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「前向き×生産的」な議論がベストなのか

経営のヒント
2022.12.30

先日ある方から、会議の参加者に対して「前向きかつ生産的な議論をしよう!」と呼びかけているという話を伺った。聞いたその場では、ともに大事な要素(前向き、生産的)だなと感じたわけだが、いざ考えてみると、具体的にはどういうことなのか、呼びかけられた側はこれを聞いて自分がどうアクションしたら良いのか明確になるのだろうかと疑問に思った。

スローガンとしての聞こえはよいが、実効性をもつのだろうか、と。

 

この2つの要素は、「かつ(and)」で結んでいるものの、同じことを指しているように、つまり独立していないようにも思えてくる。皆さまはどのように考えられるだろうか。

 

用語定義を行うなどして自分なりに整理してみたのでお伝えしたい。

 

まず、対義語を置くことで輪郭を明確にしたい。

「前向き」は「後向き」、「生産的」は「破壊的」とした。後者については「非生産的」もあるが、敢えて別の単語で考えてみた。その上で、言葉の運用を大胆に考えてみると、次の表の感じだろう。

①は多義的なので様々な運用があるが、1つ分かったことは、②は気持ちや姿勢、解釈の場面ではあまり使われないということ。つまり、他者とのコミュニケーションの場面でしか登場しない(自分の中に第三者を置き、そこと対話するという難しい議論は除く)。

 

次に、場面を「複数人が集まって議論する場(≒会議)」と限定しておきたい。

その上で、そもそも「複数人での議論」とはどのようなフローだろうか。

大まかに言って、次のような3段階の流れだろう。複数人で議論するということは、議論の出発点とゴールについて相互に了解していないと成り立たない。そこの合意があったうえで、ネクストアクションの立案と、どれをチョイスするかに資する評価(比較など)があって、ようやく選択・合意があるはずだ。

 

上記フローと合わせ、対義語のところで見た点も勘案して、次のように定義してみた。

 

理解のため、上記定義での例を挙げると、①は「コップに入った水」。コップの深さの2割まで水が入っている時にそれを「まだこれだけある」と捉えるのか、「もうこれしかない」と捉えるのか。

②は、たとえば、アクションの討議が佳境に入ったり、合意しようというタイミングでの「そもそもさあ…」というちゃぶ台返しや、討議目的と関係ない話を持ち出したり、自分の思いのたけを独演して有限な会議リソースを浪費してしまうものなど。

 

さて、①と②の2つの軸の組み合わせで、会議がどのようになるのか想定してみると、次のような傾向があり得そうだ。“破壊的”であると、前向き/後向きいかんを問わず、議論が前に進まない。会議時間だけがかかり、目的としていたことが議論できないまま終わる、ということもあるだろう。

 

 

本稿のタイトルに対する結論は、「前向きである必要は必ずしもないが、生産的である必要はある」ということ。

 

事業環境が大きく素早く変化し得る今を考えると、議論参加者全員がポジティブ過ぎると現状を都合のよいように過大評価したり、思わぬリスクを見落としたりすることもあるかもしれない。だとすると、生産的でさえあれば、むしろ後向きのスタンスの人や発言も歓迎すべきではないかと思う。「生産的」かどうかは個々人の(議論に臨む)意識や議論スキル、会議主催者のファシリテーション能力に依るところが大きく、議論や意思決定の質という観点では、複数人で議論する際は前向きと後向きの双方が入り混じっている方がよいのではなかろうか。会議のまとめ役は大変だと思うが、敢えて、「後向きのスタンスも大いに結構!」と呼びかけることの方が大事かもしれない。

 

最後に、言葉遊びかもしれないが、1点ほど補足しておきたい。

議論フローを押し進めない発言(=上記定義上は“破壊的”)はよろしくないが、これまでの事業やその前提を全否定するような「破壊的」な意見を生産的に述べて議論するのは、時には有益だということ。たとえば代替品の登場。新技術の登場で旧来の市場が急速に縮小していくことはこれまでも様々なところであった。あるいは、規制の強化もしくは緩和。強化によって自社の技術・製品が流通すらできなくなっていくことはあるし、逆に緩和によって、守られていた市場が大競争時代に入っていくこともある。

後向きに捉えることの延長線で、「今はよくてもこのままではまずい」という危機感から、よりよい議論になるかもしれない。


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