年末になると、来年の目標や経営計画を考えることも多いと思います。
そうした場に立ち会う中で、よくひっかかることがあります。
それは、目標がいつの間にか「自分都合」になってしまうことです。
中期経営計画を見ていると、よくこんな表現が並びます。
「〇〇業界で培ったノウハウを活かす」
「地域に根ざした取り組みを強みに展開する」
「当社のブランド力を活かして新たな分野へ」
どれももっともらしく、間違ってはいません。
その会社が積み上げてきた歴史や努力が背景にあることも、よく分かります。
以前、ある会社の中期計画づくりに関わったときのことです。計画書には「業界で培ったノウハウを活かした事業展開」と書かれていました。また、その事業がもたらす利益についてもロジックが整理されています。
では、そのノウハウによってお客さまは何が変わるのか、と問いかけると、しばらく沈黙が続きました。
しっかりと議論をした結果だとは思いました。分析もよくできています。でも、どこか「儲かるからやる」という風に聞こえてしまいました。自分たちにとっての利益は語られていても、「それがお客さまのどんな困りごとに効くのか」までは、言葉になっていなかったのです。
「ノウハウを活かす」とは、お客さまのどんな手間が減るのでしょうか。
「地域に根ざす」とは、お客さまにとって何が今より安心になるのでしょうか。
「ブランド力を活かす」とは、お客さまのどんな不安が、どの場面で減るのでしょうか。
もちろん、ただの損得で考えているわけではないのだと思います。ただ、視点が「自分たちができること」「やりたいこと」に寄りすぎると、気づかないうちに、お客さま第一ではない自分都合の目標になってしまいます。
若い人の目標であれば、「自分が何を達成したいか」でいいと思います。
一方で、経営者の目標は、そこでは終われません。
経営者に求められるのは、誰の、どんな課題に、どう貢献するのかを引き受けることです。
年末は、自分たちの「あり方」を問い直す時期だと思います。
そして、そのあり方は、自分都合では意味がありません。
誰に、どのように覚えられたいのか。
その問い抜きに、目標や中期計画を語ることはできないはずです。
来年の計画を考える前に、この会社は、お客さまからどんな存在として記憶されたいのか。
そんな問いから、静かに始めてみてもいいのかもしれません。
馬場 秀樹