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水路を忘れた社会は揺らぐ──米不足が突きつける問い

時事トピック
2025.09.09

米不足や価格高騰のニュースが続いています。猛暑やインバウンド需要、備蓄米の放出の遅れなど、原因はいくつも語られています。しかし、それらは表層的な現象にすぎません。
実際に浮かび上がったのは、もっと長い時間軸で積み重なってきた「社会の脆さ」です。

■見えない基盤としての水路
米づくりには、田植えや収穫のような目に見える作業だけでなく、水路や用水の管理、畦(あぜ)の補修、排水設備の点検、農道の維持といった地味で不可欠な仕事があります。
富山県の農業支援団体は、「足場の悪い水路の清掃作業は重労働であり、高齢化が進む地域ほど人手不足に悩まされている」と伝えています【gt-toyama.net】。

普段は当たり前に存在するため意識されません。けれども担い手がいなくなれば米づくりそのものが立ち行かない──危機になって初めて「ここが弱点だった」と気づかされます。

■担い手不足という構造的課題
富山県は水田の比率が全国でも特に高い地域ですが、農業従事者数は2000年以降でほぼ半減し、現在では70歳以上が最多層となっています。
全国の土地改良区を束ねる「水土里ネット」も、人手不足と財政難によって水路や農地整備の維持が難しくなっていると警鐘を鳴らしています。

「担い手不足」は長年語られてきた課題でした。それでも十分に手が打たれないまま、今や本当に人がいなくなりつつあるのです。

■コロナ禍の経験と重なるもの
コロナ禍では、物流や介護、清掃や保育といった仕事の従事者が「エッセンシャルワーカー」と呼ばれ、一時的に脚光を浴びました。
社会を回す「隠れた仕事」の大切さを、私たちは確かに実感したはずです。
けれども危機を過ぎると、その重要性は再び陰に隠れ、待遇や評価が大きく変わったとは言いがたいのが現実です。

水路や用水、畦、排水路や農道を守る仕事も同じです。危機のときだけ光が当たり、やがて忘れ去られる。
社会の基盤を支える役割が持続可能な形で守られないまま、担い手不足というかたちで再び脆さが現れています。

■経営への示唆
この構造は、企業経営にも重なります。
売上や利益といった数字は、米の収穫量や価格にあたります。
しかしその背後には、部門間の調整、情報の共有、日々の小さな改善といった“水路的な仕事”が存在します。

うまく回っているときは当たり前すぎて意識されません。けれども環境が揺らげば、一気に弱点として浮かび上がります。
だからこそ、備えるべきは「数字の安定」だけではありません。

・隠れた仕事に光を当てる
・担い手を支える仕組みを持つ
・平時からそのありがたみを忘れない
その積み重ねが、組織をしなやかにし、変化に耐える力を生み出していきます。

米不足のニュースは、社会の基盤を支える隠れた仕事の脆さに光を当てました。
「誰が水路を守るのか」という問いは、組織においても避けられません。
あなたの組織にとっての“水路”は何でしょうか。

馬場 秀樹


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