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日銀の異常な政策と自然の摂理

小宮一慶のモノの見方・考え方
2021.03.02

3月19日に日銀の政策決定会合が行われ、新聞紙上ではその政策変更が大きく取り上げられていますが、実際にはそれほど関心を持っている読者はいないのではないかと危惧しています。日銀は危ない橋を渡っているというか、渡り続けているということを認識している方は少ないのではないでしょうか。
具体的に何が危ないのかを、3月19日の政策決定会合で決められたことを例に出し説明します。(今回のメルマガは少し長文ですがご容赦ください。)
ひとつは、長期金利(10年国債利回り)の誘導の問題です。今回の政策決定会合で、現状、-0.2%~+0.2%の間で誘導しているものを、今後は-0.25%~+0.25%というふうに誘導幅を拡大するというものです。
しかし、これももともとおかしな政策です。各国の中央銀行は短期の金利を「政策金利」として誘導を行っています。日本や米国などでは1日だけ銀行間で貸し借りする市場(コール翌日物、フェッドファンド金利オーバーナイト)に介入し、それを決められた金利に誘導するということを行っています。しかし、長期金利を誘導している中央銀行は日本以外にはありません。長期金利は自然の動きに任せるというのが通常です。ですから、最近米国の長期金利が1.5%を超え、これがきっかけで株価や金融市場が大きく動くということがありましたが、これが普通です。それを日本では、短期金利のみならず、長期金利も「誘導する」という名のもとに「抑え込んで」いるのです。どこかで無理が生じます。
もちろん、景気刺激のためにはその方策もなくはないでしょうが、抑え込みがいつまで続けられるか分かりません。それができなくなったときは大変です。
また、長期金利の抑え込みにより、銀行の収益は大きく悪化し、一方、借金の多い政府や企業には良いでしょうが、預金を多く保有する者、とくに家計は大きなダメージを受けています。家計には約1000兆円の預金がありますが、それが1%でも金利がつけば10兆円所得が増える計算になります。一方、その家計が損をしている10兆円は債務残高が膨らむ政府には「見えない税金」として徴収されているとも言えるのです。
もうひとつの今回の日銀政策決定会合の大きなポイントは、現在ETF(上場投資信託)を通じて年間6兆円程度を購入している株式の購入の目安をなくすというものです。12兆円という上限は維持したものの、必ず買うということをなくそうというものです。現在の株式時価総額の7%(約50兆円)を日銀が保有するという異常な事態を早く解消したいということでしょうが、日銀が買うことで、市場がいびつになっていたことは間違いありません。事実、今後日銀は日経平均採用銘柄のETFは買わずに市場全体の動きをとらえるTOPIXを対象とするETFを購入すると発表しましたが、その発表をした日の日経平均株価は424円(1.41%)下落する一方、TOPIXは3.7ポイント(0.18%)上昇するという、これまでの市場の異常さを象徴するような市場の動きでした。そもそも、中央銀行が価格変動リスクの大きな株式やREIT(不動産投資信託)を購入していること自体が世界の中央銀行の中では異常なのです。日銀が市場を必要以上に支え、それにより価格変動リスクを日銀が負うことは避けなければならないことです。
私はマクロ経済の予測を行うときも経営コンサルタントとして企業戦略の立案や財務分析を行うときも「常識」や「自然の摂理」というものを結構中心に考えています。日銀のこの異常な金融政策がいつまでも続くというよりは耐えられるというふうにはとても考えられません。
とくに長期金利を「抑え込んで」いることには非常な違和感を禁じえません。今般、長期金利の変動幅をわずか0.05%ずつ上下に拡大したことも、正常化に向けて進んでいるとは言うものの、見方を変えれば、抑え込みに無理が生じつつあるというふうに見ることができます。もちろん、日銀が多額の国債やETFを保有することも異常です。
もし、抑え込みに失敗して長期金利が上昇することがあれば、現状約10兆円の利払いをしている政府は大きな財政負担を余儀なくされることに加え、国債を約540兆円抱える日銀も、国債価格の兆円単位あるいは10兆円を超える損失を被ることとなり、場合によっては債務超過ということにもなりかねません。通貨を発行する中央銀行が債務超過になるなど想像するだけでも恐ろしいことです。(そういう意味でも、政府や日銀から見れば、是が非でも金利、とくに長期金利をなりふり構わず抑え込まなければならないという事情もあります。)
マグマがある一定以上たまると火山が爆発するように、また、プレートのゆがみが極限まで達すると反動で巨大地震が起こるように、どこかの時点で、政策のゆがみが市場の圧力に押されて元に戻ろうとし、金融市場が大混乱することを恐れているのは私だけでしょうか。MMT理論のように「自国通貨建てならいくら国債を発行しても大丈夫」というような理論を根拠に経済政策を論じる人もいますが、「常識」や「自然の摂理」に結局は収斂するということを歴史は教えているのではないでしょうか。2013年4月にアベノミクスが始まった時、日経新聞はコラムで「戻れない賭け」と述べました。掛け金がどんどん膨らむ中、この「賭け」がうまくいくかどうかはとても心配です。


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