(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2021」掲載記事)
■リアルとオンラインの違い
この1年で、実に多くのことがオンラインに置き換わりました。
朝礼も会議もオンラインになりました。ウェビナー(ウェブ+セミナーの造語)を受講し、自身が講師としてウェビナーを開催もしました。企業研修のご依頼で、オンラインでビジネスマナー研修や新入社員研修も実施しました。リモートワークになり直接顔を合わせなくなったチームのメンバーとは、チャットで業務上の連絡を取り合い、オンラインで面談し勉強会やチーム研修を実施し、飲み会もオンラインで行いました。ご依頼いただいた講演も、著者としてご依頼いただいた対談イベントもオンラインで配信されました。ペン字のレッスンもトレーニングも、友人との雑談も、実家への帰省も家族との新年会も、ついには冠婚葬祭まで。1年前には想像もつかない変化でした。
オンラインの便利さや可能性を実感するとともに、リアルとは異なるオンラインでのコミュニケーションの取り方に違和感を覚え、その対応方法を模索し続けた1年でもありました。振り返ってみるとリアルにおけるコミュニケーションとは、人と人が向き合い、五感を駆使しながら相手や周囲の情報をキャッチし、相手と呼吸を合わせて行なう行為です。場に集う人々の表情や姿勢、動作や態度、場の雰囲気など膨大な情報を五感でキャッチし、それに合わせてこちらが投げるボールやその投げ方を変えることを、当たり前に行っていました。オンラインという五感を著しく制限された環境下で、私たちはどのようにコミュニケーションを取ればよいのだろうか。このテーマについて、自分なりに考え、試し、様々な方と意見交換する機会を持ってきました。
違和感や課題感を強く持つ人がいる一方で、オンライン環境がリアルと大きく異なることを、そもそも認識していない人も大勢いるようです。環境が異なるのですから、その対応方法も変えてしかるべきなのです。オンラインに対応できている人、いない人という、コミュニケーションの二極化も顕著です。
そもそも私が、オンラインでのコミュニケーションに感じた違和感とは何かを改めて整理すると、次のような点が挙げられます。
<リアルとオンラインの違い>
1.視線が合わない、合いにくい
2.周囲の様子、場の空気が分からない
3.スピーカーが話している途中で、隣の人とこっそり話すなど、同時多方向コミュニケーションが取れない
4.個々に異なる、多様な環境にいる
5.画面に映る情報すべてが本人の印象形成に関与する
6.全員が等間隔に順不同で並ぶ
7.カメラ、モニター、マイクの性能差と通信回線の影響が大きい
1.視線が合わない、合いにくい
私たちは聞き手の表情を見て話しますから、オンラインでは画面に映る聞き手を見て話しをすることになります。ノートPC内蔵のカメラのレンズ位置は、通常は画面の一番上にあります。画面を見ながら話すと、聞き手から見た時には話し手の視線は下向き、つまりうつむきがちになり、目の表情が見えません。視線が合わないという違和感を覚えることになるのです。
話し手がレンズを見て話せば、視線が合っているような感覚を作り出すことはできます。それでも、実際にアイコンタクトが取れているわけではありません。人はアイコンタクトによって互いが繋がります。視線が合わないということは、相手と繋がった状態を感じられないまま、音声としての言葉だけが送り込まれてくるようなものですから、伝えたつもりが伝わらないのです。
人は目線が合った時にうなづきます。あるテレビ番組の調査では、15分間の会話中リアルでは548回うなづきが見られたものが、ビデオ通話では153回、1/3以下に減っていました。聞き手にうなづきを起こすことは、場を引き込み、話しを浸透させていく効果があります。また話し手は、聞き手の視線やうなづきを見ながら、聞き手の理解度を探りつつ話しをしているものです。その様子が掴みにくいということは、話しにくさにも繋がります。メッセージを伝える上で、視線が合わない・合いにくいというのは、大きなデメリットを抱えていることになります。
2.周囲の様子、場の空気が分からない
その場所に足を踏み入れるとき。ドアを開けた瞬間に感じるピリッとした緊張感。直前に激しい会話でもあったのかと感じる微妙な空気や、逆になごやかな談笑だったことが伝わる雰囲気。その場にいる人たちの表情や視線、姿勢、資料や飲み物の置き方、お茶の減り具合、部屋の温度や空気の流れ。なぜか私たちは、目に見えないはずのその場の空気を感じ取る力を持っています。それに合わせて、自分の表情を変えたり、発言の内容やニュアンスや順番を変えたり、飲み物の内容を変えたりすることを、私たち秘書は仕事のなかで無意識に行なっています。
