皆さんの会社には、労働組合はありますでしょうか。「そのようなものはない」と答える方が大半かもしれませんね。かつて隆盛を誇った労働組合も、今では組織率(雇用者数に占める組合員数の割合)が10%台まで落ちてきています。労働組合に所属しているのは少数派だと言うことができそうです。
そのような環境下でも、勢いを増している労働組合もあるそうです。
10月17日の日経新聞記事「変わる労組(上)さらば「正社員クラブ」 パートや外国人も組合員に」を参照すると、イオングループ労働組合では組合員数が20年前の6.5倍の約31万人、有力な団体だと言われるUAゼンセンでは傘下の労働組合の組合員数は10年前から25%増の約190万人になったとのことです。
これらの労働組合に共通しているのは、組織活動の目的を再定義しているということです。
かつて労働組合と言えば、「正社員の、正社員による、正社員の賃上げ交渉ための組織」でした。しかしながら、近年は経営側から組合側の要求を大きく超えるような賃上げを宣言する企業も増えてきました。上記の事例に共通するのは、正社員以外の人材も新たに対象としている、賃上げ以外のことも活動目的にするようになったことです。
例えば、働きがいを高めるために何ができるか、労使が一体となって議論し施策を考える場にする、AIをどのように活用して従業員が付加価値を生み出す役割を担えるかを検討する場にする、などです。このようなテーマを通して、生産性を高めるための労使の対話の場を主な目的と位置づけるなら、労働組合の存在意義は新たに輝き始めるかもしれません。
別の例を挙げると、近年ファミリーデーや運動会などの社員向けイベントを、家族同伴を可にする、あるいは同伴可の範囲を家族に限らず呼びたい人であればだれでも可にする、といったやり方に変えて、活発に行っている企業の事例を聞くことがあります。
これも、「正社員のための慰労の場」「正社員の福利厚生」といった旧来の目的に加えて、「本人がどんな会社でどんな人たちと働いているかを、知ってもらいたい人に共有する場」「本人が大切だと感じる人と企業とがともに楽しむ場」という新たな目的を加えていると捉えることができます。
「家族主義」という言葉を聞くと、「時代遅れ」「成果を出すうえではあまり好ましくないもの」といったイメージをもっている人も見かけられます。しかしながら、例えば京セラでは強い会社になるために大家族主義の経営を目指してきたと言いますし、外資系企業の中にも家族主義を標榜し成果を上げている企業があります。
日本企業は、労使が一体となった協調関係が強みだとされてきました。このことの重要性は今後も変わりません。しかしながら、しばらく前から、日本企業の従業員エンゲージメントが低迷しているなど、労使の一体感にほころびが生じているのではないかと思わせる情報を見聞きする機会も増えています。労働組合など、従来の組織活動の目的を再定義することで、新たな切り口から労使の協調関係を高める場になるのであれば、その組織活動は継続して価値を生み続けることができます。
無意味となったものや無効となった組織活動は、廃止していくことも必要です。そのうえで、「古い」「時代遅れ」といった固定観念で見るのではなく、既存のスキームを活かしつつ、目的を再定義して新たな価値を生み出せるのであれば、存続していくのも大いにありです。周囲の組織活動について、振り返ってみたい視点だと思います。