8月5日に日経平均株価が4451円という過去最大の下げ幅を記録しました。そして、一転、6日には前日比で3217円というこちらも過去最大の上げ幅を記録しました。乱高下したのです。
きっかけは、2日(金)に発表された米国の雇用統計です。予想より悪い数字で、米国経済は予想より悪いと受け止められ、その日のニューヨークダウは一時900ドルを超える下落となりました(終値は610ドル安)。
また、ドル・円レートも4か月半ぶりに146円台まで上昇しました。
しかし、私は、この乱高下は一時的な動きだと思っています。というのも今回の下げは、米景気への不安ということがきっかけですが、2008年のリーマンショックや2020年からのコロナショックのようなはっきりとした理由がないからです。リーマンショックの際には、「サブプライムローン」による異常な住宅バブルが起こっていましたし、コロナショックは世界的なパンデミックによる経済停滞が原因でした。しかし、今回の株価急落はそのような大きな原因がありません。
株価下落、円高進行のきっかけは先ほども述べたように、2日の米雇用統計の発表ですが、弱気筋が一気に株式やドルを売りました。それが東京市場に伝播しました。
機関投資家の中には、ある一定以上株価が下がると自動的に持ち株を売るプログラム売買を行うところがあり、それも下げを加速しました。
また、株式トレーダーの多くは米国の場合だとS&P500、日本ならTOPICSなどのインデックス(指数)と自身のパフォーマンスを比較されます。市場全体が大幅下落する際には、どれだけ早く持ち株を売るかも勝敗の分かれ目になりますから、それがさらに市場全体の売りを加速するという面もありました。
私は株式市場を分析する際には、企業の業績を見るとともに、PER(株価収益率)を大きな参考としています。PERは株価を一株当たりの純利益で割ったものです。
今回の乱高下の直前では、日経平均採用銘柄全体で17倍程度でした。コロナ前はだいたい14倍ほどでしたから、コロナ前よりは上昇していましたが、コロナ明けの景気回復を考えれば、それほど過熱した水準ではありませんでした。
それが、日経平均が大幅下落した5日の終値で13倍台まで落ち込み、6日には14倍台に戻しました。これでようやくコロナ前の水準です。
米国経済はピークアウトしていますが、それでも8四半期連続実質GDPが増加しています。日本も絶好調ではないものの、4-6月までの企業業績は全体的にはそこそこの水準だと私は分析しています。
ドル・円の相場も大きく動きました。一時160円程度まで売られた円ですが、今回の乱高下の際には、一時141円まで円が買われ、その後はこの原稿を書いている時点(9日)では147円程度まで戻しています。
これには、日米金利差による円キャリー取引とその巻き戻しが大きく影響していると言われています。キャリー取引とは、金利の低い円を借りてそれを売ってドルを買い、現状3ヶ月物で5%程度の金利が付く米ドルで運用し、金利を稼ぐ取引ですが、今回はキャリー取引を解消する動きが大量に起こったと考えられます。そのため大きく円高に振れたのです。
日本では、7月末の日銀の政策決定会合で、政策金利が0.25%まで引き上げられました。内田日銀副総裁が「相場が落ち着くまでは利上げをしない」との発言がありましたが、現状2%強のインフレはなかなかしつこいと考えられるので、年末までにもう一度利上げがある可能性があります。
一方、米国は景気拡大のスピードに懸念のあることから9月の中央銀行の会合(FOMC)で0.25ないしは0.5%の利下げが行われる確率は高いと考えます。
いずれにしても、株式、為替相場ともに次第に落ち着いていくと考えますが、しばらくは相場が大きく振れる可能性もあることに注意が必要です。
【小宮 一慶】