場の空気が分からないことは、それに合わせた対応ができないということです。一方で、場の空気に左右されないというメリットも生みます。いずれにしても、コミュニケーションに変化を及ぼす大きな要素です。
3.スピーカーが話している途中で、隣の人とこっそり話すなど、同時多方向コミュニケーションが取れない
例えば研修会などで、講師が話している内容が分からない時、こっそり隣の席の人に聞いて話しを確認するようなことがあります。隣の人が開いているページをのぞき見て、今ここを話しているのだと理解する場面は皆さんも思い当たるでしょう。会議では、発言者が話している最中に近くの席の人と、アイコンタクトでその賛否を確認し合ったりもします。
1対1であれば、相互のやり取りしか発生しませんが、その場に3人以上いれば、話し手と聞き手だけでなく、聞き手と聞き手の間にも、同時多方向でのやり取りが発生します。
オンライン中に個別にチャット機能を使うなどは可能ですが、直接会話をしたり目配せする等の、多方向のやり取りはできません。
4.個々に異なる、多様な環境にいる
オンラインでセミナーに参加すると、様々な場所から接続している人がいます。職場や自宅、出張先のホテル、カフェやファミリーレストラン、新幹線や駐車場に停めた車の中、運転中やウォーキング中に「耳だけ参加」という方もいました
職場のなかでも、会議室など周囲に人がいない場所から接続する方もいれば、自席からという場合もあります。自宅でも、個室の場合もあれば、家族やお子さんが近くにいる環境で接続する場合もあるでしょう。個々の事情により環境は様々です。海外から参加する方もいて、そうなると時間さえも異なりますので、「おはようございます」の挨拶ではない場合もあります。リアルで、同じ場所に人が集まっていた時には、あり得なかったことです。
オンラインでは、環境への配慮は重要です。情報管理に注意が必要な内容であれば、周囲に人がいない環境で接続するよう、あらかじめ参加者に周知しておく必要があります。発言が求められる場合も、周囲に迷惑がかからず、自由に発言できる環境から接続してもらうなど、目的に応じた場を整えるためには配慮が必要です。
5.画面に映る情報すべてが本人の印象形成に関与する
リモートワークだから生活感がそのまま画面に映ってしまうのは仕方ない、と思っていませんか。私たちはリアルで人と会うときは、自分が相手にどんな印象を与えるかを考え、その場にふさわしい身だしなみを整えています。それはリモートワークに変わったとしても同様です。
むしろオンラインは、画面に映るごく限られた情報だけで印象が決まってしまいます。上半身の身だしなみや、背景に映るものの印象は、自身がビジネスで相手に与えたい印象に合っているでしょうか。生活感溢れた部屋の様子、背景にチラッと映る趣味のアイテムは、信頼を損なうものではありませんか。一方でリゾート感満載のバーチャル背景は、友人とのオンライン飲み会なら問題ありませんが、重要案件を扱う会議には不適切です。バーチャル背景と本人が同化して、ところどころ画像が欠けたり透けて見えるのも、どこかバラエティー番組のような軽さがあり、品位を損なうケースも見受けられます。
背中に窓を背負った逆光の画面では表情が見えず、暗い印象に見えたり、相手への配慮を欠く人と見られます。「どう見られるか」を常に意識することは、ビジネスにおける基本ですが、オンラインになった途端にその意識が完全になくなり、知らないうちにビジネスにおける信頼を損なっているのです。
一方で内容や相手によっては、突如画面に乱入した小さい子どもや家族とのやり取り、ペットの存在が、その人を身近に感じたり、親しみを持ったりすることもあります。自宅で仕事をする以上、完全にプライベートを切り離すことはできません。だからこそ、そのさじ加減やバランス感、配慮のレベルも含めて、その人の印象に関与してしまうのです。
6.全員が等間隔に順不同で並ぶ
リアルでのコミュニケーションでは常に、空間や物理距離の影響を受けています。相手に応じて最適な距離を保ち、パーソナルスペースにも配慮が必要です。親しい人、話しやすそうな人の近くに座ったり、親しくなりたい人に物理的に近づいたり、苦手な人の正面を避けたり、もっとも遠い距離に座ったり。意識・無意識に関わらず私たちは“距離”をコミュニケーションに活用しています。
オンラインでは、画面上にどんな人も同じサイズで並びます。オンラインツールによっては、画面の表示位置を固定する機能もありますが、わざわざ設定しなければ表示順による序列もありません。リアルのセミナーでは、最前列の人と最後列に座る人とでは、声の伝わり方や見え方が異なるため、配慮が必要ですが、オンラインではその違いもありません。メリット、デメリットを踏まえた使い方が求められています。
