兵庫県知事選挙における斎藤元彦氏の再選は、現代の情報環境が組織のリーダーシップに与える影響を如実に示す事例となりました。パワハラ疑惑で失職した斎藤氏が、わずか2ヶ月後に再選を果たした背景には、SNSを駆使した効果的な選挙戦略がありました。特に注目すべきは、SNSフォロワー数の急増(3万人から18万人以上へ)と、それに伴う支持基盤の拡大です。
この事例は、リアルな世界での出来事(パワハラ疑惑)と、それに対する既存メディアの報道、そしてSNSを通じた情報拡散の相互作用を浮き彫りにしています。従来のメディアがパワハラ問題を重点的に報じる一方で、SNS上では異なる視点や情報が広がり、結果として有権者の判断に多様な影響を与えました。これは、情報源によって生じるバイアスと、それが世論形成に及ぼす影響を明確に示しています。
この再選の背景には、SNSによる情報の影響が大きく関わっていました。このことは、多角的な情報収集(情報的健康)の重要性を再認識する機会となりました。有権者が既存メディアだけでなく、主にSNSを主とした多用な情報源に接することにより、情報的健康を回復し選挙結果に影響を及ぼしたと言えるでしょう。
しかし、SNSも完全に信頼できる情報源ではないことを忘れてはいけません。
この事例は、「情報的健康」の維持が極めて重要であること示していると言えるでしょう。情報過多の時代において、適切な判断を下すためには、情報的健康を維持することが不可欠です。
情報的健康とは、多様な情報源から適切に情報を収集し、偏りのない判断を下せる状態を指します。SNSやウェブメディアの普及により、膨大な情報に簡単にアクセスできるようになりましたが、同時に「エコーチェンバー現象」のリスクも高まっています。
エコーチェンバー現象とは、自分の考えと同じ意見ばかりに触れることで、その考えが増幅され、偏った見方が強化されていく現象です。
いままでは、世間がテレビや新聞といった既存メディアからの情報によって、情報的健康を得ていると認識していました。一方で、テレビや新聞といった既存メディアの発信意図に左右される健康レベルであったともいえるでしょう。それが、斎藤知事で言えばパワハラ疑惑などであったのではないでしょうか。
今回の知事選においては情報源が多様化した中で、ネット・SNSなどの情報媒体によって情報的健康を補完する動きが作用したと言えるのかもしれません。
一方で、先に述べたエコーチェンバー現象は、ネット・SNSなどのこれからの主流情報媒体に潜むリスクでもあります。自分自身の好みや思想に適合する、より好みに合う情報のみが受動的に届けられる環境を意図しない中で構築される可能性があるため、注意が必要です。アメリカ大統領選においても、ネット・SNSなどの情報媒体が浸透した結果、エコーチェンバー現象により分断が加速したと言われています。
この結果、世の中の人が、相互に違う意見を持った人とのやり取りが減少し、相互に寛容に受け止める心理的姿勢が減退しているようにも思えます。
特に経営者・リーダーがこの現象に陥ると、組織全体の意思決定に悪影響を及ぼす可能性があります。
情報的健康を維持するためには、以下のような方法が効果的です。
・多様な情報源の戦略的活用
SNSやウェブメディアだけでなく、業界紙、専門書、異なる背景を持つ人々との対話など、多様な情報源を意識的に活用しましょう。これにより、新たな視点や機会を発見する可能性が高まります。
・批判的思考の組織文化醸成
経営陣自らが情報を批判的に検証する姿勢を示し、組織全体でこの習慣を育てましょう。これは組織の意思決定プロセスの質を向上させます。
・定期的な情報環境の監査
自社の情報収集・分析プロセスが偏っていないか、定期的に評価する機会を設けましょう。特に重要な経営判断を行う前には、情報源の多様性を確認することが重要です。
・心理的安全性の確保と多様性の推進
組織内で多様な意見を自由に表明できる環境を整えることは、情報的健康の維持に不可欠です。異なる背景や視点を持つ人材の登用も検討しましょう。
情報を受け取る際に素直さと謙虚さを持ちつつ、自社の状況や長期的な戦略を考慮しながら批判的に考察することが重要です。これにより、新しい知見を得ながらも、短期的なトレンドに惑わされることなく、適切な判断を下すことができます。
また、経営者・リーダーでいえば自身の情報的健康を維持するだけでなく、組織全体の情報環境にも責任を持つ必要があります。多様な意見を尊重し、心理的安全性の高い組織文化を醸成することで、より健全で革新的な意思決定プロセスを構築できます。
結論として、情報過多の時代、特に受動的に情報で満たされるネットSNSの時代において、情報的健康を維持することは不可欠な姿勢と言えます。多様な情報源の活用、批判的思考の育成、定期的な自己評価を通じて、バランスの取れた情報環境を構築し、より適切な経営判断を下せるよう心がけるとよいでしょう。これは個人としてだけでなく、組織全体の持続的な成長と競争力の維持にも直結する重要な要素となると思われます。