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推薦図書 『代表的日本人』『後世への最大遺物』 (内村鑑三/岩波文庫)

経営のヒント
2021.11.26

今週の推薦図書
内村鑑三『代表的日本人』『後世への最大遺物』(いづれも岩波文庫)「われわれに後世に残すべきものは何もなくとも、(中略)あの人はこの世の中に活きているあいだは、真面目なる生涯を送った人であるといわれるだけのことを、後世の人に遺したいと思います。」
※真面目とは、「面目を明かにする」という意味。
⇒しんめんぼく:本来の姿・ありさま。転じて、真価。嘘がなく真剣であること。
⇒その人のほんとうの姿、力を呼び覚ますこと。

 

今週の推薦図書は明治時代のキリスト教徒であり思想家である内村鑑三の『代表的日本人』とその続編、或いはあとがきに相当すると捉えられる『後世への最大遺物』です。
明治43(1908)年に刊行された『代表的日本人』は、正確には明治27(1894)年に書かれた『日本及び日本人』(Japan and Japanese)を巻頭の序論と末尾の小論を除いて改題されて再刊された書です。

 

本書は外国に向けて英文で書かれた日本及び日本人を紹介する初めての書として有名です。その後に海外向けに国際社会の日本に対する理解を深めてもらうために出版された新渡戸稲造の『武士道』(Bushido-The Soul of Japan)や岡倉天心の『茶の本』(The Book of Tea)の先鞭をなす書です。本書の特徴は単なる偉人伝ではなく、読む者にとって一人ひとりの生涯、人生と向き合うことを意図されて書かれていることにあります。かつて第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディが日本の記者に問われて「敬愛する理想の政治家は上杉鷹山」と答えた逸話は有名ですが、これはケネディがこの『代表的日本人』を読んでいたからとされます。

 

現在でも日本人以上にかつての日本の人物から学び、薫陶を得る海外のリーダーは存在しますが、戦前、昭和期にはより多くの精神的影響を与えた日本人が多く存在していました。無論、日本人も本書から多くの薫陶を得てきたことは、稲盛和夫さんが同書の監訳をしていることからも察するに十分です(稲盛和夫監訳『代表的日本人』講談社インターナショナル、こちらも英文と併読出来ておススメです)。

 

【こんな人におススメ】
・論語や孟子などの古典、仏教に書かれた原理原則や道徳の実践事例を知りたい方
・後世に大切な何かを遺したいけれどそれが何かを明らかにしたい方
・無私、利他、誠実、真心を土台にした経営、マネジメントを実践したい方
・自分の人生の使命とは何か、本気で向き合ってみたい方
・人間として温かい心を以って人に接する、人を愛することの本質を知りたい方
・戦前の教育の原点を知りたい
など幅広い方々に読み継いで頂きたい書です。

 

 

【本書の概略】
本書の刊行は日清・日露戦争の時期と重なります。内村は反戦論者でしたが、世界の人々から日本及び日本人が戦争を仕掛けるような猛々しい民族ではないんだ、という誤解を打ち消す意図もあったとされます。弱き者を助け、決して無暗に他国を侵略するような精神の民族ではないことを訴えたかったという時代的背景があります。
『代表的日本人』では5人の歴史上の人物について、その思想と生涯を通じて私たちに生きる道を問いかけます。その5人とは、以下の人物です。生没年と時代区分、そしてどのような役割を担ったかを簡潔に付してみました。

 

①西郷隆盛(1828-1877年:江戸時代末期~明治前期:武士、政治家、軍人)
②上杉鷹山(1751-1822年:江戸時代中期:道徳経営者、変革リーダーの代表格)
③二宮尊徳(1787-1856年:江戸時代後期:報徳仕法農世家、元祖再生コンサルタント)
④中江藤樹(1608-1648年:江戸時代初期:農家出身の儒学者、陽明学者、「近江聖人」)
⑤日蓮上人(1222-1282年:鎌倉時代:仏僧、日蓮宗(法華宗)の宗祖、革命的宗教家)

 

