オリンピック、終わってしまって寂しいです。いまだにハイライト動画も何度も観て、夜更ししてしまいます。いかん…と思いながらも、「仕事に活かせる」というもっともらしい言い訳をしながら楽しんでおります。実際、研修などでよくスポーツを例に出したりしながら話をすることが多いです。
ところが先日、競争戦略がご専門の楠木健教授が、セミナーでこんな発言をしていました。
「よくビジネスは、スポーツに例えられるが、スポーツはゼロサムゲーム。つまり、勝者と敗者に分かれる。ビジネスはいろんな独自の“1”がある中でどれをわが社として選ぶかという点で、本質的にスポーツとは異なる」とのことでした。楠木さんは競争戦略がご専門ですが、競争してライバルに勝つことは、戦略の本質ではなく、いかに独自の貢献をお客さまにお届けできるかであるとおっしゃっているのだと思います。これは、まさにお客さま第一の本質です。
ですので、まったく反論するつもりはないのですが、それでもスポーツとビジネスは似ているし、同じように語れるとも思います。特にチームスポーツにおける組織論は参考になる実践的な考え方が多数あります。ラグビー日本代表チームのキャプテンを務めた廣瀬俊朗さんの著書『なんのために勝つのか』にこんな一節があります。
“勝つチームには大義がある。
これはラグビーに限らず、すべての組織に共通していることではないだろうか。このチームがなぜ存在するのか、という意義を皆で考え、共有できているチームは強い。むしろ、それがないとチームは動かないと僕は思っている。だから、リーダーは、まずその大義を語れないといけない。”
たしかにラグビーというスポーツには勝者と敗者が存在します。ゼロサムです。しかし、「なんのために勝つのか」という大義は一人ひとり異なるし、会社によって異なります。その大義を探求しようと向きあわない限り、“独自”の貢献など生まれるはずもないのです。
「参加することに意義がある」
こちらも近代オリンピックの創立者、クーベルタンのあまりにも有名な言葉です。この解釈をめぐっての話も多くあります。クーベルタンの真意は、勝ち負けは関係ないということではありません。勝とうと戦い努力することが尊いと言っているのです。そこには一人ひとりの物語があります。その人やそのチームにしか紡げない独自の物語です。だから私たちは、勝敗に一喜一憂するのではなく、選手の姿に感動して、ときに涙を流すのです。
その意味において、本質的にスポーツとビジネスは同じであろうと思います。
なんのために勝つのか、私たちの大義は何か、独自の貢献は何か。一流のオリンピアンは、自分のために戦いつつも、周囲への感謝を忘れません。その姿勢に学ぶべく、しばらく夜更かしを続けたいと思います。
【馬場 秀樹】