最近、新聞紙面やニュースなどで、イランでの軍事衝突を背景とした「スタグフレーション」という言葉を目にするようになりました。本項では、スタグフレーションについて解説したいと思います。
「スタグフレーション」は、「スタグネーション(不況)」と「インフレーション(物価上昇)」を組み合わせて出来た合成語で、景気後退とインフレが同時に進行する状況を指します。
通常、景気が悪いときは、世の中全体で需要が減るため、物価上昇は鈍化しデフレ傾向になります。しかし、資源や素材価格の高騰等を背景に仕入れ価格が上昇し、諸物価が上がるような状態、すなわちコストプッシュ型のインフレが起こると、不景気の中でも物価上昇が発生することがあります。これがスタグフレーションです。景気が悪い中でもモノやサービスの値段が上がっていくため、国民生活にとって大変厳しい状況になります。
今般のイラン情勢による原油価格の高騰は、スタグフレーションを引き起こしかねない危険な状況と言えますが、これに対して頭を悩ませているのが日銀です。日銀は、政策金利の上げ下げを通じて物価や金融システムの安定を図っていますが、今の状態は上げるのも下げるのも慎重にならざるを得ない、難しい状況です。
現在上限0.75%の政策金利は世界的に見ても低く、低金利が円安の一つの要因にもなっていますので、日銀としては適正な水準まで引き上げたい、というのが本音だと思います。利上げは、円高や貸出資金の減少等を通じ、物価上昇を鎮静化する方向に働きますが、一方で借り手側にとっては金利負担が重くなるため、景気を下押しする可能性があります。また景気動向が支持率を左右する政府から、利上げを容認しない圧力がかかる可能性もあります。
逆に、金利を低い水準で維持あるいは引き下げれば、貸出資金の増加などを通じ、一時的に景気は下支えできるかもしれません。しかし、それによりさらなるインフレ高進を招きかねず、かえって状況が悪化する可能性もあります。
このように、スタグフレーションを回避するため、利上げ・利下げどちらにしても難しい舵取りを迫られているのが日銀の状況ですが、他国も状況は同じです。特に欧州に関しては、ECB(欧州中央銀行)は金利据え置きか利上げか、という議論をしている旨が報じられており、一時的な景気後退があったとしてもインフレ抑制を優先している姿勢がうかがえます。ECBの政策金利は現状2.15%ですから、そこから利上げとなれば、日本の政策金利0.75%との差がさらに開いてゆくことになります。そうなれば円安・ユーロ高が一層進みかねず、日本は輸入物価の上昇を通じてさらにインフレが加速する懸念もあります。
こうした状況を防ぐためにも、日本としては、まず利上げを通じ円高に持っていくことが必要ではないかと自分自身は考えます。本コラムの配信は日銀金融政策決定会合の日になりますが、政府の圧力等を跳ねのけ、どこまで胆力をもって日銀が利上げの道を進めるか、それがスタグフレーションを回避する上で注目すべき点ではないかと思います。