何れも共通点は結果として「変革者」を担ったことです。しかし、前述したように我々庶民とはかけ離れた「偉人」として読むのではなく、あくまで同じ一人の人間として読んで頂くことをお奨めします。西郷は薩摩の貧しい下級武士、鷹山は困窮し尽くし荒廃した領土を任された新参者、尊徳は幼くして貧困の中で育ち自ら一家四人を養い、中江藤樹もまた農民の子、そして日蓮は漁民の子です。

しかしながら、現在に至って本書を読むことは一人の人間として持つべき正しい考え方や行いを学ぶと同時にリーダーとして磨くべき人間学の書とも言えます。

 

因みに本書では5人のことを次のように称して紹介しています。
① 西郷隆盛:新日本の創設者
② 上杉鷹山:封建領主
③ 二宮尊徳:農民聖者
④ 中江藤樹:村の先生
⑤ 日蓮上人:仏僧

 

 

【主な内容、そして『後世への最大遺物』について】
『代表的日本人』は5人の生涯のエピソードを通じてその思想と実践を論じた書です。
ここに紹介される5人についてそれぞれ紹介するのは紙幅の関係上ここでは叶いませんが、誠意、利他、愛情、無私、真心、損得や優劣ではなく誠実さによる生き方、経営のあり方、人財を活かす思想と方法を学ぶことが出来ます。

また共通して「変革者」とはどのような思想、実践を求められるのかについても大変有益な書です。一貫して流れる思想は東洋思想の「富とは全て徳の結果である」という考え方に帰結します。

 

本書が書かれた時代背景としてこの明治後期は即物的なものが良しとされつつあった時代です。これを嘆いて『論語と算盤』を表したのが渋沢栄一です。内村の訴えたかったこともまた「目には見えないものを見つめよ」との思いという意味で似ています。勝ち負けではない人生と経済、その道を示したかったのではないでしょうか。この辺りの内村の思いは、同時期に表された青年たちへの講演録である『後世への最大遺物』を併せてお読み頂くと本質が見えて来るものと思います。特に『代表的日本人』では日蓮については内村の宗教家としての共感を以って精神的自叙伝的に描かれていますが、その続編として捉えられる『後世への最大遺物』はさらに深い人生への問い、『代表的日本人』の表そうとする人間としての正しい生き方を投げかけます。

 

本書では誰もが、一人ひとりが後世に何かを残せるのだと問いかけます。具体的には、金銭、事業、思想、或いはこうしたものがなくても遺せるものがある、それが「高尚なる勇ましい生涯」「真面目なる生涯」だと説きます。一部引用しますと、
「この世の中は失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信ずることである。
この世の中は悲嘆の世の中であらずして、歓喜の世の中であるという考えをわれわれの生涯に実行して、その生涯を世の中への贈物としてこの世を去るということであります。」

 

つまり、人間が残し得る最高の遺物が「生涯」である、と内村は語っています。
また、今の若者たちに足りないものとして、次のように語ります。
「今次の弊害は何であるかといいますれば、なるほど金がない、われわれの国に事業が少ない、良い本がない、それは確かです。けれども、私が考えてみると、今日第一の欠乏はLIFE 生命の欠乏であります。」
ここでいうLIFEとは、自分と他者、自分と超越(天)、自分と歴史(故人と時間)と向き合うことだと解釈されます。このことは現代と似た状況だと捉えることが出来ると個人的には感じています。また個人的な話になりますが、私の使命を決定づけた文章が本書にはあります。その一文を以って推薦文を閉じたいと思います。

 

「われわれに後世に残すべきものは何もなくとも、(中略)あの人はこの世の中に活きているあいだは、真面目なる生涯を送った人であるといわれるだけのことを、後世の人に遺したいと思います。」
ここでいう「真面目」とは、元はしんめんぼくとも読み、「面目を明らかにする」という意味です。辞書を引くと「しんめんぼく(真面目)」とは、「本来の姿・ありさま。転じて、真価。嘘がなく真剣であること。」などと書いてあります。その人のほんとうの姿、力を呼び覚ます、つまりその人が持っている強みを活かし、それを世の為人の為に尽くす人生、そうしたことを言っているのではないでしょうか。こうした内村の思いを念頭に、『代表的日本人』に描かれる5人の生涯と向き合って頂ければ幸いです。是非ご一読を。忘れてはならない、各々にとっての後世に遺すべきものは何か、それが見つかることを祈願いたします。


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