(弊社所属のコンサルタントによる長編コラム「KC文集2024」掲載記事)
■はじめに~事業承継における成功とはなんなのか
この記事を読まれるにあたり、今、事業承継について何かしらの悩みをお持ちでしょうか。
「事業承継問題」が大きな問題としてフォーカスがあたるようになり、随分時間が経っています。ここでの事業承継問題とは、「経営者の後継が不在であり、後継者が見つからないと最悪廃業となる」ことです。中小企業庁の試算で、2025年までに平均的な引退年齢とされる70歳を超える中小の経営トップが245万人にのぼり、うち127万人が後継者未定と発表されています。このままでは、事業は黒字であるにも関わらず廃業する企業が続出することが懸念されています。
このようななか、後継者をみつけることは事業承継問題を解決するにあたり、大きな課題となっています。後継者の候補として、同族企業における親族のほか、内部昇格における幹部社員や、M&Aなどで事業承継する外部の企業や個人などが考えられるでしょう。
たしかに後継者をみつけることは事業承継の大きな課題です。しかし、ここで少し考えて頂きたいのです。それは、「後継者をみつければ事業承継は成功したと言えるのか?」ということです。
そもそも、事業承継における成功とは何なのでしょうか。
何をもって事業承継の成功というかは、各経営者や後継者によって考え方が異なるでしょう。
そこで、本記事では、
「経営理念も含めて前代からの事業を継続的に承継しつつ、外部や内部の環境変化に対応した事業の見直しや新しい事業展開ができる後継者に事業承継され、事業が継続・発展できること。」
を事業承継の成功として考えたいと思います。
事業承継の成功をこのように考えるならば、後継者をみつけるだけでは事業承継の成功とは言えないことは自明のこととなります。後継者をみつけることは、事業承継を成功させるための必要条件の一つに過ぎず、事業承継を成功させるためにはもっと必要なことがあるのです。
本記事では、この事業承継を成功させるために必要なことについて考えていきます。少し分かりやすく考えるために、次のような視点で考えたいと思います。
選定「後継者を見極める」
育成「後継者をどう育てるか」
承継「後継者に引き渡す」
それぞれについて、これまでの著者の経営コンサルタントとしての経験を踏まえ、基本的な考え方や進め方についてご紹介していきたいと思います。
また、著者は長年歴史に興味をもっており、2024年にある出版社より「歴史とリーダーシップ」をテーマとして出版する予定です。歴史への興味や執筆活動の蓄積も踏まえ、歴史から考える事業承継についてもコラム的にご紹介したいと思います。
■【選定】後悔しないためにも後継者は「見極めて」ください
まずは後継者を選定するために、「後継者を見極める」ことから考えていきます。
「後継者を見極める?見極めるほど後継者の候補がいないから困っているんだよ!」とお叱りを受けるかもしれません。しかし、ここではあえて「見極める」という言葉を使わさせて頂きます。
なぜかと言えば、仮に同族企業における親族の後継者候補などがいなくても、内部昇格による幹部社員や、M&Aによる外部の会社や個人が後継者候補となりえるのです。幹部社員にしても、外部の会社や個人にしても、承継してくれれば誰でもよいのでしょうか?そうではないはずです。
もし適切でない人が事業承継をして、お客様や社会に迷惑をかけ、社員を不幸にするならばどうなのでしょうか?もしかしたら廃業した方がよかったと後悔するかもしれません。そうならないように、「見極める」ことが必要なのです。
特にM&Aの場合は買収先として選んでもらうことに意識が強くなり、「見極める」ような気持ちになれないかもしれません。しかし、外部の会社や個人であるからこそ、なおさら後継者となりえるのか見極めることが必要です。
それでは後継者となりえるのか見極めるためには、後継者候補の何を見るべきでしょうか。見るべき視点として、候補者の実績・経験といった客観的に評価できることと、後継者の素質といった主観的に評価することがあります。実績・経験はこれまでの社内や社外での成果などで判断しやすいため、本記事ではより見極めが難しい素質について考えてみます。
