今週の8月2日の日経新聞一面の記事に「最低賃金31円上げ961円」 とありました。
物価高で過去最大の上げ幅ではあるものの、あくまで足元で進む物価上昇に押し上げられた結果の伸びであり、企業そのものの付加価値が上がっていない中での賃金の上昇でしかありません。
あらためて、マーケティングとイノベーションにより付加価値を上げ、生産性を上げることの大切さが実感されます。
そこで今回は、経営においてテンポよくチャレンジすることについて書いてみたいと思います。
個人も会社もチャレンジをすることに臆病すぎるかもしれません。
結局会社も個人の集合体なので、会社を構成する個人がチャレンジに臆病ということだと思います。
テンポよくチャレンジをして、テンポよく失敗をする(もちろん成功も)ことが組織力を強化する上でとても大切だと私は考えています。
なぜそう思うのか、それはきれいごとではなく組織にとってマーケティングとイノベーションを実践するために必要不可欠なことであり、組織能力を上げるための具体的なトレーニングでもあるからです。
●チャレンジしないと成功できない
失敗という定義そのものが問題なのかもしれませんが、失敗を経なければ成功はできません。ここで言う成功とはお客さまや世の中に選ばれてしっかりと利益が出ている状態です。
なぜ失敗をしないと成功できないのかというと、今の世の中は以前のように理論を積み上げてやってみて、理論通りに当たることがなかなか想定しづらい世の中になっているからです。要はVUCAな世の中ということです。
こう言ってしまっては身も蓋もないかもしれませんが、つまりやってみないとわからないからです。
今まで提供していなかった商品サービスを、お客さまに提供する場合にはお客さまのセグメンテーションをして、どのような価値観があるかそして競合他社に対してどのような優位性で選ばれるのかということなど一通りの検討はしますが、最終的には売ってみないとわからないということもあります。
やってみないと、チャレンジしてみないとわからないことが山ほどある中で、人は以下に述べるような損失回避性によってチャレンジをしない傾向にあります。
もちろん、考えてみれば当たり前の失敗をする事は避けなければならないのでその程度の事前の検討は必要です。
「勝ちに不思議の勝ちあり負けに不思議の負けなし」と言われるだけあって、論理的に破綻していればほぼ必ず失敗します。
ただ、やってみなければ情報が得られない中で、やる前から論理的に確実に決断を下せるほどの情報は入ってきません。「勝ちに不思議の勝ちあり」とあるため、理由はわからずとも成功することもあるわけです。
●失敗を恐れる気持ちとプロスペクト理論
人間は投資においても利益を得るよりも損失を出すことを恐れる損失回避的な性質を持っています。
これはプロスペクト理論と言われています。
原始時代から人間は、大きな獲物を得るよりも、大きなリスクを回避した方が生存確率が高かったために人間の遺伝子に組み込まれた特性ということのようです。
行動経済学の理論ですが、これを深く学ぶにはダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」と言う書籍が秀逸です。上下巻ある割と長い書籍ですが、読んで損なしです。
「ファスト&スロー」は、人間の脳にある2つの思考の特性を表した表現です。
人間にもともと備わった直感的で感情に根ざす早い思考(システム1)と、合理的で努力を要する遅い思考(システム2)に分かれるということで、人間は特に思考努力をしなければ早い思考、システム上に基づいて直感的な判断をしがちなのですが、その場合には先程のプロスペクト理論によるような損失回避的な判断をしがちであるということです。
簡単にいうと、1+1= と聞かれたらシステム1でこたえられますが、53×11= と聞かれたらシステム2を動員しなければ答えられないということです。1+1= 的にパッと浮かぶ直感反応で損失を避ける動きをしているわけです。
人間には損失回避性が優先される行動原理が組み込まれているので、「だったらそれで仕方ないじゃないか」というわけではありません。
本当はそういう性質があるのだということを自覚しながら、人間に組み込まれた行動原理によって判断のバイアスがかかっていることを自覚しながら判断をすることが大切なのだと思います。
●失敗で学べる要素
経営において失敗で学べる事は以下の通りと考えています。
①今までやっていなかったことをやるという意思決定経験
②今まで提供していなかった商品サービスを提供する(マーケティングとイノベーション)という経験
③失敗を認めて撤退または軌道修正するという意思決定
そして、更に言えば、その失敗を糧に
④チャレンジ・失敗をたたえる組織メンタリティ
⑤失敗から学び、経営全般、次のアクションに活かすPDCA組織能力
も身につけられれば最高です。
●攻めと守りの両輪が大切
もちろん無尽蔵にチャレンジして失敗し続けていいわけではありません。
失敗のセーフティーネットになる財務規律の考え方も踏まえて、どこまでならば投資できるか、最悪失敗したとしてもどこまでならば耐えうるかといった財務的な見通し、ダウンサイドリスクの認識が大切なことは最後に補足しておきます。
チャレンジという攻めと、両輪となる守りの部分ですね。この部分は別の機会にお伝えできればと思います。