7.カメラ、モニター、マイクの性能差と通信回線の影響が大きい
見え方はカメラの性能が大きく影響しますし、マイクやスピーカー、イヤフォンによって声の聞こえ方、音質が変わります。通信環境が不安定だと、発言内容が一部聞き取れないとか、画面が止まってしまうなどスムーズなやり取りができず、進行に支障をきたす場合もあります。
これらリアルとオンラインの違いを明確に認識した上で、リアルで補えた要素がない状態で、いかにコミュニケーションを取っていくのかが、オンラインとの向き合い方です。
■メラビアンの法則
ビジネスマナー研修などでよく紹介される「メラビアンの法則」を、ご存じの方も多いかと思います。言葉と表情や態度動作が矛盾している状況において、話し手が聞き手に与える影響はどのような要素で形成されるのかを調べた、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンの実験結果です。
視覚情報(Visual) 55%
聴覚情報(Vocal) 38%
言語情報(Verbal) 7%
言葉で「有り難う」と言っていても、その表情は暗く、違う方向を向きながら、低い声のトーンで、ぞんざいな口調で言った場合、「感謝していないのだな」「全く嬉しいと感じていないのだな」と相手は受け取るでしょう。
バーバル(言語)が重要でないという意味ではなく、言語情報を正しく伝えるためにも、視覚や聴覚などのノンバーバル(非言語)が重要であることを、メラビアンの法則は教えてくれています。お客様に「有り難うございます」と言いながら、ノンバーバルがバーバルに伴っていなければ、その気持ちは伝わりません。マナー研修で表情や姿勢、動作、言葉遣いを学ぶのは、人への感謝、あなたを大切に思ってますという気持ちを相手に伝えるためでもあります。
オンラインでは、ごく限られた情報でコミュニケーションを取っています。だからこそ、ノンバーバル(非言語)とバーバル(言語)それぞれに、リアル以上の配慮が求められることを改めて認識する必要があります。
■ノンバーバル(非言語)コミュニケーションにおいて配慮すること
1.身体動作
表情、姿勢、アイコンタクト、身振り手振りなどに関することです。
リアルでは、人と離れれば相手が小さく見え、近づけば大きく見えますよね。オンラインにおいては、画面に映る大きさが相手との距離感です。自分を大きく映していると、至近距離にいられるような圧迫感を感じます。リアルであれば、自然に遠ざかろうという意識が働く距離感です。逆に小さすぎると、表情や反応が読み取れず、より集中力を使う必要があります。
・画面には、バスト・ショットと言われる、胸の辺りまでが映るサイズに見えるよう位置を設定する。頭上は適度に空ける。
・基本は口角を上げ笑顔で。表情豊かに。リアルの3倍を目標に。
・カメラの正面に向き、姿勢を正す。
・モニターに映る自分を見るのではなく、話す時はレンズを見る。レンズの近くに自分が笑顔になれるような写真を貼るなどすると効果的。
・モニターを見下ろす角度は、相手を上から見下ろす視線になり、表情の写りもよくない。カメラ位置を上げたり、ノートPC内蔵カメラの場合は、台を使ってPCを上げる。
・相手のウインドウを、レンズの近くに移動する。
・発言を聞く時は、うなづきをしっかりと。
・ジェスチャーを使う。発言時には挙手、拍手や○×などのハンドサインを使って反応を示す。ただし、画面サイズに合わせたジェスチャーで。
・動作はゆっくり。小刻みに何度も頷くのではなく、大きくゆっくり一度頷くイメージ。
2.接触行動
リアルでは、相手との親近感や親密さの表現として、握手をしたり肩を叩いたりハグをしたりする接触行動を取っていました。オンラインでは当然、他者へのスキンシップはできません。ソーシャルディスタンスを保つ今の社会では、リアルであっても接触行動を控えることになります。
名刺交換も一種の接触行動と言えます。自分の名刺をPDFにして、チャットやメールで相手に送ったり、オンライン名刺交換サービスを利用する方法もあります。
自分に触れる行為も、接触行動に含まれます。オンラインにおいては、自分の顔や頭髪に触れる動作は目立ちます。情報がバスト・ショットに制限されている分、リアル以上にノイズになり、注意を削ぐ場合もあります。
3.周辺言語
イントネーション、話すスピード、声の大きさや高さなど、言語以外の話す要素がここにあたります。