候補者の素質として何を見るべきでしょうか。
私は候補者の内向的側面としては「素直」と「勤勉」を、外向的側面としては「利他」と「誠実」をあげたいと思います。それは多くの歴史上、また現代のリーダーを見てきた結果、この素質がリーダーとして必要と考えるからです。なぜでしょうか。それぞれについて考えてみます。
■【選定】後継者候補の方は失敗や良くない点を素直に受け止めていますか
まず、内向的側面としての「素直」と「勤勉」について考えてみます。
まず、リーダーが素直であれば、自分の失敗や良くない点をそのまま受け入れることができます。そして、その失敗や良くない点を踏まえて、事業をどのようにすればよりよくなるのか考えることができます。逆に素直でなければ、自分の失敗や良くない点を受け入れられず、同じ過ちを何度も繰り返すでしょう。
また、リーダーが勤勉であれば、環境変化や新しい知識を積極的に学び、それを事業に活かそうとします。優れたリーダーほど、学びに対して貪欲であるとともに、その学びの途中からどのように実践に活かせるか考えるものです。逆に勤勉でなければ、環境変化などに対応できず、事業は衰退するかもしれません。
次に、外向的側面としての「利他」と「誠実」について考えてみます。
まず、リーダーが利他であれば、お客様や社員をまず第一に考え、お客様の満足や社員の幸せを考えて事業を取り組めます。これは言うは易しで、現実には「利他」の素質がないと本当に難しいのです。
優秀な人ほど、「自分が正しく、自分がすごいということを見せつけてやりたい」という想いが原動力となる人がいます。私はこうした想いも大変尊重すべきもので、こうした想いが個人としての大きな成果を生み出すことにつながるのです。
しかし、リーダーとなる人がこのような想いが強すぎると、自分の強みが第一となるため、メンバーの強みを引き出し、組織としてお客様に喜んで頂くことが難しくなります。このような人には重要なプレーヤーとしての地位を与えるべきで、リーダーとしての地位を与えることは慎重にならなければなりません。
また、リーダーが誠実であれば、お客様に対してはもちろんのこと、社員に対しても約束したことは守ろうとします。誠実さに欠けるリーダーであれば、お客様や社員に約束したことを破るのに抵抗なく、その組織は衰退するでしょう。
これらの「素直」、「勤勉」、「利他」、「誠実」といった素質はどのように見極めるべきでしょうか。これは残念ながらノウハウがあるわけではなく、後継候補者にこれらの素質が備わっているのか、とにかく観察するしかありません。その際、その候補者に対する自分の好悪は一旦置いて、リーダーとしてこれらの素質があるかを見極めることが大事です。
■(コラム)4つの資質から考える「どうする家康」
それでは、これらの資質をもった歴史上のリーダーは誰でしょうか。
私はあえて、戦国時代を終わらせ、江戸幕府を開いた徳川家康をあげてみたいと思います。2023年の大河ドラマ「どうする家康」の主人公にもなりましたが、歴史を学ぶなかでも、徳川家康のリーダー像にも現代の参考となることが多くあります。4つの素質ごとに考えてみます。
「素直」
家康はその前半生において、武田信玄をはじめとした武田家に苦しめられました。特に三方ヶ原の戦いでは多くの家臣を失い、家康自身も九死に一生を得ます。
その後も長年武田家に苦しめられますが、織田信長との同盟により最終的には武田家を滅ぼします。武田家は滅びますが、家康は武田家が徳川家より強かったことを素直に認め、武田信玄の兵法を学んだり、武田家の家臣を多く採用したりしています。
そのことにより徳川家は強くなり、その後の大事な戦いで勝ち続け、天下取りにつながっていったのです。
「勤勉」
家康は読書家としても知られています。その読書の幅は歴史書から中国古典、医学書などに及んでいました。江戸幕府を開いてからは出版事業まで行っています。戦国から平和な時代に移行するなかで、そのような学びが江戸幕府の仕組みつくりに役に立っています。
