9月28日の日経朝刊の2面に、社長100人アンケートで、ROEの中期目標を2桁の10%以上にするという回答が6割を占めたという記事が載っていました。
ROEとは、純利益を自己資本で割った指標で、株主の出資分からどれだけ利益を生んだのかの目安となる、という説明がこの記事でもされています。
日本企業は欧米と比べて資本効率が低いとされ、2014年に経済産業省がまとめた伊藤レポートでは8%を最低水準の基準として、改善に努めてきた結果、10年をかけて目標がさらに高くなってきたということです。
株主の出資分を、借り入れ等によってレバレッジをかけながら、何に投資をして利益を生み出すかなのですが、本アンケートでは、成長のための具体策として、設備投資という回答を抑えて、7割が「人への投資」を挙げたということです。
社長100人アンケートは、上場企業の中でも特に有名どころの一流企業の社長のアンケートです。
そのため、このアンケートの結果が日本全体を示しているわけでは当然ありません。
特に昨今、円安が進んでいる状況の中では、輸出産業や海外において事業を行っている会社の業績が良い傾向にあります。
上場企業以外の、中堅中小企業においては、国内を基盤にした企業が多いため、円安の恩恵は受けられず、むしろ海外から調達をした原材料などのコスト高が利益を圧縮している状況です。
この社長100人アンケートの対象企業群は、業績もしっかりと出ていて、その上での投資先として人への投資を加速させると答えているのです。
日本の人口構造問題から生産年齢人口の減少による人手不足が進んでいます。中堅中小企業の経営に携わる皆様にとっても、人手不足や採用難については、ここ数年、下手したら10年ほど悩まされているのではないでしょうか。
中堅中小企業の経営をしていく中では、数で言えば1%にも満たないGDPの3割を担っている上場企業の動向を見て、今の景況を判断するわけにはいきません。
しかしながら、この上位1%に満たない大企業が人への投資を加速する中で、他の企業も追随して人への投資を加速させる傾向にあります。収益が圧迫されつつも一人当たり付加価値額をマーケティングとイノベーションによって上げていきながら、人への投資を同様に加速させていく必要があります。そうしなければ、人材採用や働く人を自社に留めて成長してもらうこと自体がままならないからです。
もちろん、人は待遇面だけで、企業を選ぶわけではありません。
人の働きがいは、働く喜びと経済的な喜びによってもたらされます。そして、マネジメントの正当性は、人の強みを生かして、商品サービスに生産的な貢献をしてもらうことによってもたらされます。
ただし、働く喜びや人の強みを生かした経営というものは、働く人にとってみれば企業の中で働いて初めて実感することができるものです。
当然に人材採用におけるこのような観点からのプロモーションは必要なのですが、待遇面においてもしっかりとした条件を提示することは最低条件になってくることと思います。
労働生産性を上げて、待遇面に反映させることができない企業はこれから人材の枯渇という要因によって事業の継続がままならなくなることが想定されます。
良い人材を採用して、その人の強みを活かして、商品サービスを磨いていくこと、それを今後継続していくためにも、改めて企業の目的である顧客の創造、その上で価値を生むマーケティングとイノベーションを行うことで、社長100人アンケートに出てくるような企業に負けないような気概で、人の投資を行い、人の強みを活かしていく、そのような姿勢で経営に向かっていきたいものですね。
当たり前ですが、ROEを向上させるために、人の投資を行うということは、しっかりと人の強みを生かして、商品サービスに結実をさせた上でROEを改善することを意図しています。
ただ、いい人を採用できた、で終わらせてはいけません。もちろん短期的には難しいかもしれないですが、将来的にはその採用した人や、今いる人の投資をしっかりと成果とその結果における利益に結実させることが求められます。
なお、上場会社は投資家に選んでもらうための指標を重視しますが、上場会社でなければ、ROEと言うよりも、むしろROA(営業利益÷総資産)を重視した経営に取り組んでみた方が良いのではないかと思います。
ROEとは、細かな説明は省きますが、借り入れを多くして自己資本比率を下げ、借り入れた金額も含めて、投資に回して資産を大きくした上で、運用をして利益を上げれば、結果として上がってくる数字だからです。
財務レバレッジを効かせることによってROEの改善が可能であるため、度が過ぎると、会社の中長期的な安全性を犠牲にすることになります。もちろん、プロの投資家はROEだけではなく、財務的な健全性も踏まえた上での投資判断をしているとは思うのですが、上場会社ではない会社の企業経営において、企業全体の収益力と生産性を見る上では、ROAの方が優れているのではないかと私は考えます。
いずれにしても、人への投資をしっかりと財務的なパフォーマンスにも反映させることは、成果を測る上でも必須であると言えるでしょう。しかし、その成果と結果を短期的に求めすぎても、人の強みを生かすと言う観点において、うまく作用しなくなることも考えられるため、その時間軸は慎重に考える必要があるでしょう。