オンラインの場合は、接続したらまず、お互いの声が聞こえているかを確認します。スピーカーやイヤホンによっては、音がこもって聞き取りにくい場合もあります。いつもより声を張り、ひと言ひと言を明瞭に発声することを心がけます。オンラインでは通常座っていることが多いかと思いますが、立っているより座っている方が声が出にくいものです。背筋を伸ばし、正面を見ると、声が出やすくなります。
同じ部屋に複数人いる場合は、マスクをしているので、余計に声が聞きとりにくくなります。口を大きめに動かす、簡潔に話す、適度に間を入れる等、話し方にも工夫が必要です。ハウリングを防ぐため、イヤホンマイクを使用します。
多人数の場合は、マイクは基本的にミュートにします。発言時にミュート解除に手間取ったり、ミュート解除を忘れたままで話すことがあります。Zoomでは、スペースキーを長押しして一時的にミュートを解除する方法もあります。外付けマイクには、ミュート解除ボタンがついているものもあります。
4.身だしなみ
リモートワークでは、自宅からオンラインでお客様と打ち合わせや商談をする場合もあります。仕事とプライベートの区別をつけにくい状況ですが、基本的にはリアル同様に、ビジネスでの身だしなみが求められます。とはいえ、上半身しか映らないこともあり、以前に較べ、カジュアル度は格段に増しています。
襟付きのシャツやジャケットなど、形状はビジネスコードを守りつつ、伸縮性のある素材でリラックスできるものが増えているようです。色や素材感等の見え方は、カメラの性能にも依存し、リアルとは大きく異なります。事前に自分の映り方を確認しておきます。
5.環境
オンラインでは、どんな環境で接続するかが、コミュニケーションの成否に大きく影響します。まず配慮したいのが、明るさです。
テレビ番組の収録では、たくさんの強いライトが当たっているのをご存じでしょうか。私たちが日常生活を送るための部屋の明るさは、オンラインに必要とされるよりかなり暗いものです。そのためオンラインでは、照明をいくつか使ったり、窓からの採光を利用したりして、画面の明るさを保つ必要があります。自分を見せられない人が、相手に好感を持たれ、信頼されるはずはありません。
また、前述したように、画面に映るものは、そのまま印象に直結します。相手よりも、その背景に映るものが気になって、内容に集中できなかったという話は、オンラインではよく聞かれます。できるだけ、ノイズになるものは画面から消し、イメージや内容に合った印象を高める環境を整えておきます、
バーチャル背景の利用については、企業ロゴや商品、イメージを効果的に伝える背景画像を作り積極的に活用する方法もあります。一方でただ何となく使っているバーチャル背景は、都合の悪いものを隠している=信用できないイメージを抱かせます。合成映像の不自然さもあり、信頼感を損なうケースが多いようです。
周囲の音についても、配慮が必要です。ノートPC内蔵のマイクは発言の声だけでなく、周囲の小さな音も拾って増幅し、自動的に一定音量になるように調整されています。そのため、カフェに流れるBGMなど、リアルではそれほど気にならない音が、オンラインでは大音量で相手に聞こえてしまいます。キーボードの打鍵音を拾っている場合もあります。
一方で、リアルの場合は、コミュニケーションに大きな影響を与える要素が、オンラインでは気にならないこともあります。
一つは、身長や体格による印象です。
背の高い人、背の低い人、といった身体特徴で人を覚えていることは多いものです。リアルの場面では非常に強い印象を相手に与えますが、バスト・ショットしか映らないオンラインでは、この影響はほぼありません。体格の良さで威圧感を与えてしまうとか、小柄なことで軽んじられる、といった心配は、リアルで会わなければ起きないわけです。
もう一つは、物理的距離への配慮です。
オンラインでは、全員が等しく画面に並ぶこととなります。発言者に近い場所だけが盛り上がるとか、後列には会話が届いていないといったことは起きません。フラットに並ぶことで、コミュニケーションが円滑に進み効率的になるというメリットもあります。
以上、ノンバーバル(非言語)におけるオンラインコミュニケーションのポイント、注意点について述べてきました。この多くは、準備さえしておけばクリアできることです。リハーサルをし、自分が画面に映った状態で画面キャプチャを撮ったり、オンラインで話している様子を録画して見ることで、改良できる余地が多々あります。
だからこそ、画面を通した印象が悪い人は、準備をしていない人、相手への配慮ができない人という印象に直結します。オンラインだからリアルほど気を遣わなくてよいのではなく、むしろオンラインだからこそ、リアル以上に気を遣う必要があるのです。