また、イギリス人のウィリアム・アダムスを側近とするなど、幅広い人財を採用し、多様な意見を取り入れていました。こうした姿勢が江戸幕府初期の政治を安定したとも考えられます。
「利他」
家康は「天下は一人の天下にあらず、天下は天下の天下なり」という言葉を好んで使っていました。また旗印として「厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんぐじょうど)」(穢(けが)れた現代を逃れ、極楽浄土に生まれ変わることを心から願い求めること)を掲げています
これらの言葉や旗印が現すように、家康は戦国の世を終わらせ、人を殺し合うことがない平和な時代を目指していたのです。そうした利他の精神が関ケ原の戦いなどで多くの大名が味方した理由の一つと考えられます。
「誠実」
家康は晩年は豊臣家を滅ぼすこととなりましたが、織田信長との同盟は最後まで破らなかったなど、裏切りが日常であった戦国の世において、約束を守る人物として知られていました。
そうした「約束を守る誠実な人」という信頼が後年の関ケ原の戦いなどで多くの大名が「家康であれば自分たちを裏切ることはないだろう」と考えることにつながったのです。
■【育成】親族だからこそ、まずは社外から、そして1メンバーからスタート
後継者を選んだとしても、実際に経営者となるまでに時間的猶予があるのであれば、その後継者を育成する時間にあてることができます。いや、育成する時間にあてないといけません。
なお、育成対象となる後継者とは、同族経営における親族の後継者や、内部昇格における経営幹部などが該当します。M&Aの場合には後継者を育成する時間がないためです。
まず、親族の後継者候補についてです。
後継者候補が学校卒業直後の場合には、まずは社会人としての基礎的教育が必要となります。
この場合にはすぐに承継する会社に入社するのではなく、一度他社に就職することをおすすめします。承継する会社にすぐに入社すると特別扱いされ、社会人として必要な姿勢や心構えなどの基礎が確立しないことがあるためです。
もちろん、すぐに承継する会社に入社されたのち、立派な後継者となられる方もいますが、特別扱いなどから後継者としての素質が育たないケースもしばしば見聞きします。
何年間か他社に勤務され、社会人としての成長が感じられた段階で承継会社への入社を検討することとなります。何年が適正ということはありませんが、最低3年以上は始めの会社に在籍し、責任ある仕事をきちんと担えるようになることが目安だと思います。後継者自身に仕事ぶりを確認するコミュニケーションも必要です。
承継会社への入社後もすぐに経営幹部とすることは避けるべきです。まずは営業や生産など、現場の1メンバーとしてスタートしてください。1メンバーとして仕事をするなかで現事業のオペレーションを知ったり、現場の苦労や問題、課題を身をもって知ることができます。
さすがに入社直後から取締役や副社長とされることはあまり見かけませんが、部長クラスからスタートされる場合があります。こうした場合には現場を知らずに後継者が育つケースが見聞きされるので注意が必要です。
※但し、上記は20代~30代前半頃までの短い社会人経験で入社されるケースを想定しており、それ以降で特に同業界等の経験がある場合はスタートから経営幹部に就任することはありえます。
1メンバーとして入社したのち、周囲からも認められる実績をあげるようになれば後継者として経営幹部に引き上げていきます。
この間、親族の後継者候補として甘えないように指導することも大事な教育です。「自分は親族だからどんな結果でも経営者となるだろう」と考えている様子があれば、きちんと実績をあげないと後継できないことを厳しく伝えることも現経営者の役割です。もしそれでも変わらない様子であれば、資質がないとして後継者から外すことも検討すべきでしょう。
ここまでの試練を通過して後継者として経営幹部になったら、次は経営幹部から経営者となるための教育が必要となります。
■【育成】複雑で、変化が激しいからこそ基礎的知識の習得を
次に経営幹部に対する育成について考えてみたいと思います。ここでの経営幹部とは、親族の後継者としての経営幹部と、内部昇格の後継者としての経営幹部の両方を含みます。
