当社では、毎月初めに最新の景気指標を会員さん向けに配信しています。日本の国内総生産に始まり、日銀短観や雇用、物価、金融、貿易など国内でA4で6ページ、米国で2ページ、欧州、アジアがそれぞれ1ページで合計10ページの結構詳細な景気指標です。私が講演などで使っているものです。
この景気指標は、実は毎月、米国の雇用統計が第一金曜日に発表されるので、その更新をもって当社の景気指標を更新し、お客さまに配信しているものです。当社の景気指標には、米国の失業率、非農業部門の雇用増減数、時間当たり賃金(前月比)の数字を掲載しています。中でも非農業部門の雇用増減数は世界のエコノミストたちが注目している数字で、数か月平均で月に15万人程度増加していると、米景気は比較的堅調だと判断されます。
この雇用統計の発表にトランプ大統領が噛みつきました。2か月前までさかのぼって改訂されるのですが、5月が1.9万人、6月が1.4万人、そして新たに発表された7月の数字は7.3万人と、振るわないものでした。先月に発表された数字では、5月は14.4万人、6月が14.7万人ですから、大幅に減少した改訂となりました。先月までは巡航スピードだと思われていた米国経済に、急に暗雲が垂れ込めた感じです。
この雇用数の改定は、速報値では反映されていなかった数値を反映するもので、もちろん、以前から2か月前にさかのぼりずっと行われてきたことですが、今回の改定は世界の市場にも影響を与えるほどのものであったことも間違いありません。翌営業日の東京市場でも大きく株式相場が下がりました。
トランプ大統領は、この改定を見て、統計の責任者をクビにすると発表しました。よほど数字が気に入らなかったのでしょう。しかし、先程も述べたように、この統計は、これまでもずっと同じパターンで発表されてきたもので、このトランプ大統領の解任行動については、内外から強い批判が出ています。企業経営者が決算が気に入らないので、会計士や税理士をクビにするといっているのと同じです。
私は、この一連の動きを見て、いくつかのことを思いました。
ひとつは、数字が気に入らないからと、その数字を作成している責任者をクビにするというのは、限度を超えた行動であり、一部の熱烈な信奉者を除いては、トランプ氏の支持率に逆に悪影響だろうということです。
もうひとつは、先程、決算が気に入らないので、会計士や税理士を解任する経営者の話をしましたが、私は、経営コンサルタントを長くやっているので、粉飾をした決算書を何度か見たことがあります。経営者が税理士と組んで、銀行からの融資を得るためなどに粉飾をしていたのです。
これと比べると、もちろん許されることではありませんが、トランプ氏の行動は、まだ粉飾までは至っておらず、粉飾をする経営者よりも罪は軽いかなとも感じました。どこかの国のように、経済統計の粉飾が米国でも行われないことを願うばかりです。
小宮 一慶