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財政拡張と金利上昇──中小企業がいま備えるべき現実的視点

時事トピック
2025.10.14

2025年10月、日本経済は表面上の明るさと内実の不安が同居する局面にあります。
日経平均は48,000円台を超え、企業業績や市場心理には追い風が吹いています。
自民党総裁に高市早苗氏が就任したことで、政策の方向性にも注目が集まり、財政拡張や成長投資への期待が株価を押し上げています。

しかし、中小企業の現場は決して浮かれた状況ではありません。
エネルギーや原材料の高止まり、人手不足による人件費上昇、円安による仕入れ負担が重なり、売上は伸びても利益率が下がる構造が続いています。
「景気拡張」という言葉とは裏腹に、経営者の実感は「高コスト環境の中でいかに持ちこたえるか」という現実的な課題にあります。

債券市場では長期金利が1.7%前後、30年債では3%を超えるなど、じわりと上昇傾向が見られます。
低金利を前提としてきた資金繰りや投資計画は、今後の再設計が避けられません。
とくに借入依存度の高い企業にとって、金利上昇は直接的な収益圧迫要因となり得ます。

銀行も融資姿勢を慎重化させ、選んで貸す傾向を強めています。
金利リスクの高まりを背景に、レバレッジの高い投資や短期的な回転を狙う融資には消極的です。
一方で、事業承継や地域再編など、持続的な価値創出につながる案件には引き続き支援の姿勢を保っています。
融資は条件競争から関係構築へと軸足を移しつつあり、金融と企業の関係の質そのものが再定義されつつあります。

金利上昇は、企業価値評価にも直接影響を及ぼしています。
リスクフリーレートの上昇により、将来キャッシュフローを割り引く際の割引率(WACC)が高まり、同じ利益水準でも現在価値は低く算定されるようになっています。
このため、買い手側は資本コスト上昇を意識して慎重姿勢を強める一方、売り手側は株高や業績の好調を背景に高値を維持したいと考える傾向があり、両者の間で「バリュエーションギャップ(企業価値の認識差)」が生じています。
このギャップは、M&A交渉の停滞や条件調整の長期化を招きやすく、結果として案件成約率を下げる一因となっています。
また、金利負担の増加により銀行融資を活用したM&A資金調達も難易度が上がっており、レバレッジをかけた攻めの買収は減少傾向にあります。

こうした環境では、M&Aや事業投資を「規模拡大の手段」としてではなく、「事業の再構築や承継の戦略」として再定義することが求められます。
経営チームや従業員、地域との関係まで含めた「質の高い統合」を意識し、財務的合理性と社会的持続性の両立を図ることが、これからの経営戦略の要となります。

経営者にいま必要なのは、「資金の守り」と「機会の見極め」を両立させる視点です。
借入金の固定・変動比率を見直す、為替リスクを想定して契約条件を更新する、あるいは生産性投資を内部留保から慎重に進めるなど、財務と戦略を一体で考えることが重要です。
また、外部資本や事業提携を検討する際には、数字の合理性だけでなく、文化や理念の共有まで含めて判断することが、長期的な企業価値の維持につながります。

株高や政策期待に浮かれることなく、現場の変化を直視し、「守りながら攻める」経営へと舵を切ること。
それが、いまの中小企業にとって最も現実的で、最も戦略的な選択なのかもしれません。

新宅 剛

 


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