とあるオーナー系企業で、全社員数50名弱、新卒採用も行い毎年20代の若い社員が数名入ってくるところでのことです。考えごとをしてペーパーワークする専門サービス業で、生産“設備”は人という業種。
その会社では毎月曜日に全社員朝礼をして、ミッション・ビジョンなどの唱和、チームごとの予定共有、事務連絡、社長の一言という大きく4つを行っていました。
ある日の朝礼でのことです。
朝礼を締めくくる「社長の一言」の中で、各自が自由に使ってよい事務用品(ノート、ペン類等)の使い方についての苦言がありました。苦言に至った背景は推測ですが、販管費を削減したいところ、毎月の消耗品費(絶対額)が高い・増えていたのだろうと思います。
一言の最後に、苦言の理由として、冒頭の「俺の財布で買っているから…」ということをこの言葉どおり付け加えたのです。
これを聞いた人はどのように思うでしょうか。
創業オーナーなので発言したい気持ちは理解するけれども、「根底のところではこの考えが支配的なのだな。事務用品に限らず、一事が万事、社員給与すら、そういった見方をしているのだな。発言自体も不用意ではないか」なのかもしれません。
この場面から感じたことを二つお伝えしたいと思います。
①表面的な事象だけを捉えて短絡発想しない
この業種は、ノート・ペン類は生産にとっての投入資源でもあります。考えごとをする仕事のため、これらの消費は総思考量が増えた結果なのかもしれず、むしろ喜ばしいことの可能性もあります。もし苦言を述べるならば、売上高や仕事量・単価との比率、一人当たり数値などで事実を押さえ、それも示しつつ説得的に社員に述べるべきでした。おそらく事実も押さえていなかったのだろうと推測します。
どういった場面であれ、事象の背景に事実をもって迫っていくことは、より適切な打ち手を取るために大切だとあらためて思います。
②社員は会社を去るし、去らないまでも働きがいなどは容易に下がる
この業種は人材の流動性がとても高いところである一方、多くの会社はマネジメントもできてプレイヤーとしても動ける「いい人」をなかなか採用できず慢性的に不足。「いい人」ほど移りやすいものの、来ないところにはなかなか来ません。そうした特性を理解していれば、現有スタッフのリテンション(ここでは優秀な人材の流出防止の意)に気を配るべきで、前述の発言は不用意だと思います。
また、流動性が高くなかったとしても、それは「他社への移動」という目に見えた事象が発生していないだけで、その後の働くモチベーションや会社への帰属意識・ロイヤリティが下がっていることは想像できます。いずれにしても、もたらされる結果は会社にとって良いことではありません。
社長自身がどのような思想・考えをもち、そして社内コミュニケーションを図っていくかは、経営の希少資源である人材のあり様を容易に変え得るということを強く意識して行動することが大切だと思います。
冒頭の場面で、本人にしてみれば“ついポロっと”の発言なのでしょう。
しかし、それが本心だと、聞く人は聞いて冷静に見ています。無意識のうちに経営のリスクになるような言動を取っていないか、周囲から教えてもらうなど点検してみるのもよいのかもしれません。
筆者注)冒頭で挙げた場面やその後の行動は、私がかつて経験したものです。