■バーバル(言語)コミュニケーションにおいて配慮すること
1.話し方
上手い話し手は、聞き手の表情や反応を見ながら、「伝わっていないな」「理解できていないな」と思ったら、その場で説明を補足したり、言い換えをしたりして、臨機応変に話を工夫していくものです。ところがオンラインではこの「聞き手の表情や反応を見ながら」「臨機応変に」ができません。
また発言時以外は、マイクミュートがデフォルトのオンラインでは、適時質問や聞き返しがしにくい状況になります。聞き手は隣の人にこっそり聞いたり、周囲を見て理解を補うこともできません。そうなると話し手は、聞き手の表情や反応を見て、臨機応変に対応する必要がないように、最初から「分かりやすく伝える」ことが大切なのです。
話す時は普段より少しだけゆっくり、分かりやすく、具体的に話す心がけが必要です。わかりやすく話すためには、一文を短くすること。「、」を少なくし、「。」でしっかり区切ることで一文を短くすることで、話しが格段に分かりやすくなります。
これは電話応対時にも気をつけることですが、同音異義語は耳で聞いただけでは、意味が理解できないことがあります。「創造」なのか「想像」なのか、漢字を見ればわかるのですが、聞いているだけでは分かりません。「新しいものを作り出してください」「思い描いてみましょう」と、熟語ではなく、ひらがなを交えた説明にすることで、意味が伝わる表現になります。「クリエイトすることです」「イメージしてください」などと言い換えや補足をすることでも、理解しやすい説明になります。
大事なところは繰り返す。復唱する。「あれ」「それ」などの指示代名詞を多用しないことも、伝わる話し方のポイントです。
2.会議におけるファシリテーション
リアル会議に比べてオンライン会議は、議事の進行が見えにくく、議論がしにくい点があります。以下に、ファシリテーションにおけるポイントを挙げておきます。
・役割分担を明確にする(進行、記録、画面共有、ブレイクアウトセッション等)
・予め議題を決め、事前に案内する。
・参加者は事前に資料に目を通してから参加する。
・適時、ファイル送信あるいは画面共有する。
・議事録を作る。
・参加者に発言を求める時は、相手の名前を呼んで指名する。
・必要があれば、ブレイクアウトセッション(小グループに分けてのディスカッション)を入れて、意見をまとめる時間を設ける。
・休憩時間をこまめに入れる。
3.コミュニケーション手段の使い分け
ここまでオンラインコミュニケーションにおいて、これまでリアルで補っていた要素がない状態で、それを補うための配慮について述べてきました。重要なことは、リアルとオンラインとの違いを認識し、オンラインという新しいコミュニケーション手段に適応していくことです。その時に、相手に伝わっているか、相手にはどう見えているか、という相手からの視点から自分を振り返る術を持っていない人は、リアル以上に意思疎通ができないという問題に直面するだろうと思われます。
メールで済むこと、チャットで済むこと、電話で済むことに、わざわざオンライン会議ツールを使う必要もありません。目的によって、最も効果的なツールを選んだり、組み合わせて利用することも重要です。
メールやチャットでは、読んで意味が正確に伝わる表現が求められます。文章では正確に伝えにくいことは、電話で話した方が伝わりやすいでしょう。顔を見て話す必要があれば、オンラインを活用することができます。ツールの適切な使い分けができずに、余計な手間や時間がかかったり、コミュニケーションエラーによるミスやトラブルを招いているケースもあります。また、オンライン会議ツールだからと言って、必ずしも参加者がカメラオンにする必要はありません。目的や内容によっては、カメラをオフにして、視覚情報を切った方がコミュニケーションが取りやすい場合もあります。
■相手の意図を想像し、先回りするコミュニケーション
オンラインでは、画面だけの限られた情報でコミュニケーションを取らなければなりません。リアルでは五感を駆使して情報を補うことができましたが、それらがない状況でコミュニケーションをはかるためにはどうしたらよいかを、本稿でお伝えしてきました。
相手には、どう見えるか。
相手は、どう感じるか。
相手は、どう受け取るか。
相手は、どう理解するか。
そして相手は、どう動くか。
これを想像し、先手先手で考えながらコミュニケーションを取ること。これは私自身がこれまで秘書の仕事の中で心がけ、「秘書力」として著書に記した仕事術でもあります。リアルであれオンラインであれ、社会が変化し手段が多様になっても変わらない、コミュニケーションの本質です。