは「私」(頂点に立つリーダー)ではなく、夢(ビジョン)である。「私」は夢より下位にある。「私」は、その取り組みにかかわるほかのすべての人と同様、考えのサーバントなのだ。」
「共同での取り組みにおいて人々を団結させるのは、考えであって、リーダーのカリスマ性ではない……しかし今日においては、適切な夢を持っていない組織があまりに多い」
高い志を以って、多くの若者をサーバントにしてそのリーダーシップを発揮させた人物として真っ先に想起されるのは、やはり吉田松陰先生ではないでしょうか。
最後にその松陰先生の“サーバントぶり”をありのまま示している言葉を引用して稿を閉じます。
「余寧ろ人を信じるに失するとも、誓って人を疑うに失することなからんことを欲す。 」(吉田松陰 『講孟余話』 安政二年)
▼現代語訳
「私は、人を信じたことによって失敗したとしても、決して、人を疑って失敗するようなことがないようにしたい。」