米国の大統領選挙は大混乱でしたが、バイデン氏が新大統領に選ばれました。トランプ大統領も必死に抵抗を試みましたが、最終的には自身のエゴや醜さを露呈しただけの結果に終わりました。
今回の選挙で、トランプ氏が敗北したのは、もちろん彼の強権的、独断的な政権運営に対する批判も多かったと思いますが、新型コロナウイルス、およびそれに起因する経済後退が大きな要因であることも間違いありません。前回の2016年の選挙では、元々民主党支持者が多かった中西部のミシガン州など「ラストベルト(錆びた地帯)」と呼ばれる自動車産業を中心とする工業地帯でのトランプ氏の躍進が大きかったのですが、それらの地域でも今回の選挙では、バイデン氏が票を伸ばしました。景気後退の影響が大きかったと考えられます。
とくに、雇用の減少が、トランプ氏に大きな打撃を与えたと私は考えています。
世界中のエコノミストたちが常に注目する米国の「非農業部門の雇用増減数」ですが、毎月、15から20万人増加すると、経済は比較的堅調というように解釈されています。
トランプ大統領が就任した2017年から2019年までの3年間でその数は660万人増加しました。月平均では15万人を大きく超える水準を維持してきたので、格差の問題はあるものの、雇用は堅調だったと言えます。失業率も3%台まで低下しました。転職の多い米国では、完全雇用の状態です。経済全体の状態を表す実質GDPも同じ3年間では、年率で2.8%、2.5%、2.3%と比較的順調に推移していました。経済も雇用も堅調だったのです。
ところが、コロナの影響が出始めたころから、雇用情勢は激変しました。今年の2月までは雇用数は増加でしたが、3月、4月と大きく雇用は減少し、とくに4月はひと月で2078万人のマイナスとなりました。私はこの数字を最初に見たときには、発表した人が数字を一桁間違えたのではないかと思ったほどです。先ほども見たように、3年間で660万人と比較的順調に雇用を拡大してきたのが、それがひと月で一気に減少してしまったわけです。
その後、景気が回復するに従い、企業は、レイオフ(一時帰休)した人の再雇用に向かっていますが、5月から10月までの数字を足しても1207万人で、3月、4月で失った雇用の合計2216万人には遠く及びません。いまだにコロナ前と比べて1000万人以上の雇用が減少したままなのです。
失業給付が普段より多く出ると言っても、それがいつまで続くかも分からず、場合によっては、失業状態が長く続くという大きな不安を抱えていては、やはり政権への批判は高まります。
新型コロナウイルスが蔓延するまではトランプ政権の経済運営は、GDP、雇用数という観点からは、結構順調で合格点だったと言えます。それが、コロナの影響で大きく反転してしまったのです。もし、コロナがなかったらという議論はしてもムダなことですが、コロナがなかったら、激戦州では僅差でバイデン氏が勝利した州も少なくありませんから、大統領選挙の結果も変わっていたかもしれません。
いずれにしても、これまでは、コロナ対策にはどちらかというと経済寄りよりも感染防止に動きがちな民主党でした。バイデン氏は2兆ドルという大胆な公共投資を打ち出したものの、コロナが感染拡大を続ける中で、当面は、コロナ対策と経済対策という難しいかじ取りを迫られることは間違いがないでしょう。