時が経つのは早いもので、2025年も年の瀬となり、まもなく2026年を迎えます。
私は毎年、新年が明けた仕事始めの早朝に必ず訪れる場所があります。それは、東京都世田谷区にある松陰神社です。尊敬する吉田松陰先生の墓所もあるこの松陰神社で参拝をしてから、仕事を始めることにしています。2026年の仕事始めの前にも、松陰神社にお伺いするつもりです。
この松陰神社には、山口県萩市にある松陰神社を模した建物があります。松下村塾を再現したこの建物の柱に刻まれている言葉が、今回取り上げた言葉です。現代語訳すると、次のようになります。
「多くの書籍を読むほどの気概がなくして、どうして立派な人物になれるだろうか。
自分に与えられた役割や労を軽んじるようで、どうして多くの人々に安らぎと平和をもたらすことができるだろうか。」
ご存知の方も多いと思いますが、松下村塾からは、幕末に活躍した高杉晋作や久坂玄瑞、さらには明治期に初代内閣総理大臣となった伊藤博文をはじめ、時代を変えた多くのリーダーが輩出されました。
これらの人物たちは、松下村塾で日々この言葉と向き合いながら学んでいったのです。
「多くの書籍を読むほどの気概がなくして」とありますが、実際、吉田松陰先生は大変な読書家でした。幼少期から親しんでいた中国古典をはじめ、兵学書や歴史書、さらには諸外国の事情を知る書物まで、その読書範囲は非常に幅広いものでした。アメリカへの密航を試みて捕らえられ、牢獄に入っていた際には、約1年2か月で492冊もの本を読んだとも言われています。
しかし先生は、「本を読めばそれでよい」という考えを持っていたわけではありませんでした。松下村塾への入塾希望者に対し、「何のために学問をするのか」と毎回問いかけていたそうです。そして、「書物を読めるようになりたい」と答えた者に対しては、「学者になってはいけない。人は実行が第一である」と諭していたと伝えられています。
人は学ぶだけでは不十分であり、学んだことを実行に移してこそ意味があります。この思いは、二文目の「自分に与えられた労を軽んずるに非ざるよりは」という言葉にも込められているのではないでしょうか。
学ぶことだけに終始し、与えられた仕事を軽んじるようでは、人や社会に貢献することはできません。学びを土台として、目の前の仕事に真摯に取り組んでこそ、真の貢献が生まれるのです。
拙著『リーダーは世界史に学べ』では、イギリスの看護師として知られる人物が、統計学の学びを活かして病院の死亡原因を「見える化」し、衛生環境の改善につなげた事例を紹介しました。これもまた、学びを実行に移した好例と言えるでしょう。
振り返ってみると、私自身も年間100冊以上の本を読んでいますが、どれほど学んだことを実行に移せているのかと、反省するばかりです。
2026年は「学んだことを実行に移す」を大きなテーマとし、本を一冊読み終えるごとに、実行することを日記に記していきたいと考えています。
増田 賢作