インフレ時代の経営計画数値への影響 | コンサルタントコラム | 中堅・中小企業向け経営コンサルティングの小宮コンサルタンツ
loginKC会員専用お問い合わせ

コンサルタントコラム

ホームchevron_rightコンサルタントコラムchevron_rightインフレ時代の経営計画数値への影響

インフレ時代の経営計画数値への影響

時事トピック
2024.09.12

日銀のゼロ金利政策も解除され、徐々に金利が上昇していく気配が漂ってきました。9月の日銀の政策決定会合においても、更なる利上げがあるのでしょうか。現実問題として、先日の731日の利上げ発表は、米国の雇用統計などとのタイミングと重なり株式の記録的大暴落につながりました。そのことを考えると、今のタイミングでの追加利上げは市場の混乱をもたらしかねないため現実的ではないのかもしれません。

しかし、消費者物価指数は20245月~7月にかけて前年比2.52.7%で推移しており、企業物価指数(同2.6%~3.0%)などを鑑みても物価の上昇がみられる状況です。

日本も遅ればせながらデフレ時代からインフレ時代への変化の時にあるようです。

とはいえ、インフレ傾向にあった2021年~2023年の欧米の消費者物価上昇と比べるとまだまだ強さが感じられず、日銀の今後の利上げ動向を考えると現段階でデフレ脱却を明言することもしづらい状況です。

今回はこれからいずれ来るであろう、インフレ時代を踏まえた経営計画の数値的な影響について少し考えてみたいと思います。

①人件費の上昇

人口構造から明らかなように、人手不足が深刻化しており、積み上げも進んでいる状況です。この流れは止まらず、この先もしばらく続くことでしょう。
あと10年程度で、1.5倍~2倍程度の賃上げは覚悟する必要がありそうです。
労働団体の連合は、最低賃金を2035年までに時給1600円から1900円程度の水準までに段階的に引き上げる目標を発表しています。 

現在発表されている最低賃金の2024年度については全国平均で1054円という目安が厚生労働省から示されました。
CAGR(年平均成長率)で言えば、仮に1054円からスタートして10年後に1600円(約1.5倍)となったとすると、4%程度となります。つまり、毎年最低賃金が4%ずつ上昇し続けることが想定されるわけです。
仮に10年後に1900円になる場合には、毎年約6%の賃上げとなります。

これは、あくまで最低賃金の話であり、全ての労働者の賃金がこのように上がっていくわけではないかもしれません。または、逆に付加価値の高い人材の賃金は青天井で上がっていくということもあるかもしれません。

実際に私はお客様と経営計画の策定をする中で、数値計画のシミュレーションをすることが多くあるのですが、その際に今後10年計画を先ほどのように約1.5倍になるように計算して数字を描くと、どれほどの優良企業であったとしても、かなり利益が圧迫されます。

②インフレの粗利(付加価値)に与える影響について

また、その時に合わせて考えなければいけないのがインフレの販売価格に対する影響についてです。賃金だけが上がり、売り上げが一切上がらないと言うことであれば、それは当然賃上げの原資になりません。

しかし、インフレを2%程度と想定して、売り上げの価格と売り上げ原価を同じく2%ずつ上昇させていくと、付加価値に占める人件費の割合にもよりますが、概ね先ほど下落した利益の水準が解消されていくことが見えます。
一方で、実際にそのようになるかと言うと、インフレにより上がる物価を売価に転嫁できなければ難しいことになるでしょう。

インフレの局面において、厳しいのは、すべての会社が売価をあげられるわけではないということです。
世の中の物価全体が上がるものの、商品サービスの価値を価格に転嫁できなければ、利益は賃上げの分圧迫されてしまうことになります。
しかしながら、付加価値をつけた値上げについては、社会情勢的にも認められやすい状況になっています。賃上げにしても、物流コストの上昇にしても、値上げの理由が事欠かないためです。

賃上げをカバーする粗利率上昇割合(売り上げ金額が維持された場合)
=賃上げをカバーするために必要な売上額上昇割合(粗利率が変わらない場合)
=賃上げ率×労働分配率

※労働分配率(付加価値額の中での人件費に分配される割合 ≒ 人件費総額÷売上総利益)

先ほどの、4%賃上げを行った例で言えば、仮にその会社労働分配率が50%とすると、4%の賃上げを支えるためには、粗利率を2%上昇させるか、粗利率が変わらないのであれば売上を2%上げる必要があります。

とてもシンプルなことではありますが、最低でも生み出す付加価値以上の人件費を分配すれば、企業に残る利益は少なくなります。

賃上げ率と同じ売り上げ高の上昇が難しいとしても、上記の粗利率の上昇や、粗利率が上がらない場合には、売り上げ額の上昇を実現させる必要があります。

③その他のコストの上昇

当たり前ではありますが、物流コストをはじめとしてその他のコストもインフレ時代には上昇する傾向にあります。

上記②で、賃上げ分はカバーできたとしても、その他のコスト上昇に係る負担をカバーするために必要な粗利率の上昇、または売上額の上昇幅についても向き合う必要があります。
米国の利下げ観測、日銀の利上げのタイミングなどによって、ドル円相場が円高傾向になることによって、その他コストの上昇が一部緩和される可能性がありますが、為替相場も睨みながら検討する必要があります。

現段階においても、直近の数値でも上記①②③の動きが会計の実績値においても見え始めている状況と考えます。皆さんの会社の実績数値の過去数年間の変化を比較してみていただければと思います。

今後もこの動きが更にエスカレートして継続する可能性もあるものとし、経営計画の数値について検討を進める必要があるでしょう。


お問い合わせCONTACT US

コンサルティング、セミナー、KC会員についてなど、
お気軽にご相談ください。