よく企業経営者の皆さまとお話ししていると、よく次のようなお話しがでてきます。
「経営幹部といっても、経営者というよりプレーヤーから成長できていない幹部が多い。担当している業務範囲や短期の視点で考えることが多く、事業全体や中長期の視点で考えることがなかなかできない。」
つまり、経営幹部であっても「経営者人財」ではないということなのです。
それでは経営者人財にするための教育を何かしているのか、というと残念ながら行われていないことが多いのが実態です。
しかし、特定の業務範囲のリーダーとは異なり、「経営者人財」という会社全体のリーダーを育てるためには、一定の教育が必要となります。それも、外部の力もうまく活かしつつ、現経営者自身が経営幹部の教育にあたることが必要です。
ここでは経営幹部に必要な教育内容として、次の3つを取り上げてみたいと思います。
・経営に必要な基礎的知識
・経営者として必要な心構え
・経営の実践(経営計画の策定とPDCA)
まず、「経営に必要な基礎的知識」について考えます。これは、企業の経営者として知っておくことを学ぶことです。
具体的内容としては、経営戦略、マーケティング・イノベーション、組織・人事、財務・会計などを学ぶことです。また、現代の社会の変化や流れなどを学ぶこともあげられます。
世の中が複雑になり、また変化が激しい時代において、このような基礎的知識は経営者としてますます必要となっています。
こうした教育は社内で行うには負担が重すぎるため、外部の会社や機関が提供しているプログラムを活用するのも有効です。小宮コンサルタンツでも、「KC後継者ゼミナール」の中で同様のプログラムを提供しています。
もちろん、外部プログラムを活用するにしても、後継者の方々が自学自習も行うことが前提です。日々新聞などを読んだり、関連の書籍を読むなどの自助努力も求めるべきです。
■【育成】現経営者が「経営者人財」でなければ後継者を「経営者人財」にできません
次に、「経営者として必要な心構え」について考えます。これは、企業の経営者として持つべき考え方や姿勢を学ぶことです。
具体的内容としては、リーダーとして持つべき信条、理念や、経営のなかで発生する問題・課題に対してどのように考え、実行していくべきかを伝えていくものです。
特に経営者は全社員のリーダーであるため、人財をどう活かし、成果を生み出していくかについて学ぶことが必要です。
こうした教育においても外部プログラムの活用は有効ですが、現経営者自身も後継者に直接教育することが必須と考えます。なぜなら、長年実際に経営者、リーダーとして務めてきたのは現経営者自身だからです。その言葉には説得力、重みがあるはずです。
具体的には月に1回程度の「社長塾」などを設けて、後継者に対してお話しをしていくことなどが考えられます。もちろん、日頃のコミュニケーションや会食のなかで伝えていくこともできますが、改めて場を設定した方が伝えやすいこともあるでしょう。
最後に「経営の実践(経営計画の策定とPDCA)」について考えます。これは、経営幹部が現経営者と一緒に経営計画を策定し、実践することを通して「経営者人財」として成長することを目指すものです。
具体的には、企業の経営理念を再確認したうえで、外部・内部の環境を踏まえた企業の方向付けを検討します。この方向付けを踏まえて、3か年のアクションプラン、組織・人員計画、収益計画などを作成していきます。経営計画の作成後はアクションプランを実施するとともに、定期的にチェック、見直ししていきます。このような経営の実践を現経営者と経営幹部と一緒に進めていくこととなります。
現経営者と経営幹部が一緒に進めるなかで、現経営者は経営幹部に対して経営者として必要な「長期的」、「多面的」、「本質的」なことを教えていくことが必要です。
もちろん、経営幹部に教えらえるように、現経営者自身がそれまでに「長期的」、「多面的」、「本質的」に考えられるようになっていることが前提です。経営幹部は現経営者から教わりながら「経営者人財」となるため、現経営者自身が「経営者人財」でなければ教えられません。
■(コラム)主君から事業承継の教育を受けた西郷隆盛
