こんにちは、お金が入るでかねいりです。
新型コロナウイルスによる企業の倒産というニュースがホテル業や旅館業、飲食業などを中心に少しずつ増えてきました。その中には、残念ながら過去、私が採用支援という形でかかわっていた企業がありました。そのニュースを聞いたとき、何とも言えない、心にくぎを打たれたような気持ちになりました。
そして、自分自身のある記憶が目の前に浮かんできました。それは、私が以前所属していた会社の倒産に至るまでの記憶でした。
そこで今回は、
■どうなって倒産したのか?
■会社の業績が悪化していく社内の様子は?
■その中で、変わった事・変わらなかった事
についてお伝えするとともに、倒産する会社から見えてきた「良い会社のつくり方」についてお伝えします。
■どうなって倒産したのか?
20代半ばで中途入社したその企業は、入社当初、売上15億円、社員数60名。社長は40代前半で、新卒入社の20代~30代前半の社員が9割を占めるいわゆるベンチャー企業でした。
その企業は、中堅・中小企業向けに新卒採用を支援するサービスを展開していました。当時は、リクルートが全盛の時代で、中堅・中小企業の多くは、中途採用がメインで、新卒採用を行っている企業は少ない状態でした。
新卒採用をやったことがない中堅・中小企業をターゲットにして、「学生を集める」、「良い人材を採用する」、「組織の一体感を高める」という切り口と独自の手法で啓蒙し、新たな市場を開拓する事に成功。景気の波にも乗り、売上は46億円、社員数は200名と、成長を遂げました。流れが変わったのは、2008年に起こったリーマンショックでした。多くの取引先企業が採用を控え、売上が急減。
その数年前から、採用の一本足打法の状況を打破すべく、社員教育事業やマーケティング事業を展開していたこともあり、ギリギリの状態で事業を継続できていましたが、2011年の東日本大震災が追い打ちとなり、2011年3月に会社は倒産となりました。
■会社の業績が悪化していく社内の様子は?
リーマンショックが起こり、売上が急減。そこで会社が行ったのが「ワークシェアリング」という取り組みでした。一言で説明すると「一つの仕事を社員同士で分かち合う」ということなのですが、具体的には、1週間の中でそれぞれの社員が、「出勤する日」と「出勤しない日」をつくり、出勤日数を減らしても業務が回るように取り組む施策。ポイントは、出勤しない日は休業扱いとなり、通常の給料は出ない(約6割しか出ない)という点です。要は、コストを抑えるための施策です。
この発表は、管理部門の役員から発表されたのですが、当初は社員にまだそこまでの危機感がなく、むしろこの状況を楽しむくらいの気持ちで話を聞いていました。実際にこの施策をスタートさせたのですが、顕著な問題が起こります。
それは、営業活動を行う社員の出勤日数が減るため、営業にかけられる時間が減ってしまい、売上がさらに伸びなくなるという事でした。そうした中、会社がさらにおこなった事は、「出社する社員」と「出社しない社員」を明確に分けるという施策でした。もう少し詳しく言えば、「営業に関わりのある社員は残し、営業にかかわりが薄い社員は残さない」という施策です。事務をする女性や管理部門の社員、中途で入社して間もない社員、新人・若手社員の一部がその対象となりました。
この施策の発表は、社内に大きな波紋を呼びました。出社しない社員は休業扱いとなるため、通常の給与の6割しか出ません。一人暮らしをしている社員も多く、この状況が続けば生活していく事が難しくなることは容易に想像でき、多くの社員がこう感じました。「これは事実上のリストラではないか?」と。そうしたことから「出社しない=必要とされていない」というように受け止める社員もいました。
また「給与は6割しか出ないけど、会社に残ってほしい」という話に対して、会社の都合の良いように扱われていると感じる社員もいました。この発表は管理部門の役員から行われたのですが、「このような重要な発表をなぜ社長がしないのか」、「社長は自分たちの事を考えていないのではないか」という不信感を生む結果にもなりました。
