しばらく前から「人的資本経営」という言葉をよく聞くようになりました。この「人的資本経営」の本質は、何なのでしょうか。ここでは、言葉の意味を手がかりに考えてみます。
以前は「人的資本」より「人的資源」という言い方をよく聞きました。英語では、人的資源=Human Resource、人的資本=Human Capitalとされます。ResourceとCapitalを辞書で調べると、次のように出てきます(英辞郎on the WEB Proより)。
【Resource】資金、要員、供給源、天然資源、〔会社の〕資産、財産
【capital】〔生産要素の〕資本、〔会計の〕純資産、正味財産、〔役に立つ〕利点、長所、強み
これらも参考にすると、「人的資源」は、企業において原材料や設備のように、人材を「消費するもの」とみなすニュアンスが出てきそうです。かかる費用を、投資というより「コスト」と認識するイメージです。「人的資本」のほうは、企業にとって「価値を高めるべき投資対象となるもの」というニュアンスが出てきそうです。その人が持っているスキルや経験値に加え、将来もたらしてくれる価値も含むと認識するイメージです。
「人的資源管理」「人的資本管理」のどちらも言葉としてはありますが、私が見聞きしている範囲内では「人的資源管理」のほうがより多く聞く印象です。
一方で、「人的資本経営」という言葉は最近特によく聞きますが、「人的資源経営」という言葉はほとんど聞きません。つまりは、人材を「資源」の視点で見た場合は管理すべきもの、「資本」の視点で見た場合は経営に積極的に参画してもらい、その潜在力を最大限引き出せるよう導いていくもの、と捉えられるのではないかと考えます。
もうひとつポイントを挙げると、人的投資の効果は短期ではなく長期的に表れてくるものだということです。普段いろいろな企業関係者との間で、人的投資に話題が及びます。時々飛び交うのは、人的投資における短期的な効果の追求の視点です。
例えば、「タレントマネジメントにこれだけのお金を投入したが、現場の生産性は実際に今年どの程度上がってそうだと言えるのか」「昨年から賞与などで従業員に還元しているが、今期のパフォーマンスにはその効果が見てとれるのか」「今年の社員研修によって何が変わったのか」といった具合です。しかし、人への投資は、売上高、利益率など、最終的な財務上の指標になって表れるまでには時間がかかります。個人の能力・意識・行動が変わり成果となって表れるまでには、一定の時間を要するためです。
さらに個人の成果が組織の成果としてまとまるには、組織文化の変容、人材配置の適正化、適切な目標マネジメント、会議体のあり方の変化なども含めた、さらなる変数が絡んできます。優良企業と評されるエーザイの元CFO柳良平氏は、次のように示唆しています。(2月29日日経新聞記事より)
「人件費は費用ではなく将来の企業価値を生む投資であると、ESG(環境・社会・企業統治)を重視する長期投資家を中心に考え方が変わってきた。人件費を増やしたら今日株価が上がるのではなく、従業員が働いて貢献し、5、10年後に遅れて事後的に遅延浸透して効果を織り込むものだ」
半年や1年といった短期間で変化となって表れる要素もあるのかもしれませんが、多くの要素は長期間その人的投資を継続することで効果が確認できるものだというのを、上記からも見てとれます。
「人的資源管理」ではなく「人的資本経営」の視点から、長期的な時間軸で人的投資を行っているか。振り返ってみたいポイントだと思います。
【コンサルタント:藤本 正雄】