歴史上でもリーダー育成の事例は沢山ありますが、ここでは上杉鷹山と西郷隆盛について取り上げてみます。
上杉鷹山は江戸時代の米沢藩の藩主で、非常な財政難にあった米沢藩を倹約、産業振興などで復活させた江戸時代随一の名君として知られています。
この上杉鷹山には青年期より政治にあり方やリーダーの姿勢を教えた家庭教師がいました。それは細井平洲という尾張出身の儒学者でした。米沢藩は庶民にも分かりやすく教える細井平洲に鷹山の指導をお願いしたのです。
細井平洲の指導が上杉鷹山の財政改革につながったことは、細井平洲の著作を読むとよく分かります。細井平洲による上杉鷹山の育成は外部を活用してリーダーを育成した好事例といえるでしょう
西郷隆盛は幕末の薩摩藩士で、周知のとおり明治維新を切りひらいた三傑の一人です。
この西郷隆盛に対して西洋列強の侵略の危機などの国際情勢を教え、統一国家や富国強兵を教えたのは主君の島津斉彬でした。
島津斉彬は地方役人として民衆想いであった西郷隆盛を抜擢し、直接教育するとともに、政治工作などの実践を踏ませました。島津斉彬は志半ばで亡くなりますが、西郷隆盛はその志を受け継ぎ、日本を統一国家、富国強兵の路線に導くのです。
藩主の地位が承継されたわけではないですが、事業の承継という視点からは島津斉彬の西郷隆盛への教育は後継者育成だったと言えるでしょう。
■【承継】現経営者の業務を分類して一覧化
ここからは現経営者が抱えている業務の後継者への承継について考えてみます。
特に意識されることがなければ、現経営者と後継者の方が一緒に仕事をするなかで口頭や書面で共有することが一般的だと思いますが、ここでは当社がご支援するなかでお薦めしている承継方法についてご紹介します。
現経営者から後継者の方への承継を次のようなステップで進めていきます。
ステップ1:現経営者の業務を可視化、一覧化していく。
ステップ2:各業務の承継計画として、アクション、スケジュールを明確にしていく。
ステップ3:承継計画の実施、チェック、見直し(PDCA)を進めていく。
各ステップについて考えていきます。
ステップ1:現経営者の業務を可視化、一覧化していく。
現経営者の業務を書き出して一覧化する作業で、エクセルで書き出すのが整理しやすいでしょう。
この書き出し作業は無秩序に書き出す前に、業務分類を設定してから書き出した方が整理されます。
私がお薦めしている業務分類は次のようなものです。まず、「社外」と「社内」に切り分けます。
「社外」については、外部の得意先や仕入先など、「対象先単位」で分類していきます。個別の会社ごとに業務が異なるのであれば個別会社ごとに設定しますが、例えば得意先のなかでも「大企業向け」「中堅・中小企業向け」などで業務が括れるのであれば、括れる単位で設定します。
そして、「対象先単位」のなかで、「交渉・意思決定事項」と「事務プロセス事項」の2つに分類します。そして、この2つの分類の下に現経営者が対応している業務を書き出していきます。
「社内」については、「ヒト」、「モノ」、「カネ」などの内部資源の視点から分類していきます。
「ヒト」は人事に関わること、「モノ」は拠点や設備に関わること、「カネ」は損益や資金繰りに関わることが中心となります。
それぞれのなかで、「意思決定事項」と「事務プロセス事項」の2つに分類していきます。そして、この2つの分類の下に現経営者が対応している業務を書き出していきます。
業務分類をもとに書き出した業務一覧は後継者とも共有、確認していきます。
■【承継】チェックミーティング後の「食事で一杯」も大事
ステップ2:各業務の承継計画として、アクション、スケジュールを明確にしていく。
業務一覧をもとに承継計画を作成していきます。このなかでは各業務の承継者、承継時期、承継方法について検討していきます。
承継者は基本後継者ですが、業務によっては他の経営幹部や社員が担った方がよい場合があります。現経営者の業務を一覧化してみると、意外と細かい業務も担われており、その分大事な業務に時間が取れていないことがあります。事業承継を機会に見直しをした方がよいでしょう。