そういった意味で、社員の中で「いつこの状況を抜け出す事ができるのか」という不安が一機に高まりました。私は残る側だったのですが、休業扱いになった社員のために何としてでもこの状況を抜け出すために全力を尽くさなければという想いを強く持ちました。しかしながら、業績は思ったようには伸びませんでした。そういった状況から、ワークシェア第2弾・第3弾の発表があり、追加で休業扱いになる社員が発表され、その対象がさらに増えていきました。
■その中で、変わった事・変わらなかった事
この「ワークシェアリング」の施策で、社内の雰囲気は一変しました。不安、疑念、不信が錯綜する状態。そこで起こった事象が、退職者の増加。まずは、生活を続けていく事が難しいと判断した一人暮らしの社員が辞めていきました。また、この施策の方針に納得ができない仕事ができる優秀な社員が辞めていきました。
そして、この会社はまずいと感じた若手社員・新入社員が辞めていきました。さらには、入社当初から起業を考えていた社員も多くいたため、これを機にということで優秀な社員が独立していきました。一方で、起こらなかった変化もありました。それは、「古株の社員ほど、必死に動かない」という事でした。
古株の社員は、マネージャーなどの役職者でしたが、この状況下においても危機感が薄く、これまでやってきた事を変えようとしない、変える事を恐れる、中にはこの後に及んで社内政治にかまけたり、平日にゴルフにいくような社員もいました。私の記憶の中では、古株の社員の中で必死になって何とかしようとして動いてくれていた社員は一人だけでした。悲しい事実です。
こういった状況の中でも辞めずに今まで以上に必死に働く社員もいました。その多くは、若手~中堅の社員でした。そういった社員と私も一緒になって何とかしようと働いていました。そうした中で、「なぜ、辞めずにそこまでがんばるのか?」という話を聞いたことがありました。するとそれらの社員は一様に、「こんなに良いお客さまはいない。このお客さまを裏切るわけにはいかない。お客さまのためにもこの会社で続けたい。」「同じ方向を向いて、必死になって切磋琢磨できる社員がいるから辞めないで続けているんです。」
と話してくれました。質問した私自身も同じ想いを持っていただけに、本当に印象深い言葉でした。しかし、そのメンバーのがんばりもむなしく、会社は倒産となりました。
■危機的な状況になった時に会社の真価が問われる
後から知ったことではありますが、私が在籍していた会社が倒産した一番大きな理由は、財務面でした。借金をし過ぎてその返済ができなくなり、倒産したのです。財務規律をつくり、それを正しく守っていれば、私はつぶれる事はなかったと考えています。そう強く言えるのは、「必死で働いていた社員・仲間の存在」があったからです。会社経営をおこなっていると、良い状況がずっと続くことはありません。今回の新型コロナウイルスのように想定外の事が起こり、会社の業績が著しく落ち込み、危機を迎える事が起こるものです。
そして、会社が危機的な状況になった時にこそ、会社の真価は問われます。その時に、「必死になってがんばってくれる社員が多いのか?」、それとも「逃げ出してしまう、辞めてしまう社員ばかりなのか?」それによって会社の命運は大きく変わります。倒産劇の経験を通して、その一つの答えを私は見出したと考えています。社員が必死に働きたいと思える会社にするためには、「良いお客さま」と「良い社員」を作り出しているかどうかがカギになるという事です。
このことから「優秀な人材に会社に残ってもらい、活躍し続けてもらうために必要なものは何か?」という問いに対する答えも見えてきます。優秀な人材に残ってもらうために「給与を上げる」、「福利厚生を充実させる」、「役職につける」、「表彰する」などが考えられますが、そこには限界があります。他の会社がさらに上の条件を出してくるかもしれません。では「自社にしか出せない条件とは何か?」それが「良いお客さま」がいることであり、「良い社員」がいることなのです。
皆さんの会社は、
良いお客さまをつくり出す工夫や努力をしていますか?
良い社員をつくり出す工夫や努力をしていますか?