承継時期については、後継者への最終的な承継時期から逆算しながら各業務の承継時期を設定していきます。
承継方法については、基本パターンは現経営者と後継者で業務内容について共有したうえで、しばらくは並走で業務を実施したのち、徐々に後継者単独で業務を実施しつつ、現経営者がフォローすることになります。社外の方との関係性が求められるものや、資金繰り等会社の存続に関わるものほど、並走期間は長めにとるなど、丁寧な承継が求められます。
ステップ3:承継計画の実施、チェック、見直し(PDCA)を進めていく。
承継計画作成後は計画にもとづいて実施していくこととなります。
そして、計画実施のチェックとして最低でも月に1回は現経営者と後継者で進捗状況をチェックするミーティングを開いてください。このなかでは計画が予定通り進んでいるのかどうかの確認や、業務内容の詳細確認などを進めていきます。
できれば、このミーティングの後は現経営者と後継者で食事をご一緒して頂き、これまで現経営者として考えてきたことや、大事にしてきたことなどを共有することも大事です。私がみてきた事業承継においても、このようなインフォーマルなコミュニケーションができている場合には承継がスムーズに進んでいるように感じます。
■(コラム)マーケティングチームで乗り切った毛利元就の事業承継
歴史上でのリーダー承継のうち、ここでは毛利元就の承継について取り上げてみます。毛利元就には後継者として長男の毛利隆元がいましたが、その子(元就からみると孫)の毛利輝元を残して40歳の若さで亡くなりました。
毛利輝元はまだ10代と若年で不安もありましたが、毛利元就の次男の吉川元春、三男の小早川隆景が毛利輝元を支えることで、毛利元就からの事業承継を図りました。これを「毛利両川(吉川・小早川の両川)体制」といいます。
吉川元春は軍事面で、小早川隆景は外交面で強みをもっており、役割分担ができました。そのため、元就の死後、輝元の時代となっても吉川元春、小早川隆景が生きている間は毛利家は西日本最大の大大名として存続することができたのです。
この事例のように、現代でも後継者が全ての役割を担う必要はありません。創業者などの求心力がある現経営者から後継者が全てを承継するのは負担が重いでしょう。後継者と経営幹部で「マネジメントチーム」を組成し、それぞれの強みを踏まえて現経営者から業務を承継することも有効な進め方です。
なお、毛利家は吉川元春、小早川隆景の死後、当時の吉川家、小早川家の当主から協力を得られなかった毛利輝元は関ケ原の戦いで敗れ、領地も大きく縮小します。この事実は、逆説的に「毛利両川体制」がいかに強力であったかを感じさせるものです。
■おわりに~事業承継の成功のために2024年からスタートを
ここまで事業承継を成功させるために必要だと考えることについて、選定、教育、承継の3つの視点から考えてきました。
お読み頂くなかで感じたかもしれませんが、ここまであげたことは1年や2年でできることではありません。事業承継とは、一定の時間をかけて行うものなのです。
しかし、経営者の方々とお話しをするなかで、残念ながらこのような認識が乏しい方が少なくないように思います。その結果、経営者の方が相当高齢になっているにも関わらず、安心して事業承継ができないという方が多数いらっしゃるのです。
「はじめに」でも書いたように、後継者をみつけるだけでは事業承継は成功したとはいえません。
事業承継の成功とは、
「経営理念も含めて前代からの事業を継続的に承継しつつ、外部や内部の環境変化に対応した事業の見直しや新しい事業展開ができる後継者に事業承継され、事業が継続・発展できること。」と考えます。
そのための取り組みに一定の時間がかかるのであれば、必要なことは自明です。
それは、会社の継続、発展のためにも可能な限り早く後継者を選定し、後継者を教育し、事業を承継していくことです。そこに必要なだけ時間が取れれば、経営者の方は安心して事業承継できます。何より、事業承継の成功の確度が高くなります。
もし事業承継の必要性を感じながらも、まだ何も着手できていないのであれば、是非この2024年からスタートして頂ければと思います。
増田 賢作